星獣の機迹

なビィ

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060. 最後の問答

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「……!」


言葉に詰まるラウル。

再び両者の間に張り詰めた沈黙が流れる。



アシュリィが申し訳なさそうに、

しかしラウルのことをきっと見据えて口を開く。



「……もう一度だけ聞くね……?

 ……リリナちゃんと一緒に旅をしたいと思う? 思わない?


 ……。

 それだけのこと……それだけのことなの……。」



言い終わると

顔を俯かせ、辛そうに肩を竦めてしまう。





「それは……。」



眠っているリリナを見る。

すぅすぅと寝息を立て、幸せそうにアシュリィの太腿へ涎を垂らしている。


俯き、眉間に皺を寄せ目を閉じ、

一つの結論を出すために思考を巡らせる。





 ――初めてリリナと出会った時のことを思い出す。


満身創痍で衰弱していた少女のことを。

一歩遅れれば獣に嚙み殺され、人間の長い寿命を全うすることなく、

短く、微細な灯でその命を終えていた。





 ――他愛ないやり取りを思い出す。


一喜一憂で表情がころころと変わる、年相応の子供らしさ。

死地を乗り越えたからか、いざという時に妙に聡く、強い精神。

あの子のお陰で励まされたことが幾度とある。





 ――彼女に妹の面影を見ていたことを思い出す。


彼女のお陰で気持ちに整理をつけられた。

彼女のお陰で忌まわしい過去の自分と向き合うことができた。





リリナ――。


彼女に尽くしてやりたい。

健やかに成長するその日まで。

無事、故郷に帰れるその日まで。





……ゆっくりと目を開き、アシュリィの方を見る。

そして、口を開く。





「……思わない。」



その言葉がアシュリィへ届くと、その耳と尻尾の毛が一瞬にして総毛立つ。

……肩が震えている。





リリナに寄り添うということは、彼女の生き方に影響を及ぼすということ。

『星の道』の旅の同伴をさせるということは、危険と隣り合わせの生活をさせるということ。

やがて見つかるかもしれない、故郷を襲った連中と会わせることだけは避けなければならない。

リリナを全てから守り抜いてやれる自信が俺には……ない。


安全な場所で、優しい住民たちと、温かな環境で育って欲しい。

故郷への道はその過程で見つかることを祈っている。


……そう……それが……俺がしてやることのできる精一杯だ。





アシュリィの毛が落ち着きを取り戻し、震えが治まっていく。

俯いていた顔をゆっくりとあげ、ラウルの方へと向ける。





「……そっ……かぁ……!

 ……いやあっ! 残念! もしかしたら思い直してくれるかなって!」



快活な笑顔でラウルに声を掛ける。



「妹さんやお姉さん、故郷のことも心配だもんねっ。

 仕方ない仕方ない。うんっ。」



まるで自分に言い聞かせるように気丈に振る舞うアシュリィ。

……目が少し潤んでいる。



「じゃあ、残りの時間はリリナちゃんと有意義に過ごさないとね!

 っ……。


 ……。

 ……あっ、明日はいつ頃出発するの?」



腕で瞼を拭い、いつものように話し掛けるアシュリィ。



「ああ……。

 ……今……くらいか――。」



目を一度遠くにやり、また目の前の恩人へと向ける。


「……何度も言ってしまうが……ありがとう……アシュリィ。」





それを聞くと、顔をぷいっと背け、不機嫌そうに


「……そう思うならリリナちゃんに目一杯寄り添ってあげて……。」





優しく、ふっと息を漏らし、穏やかな口調で答える。


「ああ……そうだな……。」


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