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25 両親との再会

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 その日の夜、サリクスはノエルと共に王都へ戻ってきた。
 通常ならば馬車で十日、優秀な魔法使いが使い魔で飛ばしても二日かかる距離だ。それをノエルは連れてきた魔法士と交代で強引に半日で進ませた。
 おかげでろくに休憩が取れず、サリクスもこき使われた魔法士も疲労している。ノエルだけはいつも通りで、魔法士を帰らせた後、サリクスと共に馬車に乗った。街中では、魔法による飛行は危険なため禁止されているからだ。

「あと少しで公爵家だ」

 二人きりの馬車の中、ノエルの言葉でサリクスは窓を見た。
 見慣れた屋敷が目に入る。二か月、いや三か月ぶりか。長いようで短い期間だ。もう二度と戻らないと思っていたのに。
 サリクスは外を見ながら、ノエルに言った。

「ヘレナとは、まだ恋仲なのですか?」

「……君には関係ないだろう」

「愛し合っているのを理由に婚約をやめた方の台詞ではありませんね」

「随分と口数が増えたな。私はうるさい女が嫌いだと教えたはずだが」

「だから話しかけているのですが」

「………」

 ノエルが鼻白んで黙ると、ガタンと馬車が止まった。
 御者が目的地に着いたことを告げ、扉を開ける。二人は無言で馬車から降り、セントアイビス家の屋敷へ入った。

(絶対に公爵家には戻らない、とお父様達に伝えなければ……)

 サリクスは、家族にきっぱり別れを告げようと決心していた。
 出迎えにくる三人に、サリクスは身構えた。今まで屋敷に帰らなかったことを批難され、頬をぶたれると思ったからだ。

「サリクス! 無事だったのね!」

 だが、サリクスの予想に反して、二人を彼女を責めなかった。それどころか、ルージュはサリクスを抱きしめ、安堵して涙を零していた。
 困惑するサリクスを見て、クラフトがノエルに礼を言い、ホッと胸を下ろした。

「ああ、よかった。大きな怪我もなさそうだ。本当に、無事でよかった。サリクス」

「お父様、お母様、私は」

「なにも言わなくていいの。サリクス。疲れたでしょう、今日はもう休みましょう」

「い、いいえ。結構です。私は、別れに告げにきただけです! 家に戻る気はありません」

 サリクスはルージュを引きはがし、距離を取った。
 サリクスの反抗に、ルージュとクラフトはショックを受けているようだ。その様子に、ヘレナがあからさまに苛立つ。

「お姉様。お父様とお母様は、お姉様の身を案じて、ここ数か月はろくに食事すら取っていなかったのですよ。そんな態度、二人に酷というものではないでしょうか」

 ヘレナの言う通り、ルージュとクラフトはサリクスの記憶より幾分か痩せていた。顔色も悪い。ルージュの目の下には、化粧で隠しきれない隈ができていた。
 自分の言動で傷ついている両親の姿に、サリクスの良心が痛んだ。威勢が削がれ、決心が鈍る。

(確かに、二人には心配をかけたかもしれない。でも、私は……)

 場に沈黙が落ちる。見兼ねたノエルが、彼らの会話に口を出した。

「サリクス。家に戻る気はなくとも、もう夜も遅い。詳しい話し合いは明日にしろ。一晩泊まるぐらいなら、君も我慢できるだろう」

(あなたが無理やりこんな時間に連れてきたくせに)

 サリクスはじろりとノエルを睨んだ。彼から助け舟を出された両親は、ここぞとばかりに賛同する。

「そうだ、サリクス。こんな夜更けに出歩くのは危険だ。今日はもう休みなさい」

「お話は明日にしましょう。だからサリクス、お願い、家を出るなんて言わないで……」

「……わかりました。殿下の言う通り、今日は泊まらせていただきます」

 サリクスは苦虫を嚙み潰したような顔をして、渋々ノエルの提案に乗った。
 今、強引に別れを切りだしても二人は応じないだろう。また誘拐事件扱いされて、ユーカリに迷惑をかけても困る。
 サリクスはルージュに進められた通り、先に部屋に戻ることにした。
 ノエルに別れを言って、階段を上ろうとした時、すれ違ったヘレナに嫌味を吐かれる。

「お姉様はいいですね、迷惑かけても心配されて。羨ましいです」

「………」

 サリクスはヘレナを一瞥したが、何も言わず自室へ戻った。

(迷惑……そうね、きっと迷惑をかけているわ。たくさんの人に)

 サリクスはそっと髪飾りに触れた。

(それでも、自分の意思を通したいのは、我儘なのかしら……私が、間違っているのかな……)

 耳の横に付けているピンを外し、手に取る。
 青いビーズはサリクスの顔を映すだけで、彼女の疑問に何も答えなかった。
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