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02 サリクス・セントアイビスという少女
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サリクスは幼い頃から、王妃になるためだけに育てられてきた。
サンベリア王国は、代々魔法によって栄えてきた国だ。
元々、魔法は扱える者とそうでない者にわかれ、能力の優劣も血によって差がついていた。
希少な魔法使いは、子供も希少な魔法を使えるようになり、優秀な魔法使いは、親も優秀な魔法使いだったということだ。
そのような性質があったため、おのずと、魔法が扱える者は王侯貴族に集中し、より魔法に長けている者同士で結婚させる慣習が出来上がった。
特に、王族の配偶者は血筋を重視された。
本人の能力のみならず、その親兄弟はもちろんのこと、果ては親戚や三世代以上に渡って優秀な魔法使いの家系であるか調査される。
決められた水準以下ならば、例え他の能力がどれほど秀でていても、結婚相手に選ばれることはない。
そうして長い年月、厳しい条件のまま王族の配偶者を選んでいると、やがて四つの公爵家から選出されるのが当たり前になった。
そのうちの一つが、サリクスの生家——セントアイビス公爵家だ。
他三つの公爵家に比べ、セントアイビスには直近で輝かしい功績がなかった。
強いていうなら、サリクスの高祖父が隣国との戦争で活躍したぐらいである。
彼女の父や母、祖父と祖母も、そのまた上も、目立った手柄を上げていない。その兄弟姉妹も同様だ。
加えて、ここ何世代も王妃・王配を出していないのも響いた。セントアイビスは他の公爵家と比較され、落ち目だと社交界で揶揄されるほど侮られていたほどだ。
このまま評判が悪くなれば、爵位の降格もあり得るかもしれない。
焦ったサリクスの両親は、何としても自分たちの子供を王族に、少なくとも手柄を上げさせなければならない状況だった。
そんな中、サリクスは精霊が見える目を持って生まれてきてしまった。
物心ついたときから、彼女は精霊と遊び、彼らの力を借りることができた。サリクスは、精霊使いという希少な魔法が扱えたのだ。
数十年に一度しか現れない能力の持ち主を、彼女の両親が利用しないはずがなかった。
セントアイビス公爵夫妻は、長女であるサリクスに英才教育を受けさせた。
魔法はもちろん、算学、歴史、語学、古文、天文、物理、教養から礼儀作法やマナーに至るまで。あらゆる教師を呼び、王妃に相応しい学と礼儀を身に付けさせようとしたのだ。
サリクスも幼いながら、両親の期待に応えようと努力した。
おかげで、彼女は同年代の少女達に比べて抜きん出て優秀だった。
魔法使いとしても、貴族令嬢としても、四つある公爵家の中で、サリクスの右に出る者はいなかった。
だが、それでも公爵夫妻は安心できずにいた。自分達には大きな実績が無い。
それが足を引っ張り、サリクスが王妃になれないのではないかと不安になったのだ。
二人は己の平凡さのせいで、公爵家名誉回復の最大の機会を逃すのではないか恐れていた。
そんな不安を塗りつぶすかのように、彼らはサリクスへの教育がどんどん過激になっていった。
王妃選びで重視される魔法の授業を増やすのはもちろんのこと、学問やマナーも今まで以上に厳しく躾けた。
外見も気にし、サリクスは太りやすい体質だったため、食事制限もさせた。
それでも公爵夫妻の不安は拭えず、果てに二人は、サリクスの嗜好までも制限し始めた。
最初は、ままごとで遊んでいた人形だった。
「サリクス。貴方はいずれ王妃になる女性なのよ。遊んでいる時間なんてないわ。そんな人形、捨ててしまいなさい」
次は、繰り返し読んでいた冒険物語だった。
「サリクス。王妃となる淑女が、男が好むような本を読むな。今日から休み時間には、歴史書や魔導書を読みなさい」
その次は、仲の良かった家庭教師であった。
「サリクス。あの教師はダメだ。お前の才能を全く引き出せていない。違う教師を手配しよう」
「ええ、そうよ、あなた。サリクスは王妃になれる素質があるもの。もっとあの子に相応しい先生をお呼びしましょう」
お気にいりのリボンがたくさんついたドレス、似合わないからもう着るなと言われた。
見えるものを気ままに描いたキャンパス、そんな暇はないと捨てられてしまった。
手遊びで編んでいたマフラー、不恰好だから手芸はもうするなと燃やされた。
甘い花の匂いがする香水、王子が嫌がるから違うのを渡された。寝るときに抱いていたぬいぐるみ、王妃になるのにみっともないと没収された。こっそりおやつをくれた優しいメイド、あの子を太らせる気なのかと辞めさせられた。
息抜きも大事だと授業を休みにした歴史の教師も、気があって話していて楽しかった伯爵家の女の子も、頑張ってくださいと励ましてくれた庭師見習いの男の子も。
甘やかしている、王妃の友人に相応しい家柄でない、万が一にも間違いがあってはならない——と、全て、サリクスから奪われてしまった。
サンベリア王国は、代々魔法によって栄えてきた国だ。
元々、魔法は扱える者とそうでない者にわかれ、能力の優劣も血によって差がついていた。
希少な魔法使いは、子供も希少な魔法を使えるようになり、優秀な魔法使いは、親も優秀な魔法使いだったということだ。
そのような性質があったため、おのずと、魔法が扱える者は王侯貴族に集中し、より魔法に長けている者同士で結婚させる慣習が出来上がった。
特に、王族の配偶者は血筋を重視された。
本人の能力のみならず、その親兄弟はもちろんのこと、果ては親戚や三世代以上に渡って優秀な魔法使いの家系であるか調査される。
決められた水準以下ならば、例え他の能力がどれほど秀でていても、結婚相手に選ばれることはない。
そうして長い年月、厳しい条件のまま王族の配偶者を選んでいると、やがて四つの公爵家から選出されるのが当たり前になった。
そのうちの一つが、サリクスの生家——セントアイビス公爵家だ。
他三つの公爵家に比べ、セントアイビスには直近で輝かしい功績がなかった。
強いていうなら、サリクスの高祖父が隣国との戦争で活躍したぐらいである。
彼女の父や母、祖父と祖母も、そのまた上も、目立った手柄を上げていない。その兄弟姉妹も同様だ。
加えて、ここ何世代も王妃・王配を出していないのも響いた。セントアイビスは他の公爵家と比較され、落ち目だと社交界で揶揄されるほど侮られていたほどだ。
このまま評判が悪くなれば、爵位の降格もあり得るかもしれない。
焦ったサリクスの両親は、何としても自分たちの子供を王族に、少なくとも手柄を上げさせなければならない状況だった。
そんな中、サリクスは精霊が見える目を持って生まれてきてしまった。
物心ついたときから、彼女は精霊と遊び、彼らの力を借りることができた。サリクスは、精霊使いという希少な魔法が扱えたのだ。
数十年に一度しか現れない能力の持ち主を、彼女の両親が利用しないはずがなかった。
セントアイビス公爵夫妻は、長女であるサリクスに英才教育を受けさせた。
魔法はもちろん、算学、歴史、語学、古文、天文、物理、教養から礼儀作法やマナーに至るまで。あらゆる教師を呼び、王妃に相応しい学と礼儀を身に付けさせようとしたのだ。
サリクスも幼いながら、両親の期待に応えようと努力した。
おかげで、彼女は同年代の少女達に比べて抜きん出て優秀だった。
魔法使いとしても、貴族令嬢としても、四つある公爵家の中で、サリクスの右に出る者はいなかった。
だが、それでも公爵夫妻は安心できずにいた。自分達には大きな実績が無い。
それが足を引っ張り、サリクスが王妃になれないのではないかと不安になったのだ。
二人は己の平凡さのせいで、公爵家名誉回復の最大の機会を逃すのではないか恐れていた。
そんな不安を塗りつぶすかのように、彼らはサリクスへの教育がどんどん過激になっていった。
王妃選びで重視される魔法の授業を増やすのはもちろんのこと、学問やマナーも今まで以上に厳しく躾けた。
外見も気にし、サリクスは太りやすい体質だったため、食事制限もさせた。
それでも公爵夫妻の不安は拭えず、果てに二人は、サリクスの嗜好までも制限し始めた。
最初は、ままごとで遊んでいた人形だった。
「サリクス。貴方はいずれ王妃になる女性なのよ。遊んでいる時間なんてないわ。そんな人形、捨ててしまいなさい」
次は、繰り返し読んでいた冒険物語だった。
「サリクス。王妃となる淑女が、男が好むような本を読むな。今日から休み時間には、歴史書や魔導書を読みなさい」
その次は、仲の良かった家庭教師であった。
「サリクス。あの教師はダメだ。お前の才能を全く引き出せていない。違う教師を手配しよう」
「ええ、そうよ、あなた。サリクスは王妃になれる素質があるもの。もっとあの子に相応しい先生をお呼びしましょう」
お気にいりのリボンがたくさんついたドレス、似合わないからもう着るなと言われた。
見えるものを気ままに描いたキャンパス、そんな暇はないと捨てられてしまった。
手遊びで編んでいたマフラー、不恰好だから手芸はもうするなと燃やされた。
甘い花の匂いがする香水、王子が嫌がるから違うのを渡された。寝るときに抱いていたぬいぐるみ、王妃になるのにみっともないと没収された。こっそりおやつをくれた優しいメイド、あの子を太らせる気なのかと辞めさせられた。
息抜きも大事だと授業を休みにした歴史の教師も、気があって話していて楽しかった伯爵家の女の子も、頑張ってくださいと励ましてくれた庭師見習いの男の子も。
甘やかしている、王妃の友人に相応しい家柄でない、万が一にも間違いがあってはならない——と、全て、サリクスから奪われてしまった。
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