星獣の機迹

なビィ

文字の大きさ
上 下
73 / 77

073. 離別の刻限

しおりを挟む



入口を背にして項垂れている、寝床の上の少女へと

優しくも恐る恐る話し掛ける。


「リリナちゃん……?」


小さく震えていた身体がその声にぴくりと反応し、

ゆっくりと振り返る。



「……。

 おはよ……アシュリィ。」



その声は震え、今にも涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪えている。


……だが、本人は気付かれまいと笑顔を作ろうとしているのだ。





「……ラウルがね……いないの……。


 分かってたけど……。


 もう……行っちゃったの……。」





「――!」



途中で頭をよぎっていた嫌な予感が的中してしまった。



「ラウル……優しいから……。

 私が喜ぶこと、いっぱいしてくれようとしてたの分かるの。


 ……だから……っ、私も……。

 心配……かけたく……っ、なくって……!」



口にすることで感情が表へと出そうになって言葉が所々詰まる。

笑顔で堪えてはいるが、段々と、瞳が涙の潤いできらきらと光り始める。


服の裾を握り締め、口をぎゅっと結び、

微笑むようにして涙を堪えている。



「――っ!」


居ても立ってもいられず、肩に掛けていた荷物袋を投げ捨てるように外し、

リリナへと駆け寄って抱きしめる。





「……リリナちゃん、聞いて……。



 ……。



 二人が出会って間もなくって。

 でも、二人がお互いをすっごい大事に思ってたのは

 あたしでも分かる。



 最初は『星の道』のことを聞きたかったからっていうだけだったんだけど。

 一緒にいる時間が増えて、二人のことも知れて。



 仲が良くって、お互いがお互いを思いやれて。

 いいな~、羨ましいな~って思ってた。

 もちろん二人が大変な目に遭ってたってのは分かってるけどね。


 でもね、あたし、友達はできるけどほとんど一人旅だったからさ。


 そんな二人が、お互いを思いやれてる二人が、

 自分の気持ちを押し殺して別れる選択をしてるようにしか見えなかったの。



 そんなの……あたし、嫌なの。



 ……。



 だからね、リリナちゃん。



 教えて。 



 あなたは、本当はどうしたい?

 

 ……リリナちゃんの本当の気持ちを教えて。」



……。

抱きしめていた小さな身体が震え始める。





「……っ、……わたしっ……。


 私……っ、ねっ……!」





声が途切れる。感情が漏れ出す。





「……ラウルと、一緒に……っ、行きたい……っ!


 一緒に……っ! 行きた……っ、かった……よぉ……っ!」





堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出す。





「一緒に……いたい……よぉ……っ。


 ――っく。 ――っ。」



笑顔はもうなく、感情に流されるがまま、静かに大粒の涙だけがぽろぽろと落ちていく。

もう、声にすらなっていない。


感情によって押し出される、喉を絞るような音だけが全てを物語る。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

リビルドヒストリア ~壊れたメイド型アンドロイドを拾ったので私の修復能力《リペアスキル》で直してあげたら懐かれました~

ヤマタ
ファンタジー
 一級魔導士の少女マリカ・コノエは《リペアスキル》という物を直せる特殊能力を持っている。  ある日、廃墟都市で壊れたメイド型アンドロイドを拾ったマリカはリペアスキルを行使して修復に成功した。するとアンドロイドはマリカを新たな主として登録し、専属メイドとして奉仕すると申し出るのだった。愛らしい少女の外見をしたそのアンドロイドメイドはカティアと名付けられ、二人の同棲生活が始まる。  カティアはマリカが営むジャンク屋を手伝い、アンドロイドとしての機能や知識を駆使して様々な仕事に取り組んでいく。時には魔物や兵器などとの戦いも経験し、困難を切り抜ける度に二人の距離は近づいて、人間とアンドロイドという種族を超えて惹かれ合っていくのだった。  そして、廃れた世界に点在する滅亡した文明の遺産をリペアスキルで直していくマリカは、やがて恐ろしい計画に巻き込まれていくが、強まっていくカティアとの絆と共に立ち向かう。  これは人間の少女マリカと、アンドロイドメイドのカティアを中心とした百合ファンタジー。

処理中です...