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017. 世界一の干し肉
しおりを挟む「……そうか。世界一美味いか。」
自分の分の干し肉を取り、噛み千切る。
咀嚼をし、飲み込んだあと、
「奇遇だな。俺もそう思う。」
干し肉の噛み千切った跡を見ながら淡々と優しく話す。
……顔を下に向けたまま静かに泣いている。
「……そう思えたのはつい最近だがな。」
リリナをそっと見たあと、ぼそりと呟く。
銀髪の少女と灰毛の少女が薄っすらと重なる。
再び枝を地面に刺し、ゆっくりと話し始める。
「……『星の道』の現象の中には昔の記憶に関することや、
起こった出来事が突然頭の中に浮かんだり、
そういう【啓示】を受けることもままあるそうだ。」
一呼吸置き、焚き火を見ながら
「兄妹が多いという話はしたな。
……といっても、狼の獣人だ。
一度の出産で4人産まれたから年は同じ、人数も平均的だな。
兄と姉、それに妹が一人いたんだが、
訳あって全員離れ離れになってしまってな。
その行方と理由を知るために『星の道』を巡っているわけだ―――。」
一瞬、苦悶に満ちた表情が見えたが、平静を取り戻す。
「………。」
時々、すん、すん、と音が聞こえる。
「この世界は広い。
集落に定住しているならまだしも、
一度離れ離れになってしまったら再び会うのは難しい。
それこそ【奇跡】が起きない限りにはな。
だからこそ旅人はその【星の道】に縋っていることが多いんだ。」
ゆっくりとリリナの方に顔を向け、
「それにだ、リリナ。お前が獣人を知らなかったのは
おそらく人間だけの村だったからというのは間違いないだろう。
そんな特殊な村であれば、何が起こるか分からない危険な旅をするよりも
安全な町で旅人から情報を集めた方が村を見つけることができるかもしれない。」
「………。」
少し間が空いた後、顔を伏せたまま首を小さく横に振る。
「……そう…か。
妙に懐かれたもんだな。」
食べかけの干し肉をまた持ち上げ、
「……お前が手に持っている干し肉、腕に縒りを掛けて作ったんだが……。
食べてくれないのか?」
それを聞くと、膝に掛かっている服の裾で顔をぐりぐりと拭い、
「……食べる。」
また、ぽろりと涙が頬を流れたが
再びあむあむと干し肉を嚙み始める。
「あぁ……いい子だ。」
ラウルもまた、残っていた干し肉を食べ始めていく。
―――
涙が収まり始め、
少しずつ干し肉を噛み切りながら食べ始めたリリナを見て、
食べ終えたラウルが木の実を促して再び百面相を楽しんでいる。
そして、よほど好みにあったものがあったのか、
涙の跡を残し、とびっきりの笑顔で咀嚼しているリリナ。
ラウルの顔は穏やかに、尻尾は時折ぱた、ぱた、と動いている。
その笑顔が、ラウルを心配させまいとする気持ちからだったのか。
残り少ないと思われるラウルとのやり取りを大切にしたかったからだったのか。
それは分からない。
―――
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