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05 学術都市ラプラス
しおりを挟む学術都市ラプラス。人口約二千万人、そのうち七割が就学児で構成された、システィリア神国最大の教育機関である。
この都市に点在する学園は全て、最先端の設備と学問、最高質の教育が取り揃えられている。それゆえ、どの学園も入学者に求めるレベルが高くなるが、その分卒業後は「ラプラス出身者」というだけで箔がつくと言われている。
中でも、四大名門と呼ばれる、ルフェニラ魔術学園、イーグル騎士学校、アウトジック法学院、カロリーナ芸術学校は、数多の偉人を輩出しており、ラプラスきっての人気校であった。
都市への滞在条件は、就学者は十二歳以上十八歳以下、自分と両親の戸籍や年収の提出、入学予定の学園から在学証明書を発行してもらうこと。就労者は十九歳以上七十歳以下、指定された紹介状を持ってくること、そして審査を受け基準を合格した者のみ滞在できると定められている。
また、物資の輸出入も、許可書がなければ都市の関門に荷が運び込まれることも許されず、中身を厳重にチェックし、申請されたリスト通りでなければ弾かれた。
ここまで人や物の出入りを制限するのは、学術都市の成り立ちから、有力者の子息子女が多いことに由来している。
ラプラスは、元々、貴族の子息子女が、天帝のお膝下で高貴なる者として相応しい教養を身につける、という目的で作られた都市であった。
しかし、百五十年前に行われた大規模内乱と稀に見る天災が相まって、国内の生産力は著しく低下し、多くの貴族が弱体化、代わりに外国と盛んに貿易していた商人が台頭し始めた。商人の勢いはとどまることを知らず、十数年で貴族と拮抗する勢力となり、そのまた数年後には貴族優遇措置を撤廃し、貴族院の議数の半減や市場の独占、領地による関税を廃止させた。
こうした貴族衰退の煽りを受けた一つが、学術都市ラプラスであった。
当時のラプラスの主な収入源は、貴族による寄付金と土地代だったのだ。加えて、内乱の影響で歴史ある貴族が次々と没落したこともあり、滞在条件を満たす学生が年々減っていったのも追い討ちであった。
みるみるうちに財政難に陥ったラプラスは、都市の滞在条件を変更し、成り上がりの貴族や裕福な平民を受け入れることにした。また、学園側にも入学条件を緩和するよう要請した。一度目は強制ではなかったため、経営が逼迫された学園のみが平民を受け入れ、他校、特に人気校に至っては要請に応じる気がなかった。
だが、貴族の衰退化は止まらず、彼らの地位は右肩下がりしていく一方。入学者が減る中、伝統にこだわり廃校になった学園もあった。それだけならまだしも、犯罪に手を染める者まで出てくる始末だ。
危機感を覚えた都市は、数年ごとに一部の学園に入学条件の緩和を強制し、段階的に平民を受け入れる土台を整えていったのだ。
かくして、学術都市は百年の時をかけてその姿を時代に適応させていったのだが、変革と表すには優柔不断で、悠長すぎた。
遺恨というのは中途半端な結果によって生まれるのだ。ましてや、血筋や伝統を重んじる貴族にとって、時間をかけた丁寧な改革など、己の身が徐々に蝕まれていく苦痛にしか感じないだろう。
否が応でも衰退している現実を突きつけられた、歴史ある貴族の子供達。そして、百年以上の歴史が経とうとも未だ異分子として扱われる、新興貴族や平民の子供達。
百年前の大人が及び腰になったツケは、今を生きる少年少女に押し付けられていた。
若者独自の文化が形成され箱庭は、瑞々しい活気で輝き満ちている。だが、光ある限り地面から影が消えないように。
華々しさの裏で、争いの火種は常に燻っているのだ。
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