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067. 少女の思惑
しおりを挟む「これ、一個もらってもい~い?」
リリナが、焼き料理の脇に添えられていた
小さく黄色い木の実を指差して二人に問いかける。
三人前ということで三つ添えられているようだ。
「うん、どうぞどうぞ~。あたしももらお。」
アシュリィも手をひょいと伸ばして摘まむ。
「そうか……なら……。」
それに合わせるようにラウルも最後の一つを手に取る。
「でもこれ、今そのまま食べちゃっていいのかな?」
アシュリィが摘まんだ実を見て考えている。
それを聞いたリリナが、
「料理と一緒に食べるときっとおいしいよ!」
「そうなの?
じゃあそのやり方で試してみよっかなぁ。」
にこにこと満面の笑みで答え、
それに笑顔で応じるアシュリィ。
「……。」
リリナの笑顔は保たれたままだ。
だが、その表情の影には表には出て来ない何かを感じさせる。
――
――暫くした後。
カチャ……。
リリナが静かに食器を置くことで、
終始無言で食べ続けていた三人の食事が終わりを告げる。
それぞれが口の中に残る余韻に浸っている。
まるで供えられていたかのような立派な料理は跡形もなくその姿を消し、
皿の中には皮は疎か、骨や殻、頭すらも綺麗さっぱり無くなっている。
それらはラウルが文字通り、【食べ尽くした】のである。
「……食べた……ねぇ……。」
張った自身の腹部を片手で撫でながらしみじみと呟くアシュリィ。
「すまない……最終的に俺が全てもらってしまった形に……。」
謝罪の言葉を口にするも、その顔は穏やかに悦に入っている。
どことなく俯き顔のラウルの睫毛が艶めいているように見える。
「ううん、あんなにはあたし達食べれないよぉ。
綺麗に食べてくれて感謝感謝っ。」
腹も膨れ、少し苦しそうではあるが笑顔で返答する。
「それにしても、海鮮も最近食べ慣れてきたなぁって思ってたけど
全然だったなぁ……奥が深いよ……。」
天井を見上げ、独り言のように喋りながら、
楽な姿勢を探すようにもぞもぞと動いている。
「すぅっごい……おいしかったぁ……。」
満腹で再び眠気に襲われ始めているリリナ。
目を擦りながらも、まだ睡魔に抗えているようだ。
「俺は……今日という日を忘れることはないだろう……!」
眉間に皺を寄せ、目を瞑り真剣な表情でぼそりと呟くラウル。
「ラウルがそんなに海に食いつくのは意外だったなぁ。」
両手を後ろにつき、体重をそこに乗せる姿勢でラウルに話し掛ける。
その言葉に反応し、目をゆっくりと開け、俯いたまま口を開くラウル。
「……実は……海には並々ならぬ思いがあってな……。」
「あ、うん。それはすっごい感じた。」
若干食い気味に口から感想が出てしまうアシュリィ。
「あれは、俺が一人で集落から逃げ延びて少し後のことだ――。」
目を開き、真剣な面持ちで話し始めるラウル。
が。
「おぉ! 全部綺麗に食ってくれたなぁ!
作った甲斐があったってぇもんだぁ!」
熊の主人の大きな笑い声が店内に響き渡り、ラウルの過去の話をかき消していく。
「普段のも美味しいけど、これはもう格別!
びっくりしちゃったよぉ。」
アシュリィが一度同じ姿勢のまま伸びをして、笑顔で感想を述べている。
「あっはっは! そりゃあ良かった!
嬢ちゃんは……眠そうだなぁ。
兄ちゃんは足りたか? もう一品くらい作ってやろうかぁ?」
リリナの顔が夢心地になっている様子を見て声を小さくする主人。
主人の提案を聞き、耳がピクリと反応し、尻尾が揺れ出すが
膝にいるリリナをちらりと見て返答するラウル。
「いや……気持ちは有難いが……。
……非常に有難いのだが……っ!」
歯を食いしばり、心からの悔しそうな表情とは裏腹に、
美しい毛並みの尻尾がぶんぶんと左右に揺れている。
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