1 / 36
第1章
01-01 通い妻?
しおりを挟む
私は今、大学の研究室での打ち上げに参加している。
私の担当教授である浅野先生を含めて、居酒屋での飲み会。
先生は明日、研究発表を行う為にボストンへ向かう。
通常、研究発表は学生にやらせるのだが、今回は格式の高い国際会議との事で、先生が直々に行う事となった。
何にしても、1つの研究成果を上げる事が出来た。
私は、日本酒の徳利を持って、先生の所へ挨拶に行った。
「先生、お疲れ様です」
「おお、ありがとう」
「研究発表のスライド、なんとか間に合いました」
「ああ、今回の研究は君の功績が大きい。本来ならば君に発表してもらいたいのだが……ちょっと今回は特別でね」
「いや、これは先生に発表して頂かないと……しかし先生の助手として、私も付いて行かなくて良いのでしょうか」
「ああ、私1人で大丈夫だ」
「……はい」
「……」
その後、何故か先生は、黙ってしまった。
そして再び、先生は話し始めた。
「ところで君は、彼女いるのか?」
「えっ、いやぁ、そんな、女性とお付き合いする時間なんて、ありませんよぉ」
「そうか……じゃあ、うちの娘、どうだろう?」
「はぁ?」
そして先生は、鞄からゴソゴソと何かを探し始めた。
取り出したのは、スマホだった。
「あ……先生はスマホ、携帯されないのですか?」
「ああ、なんか、縛られるようで」
「……はぁ」
「……」
そして、スマホの電源を入れて、待ち受け画面を見せてくれた。
「うちの娘だ」
その写真は、中学校の校門の前で、先生と娘さんが並んで撮った写真だった。
「あっ、お嬢さん、中学の時の入学式でしょうか」
「ああ、今、娘は中1だ」
「はぁ?」
「……どうだ?」
「いやぁ」
……うん、これは……冗談は冗談で返さなければ失礼というもの。
「はい。い~ですねぇ~」
「だろ? 私の自慢の娘だ」
「はい」
すると先生は、神妙な顔をして、私に言った。
「私に何かあった時は、娘を頼む」
「……はぁ」
・・・・・・
宴会はお開きとなり、私は自分のアパートに帰った。
ベッドで横になり、先生との話を思い出していた。
……あの先生の冗談……なんだったのだろう。
普段、冗談を言うような先生では……ないのだが……。
・・・・・・
それから数日後、とんでもない知らせが飛び込んできた。
渡航先で、先生が行方不明との事。
何だかの事件に巻き込まれたのか……。
連絡が取れないまま、1ヵ月が過ぎた。
先生は、娘さんが生まれた後、奥さんと別居された。
娘さんは、先生が1人で育てたようだ。
今回、このような事になってしまった為、奥さんが娘さんを引き取る事になったらしい。
・・・・・・
大学の研究室は、担当教授がいないまま、年度末を迎えた。
私が所属している研究室を引き継げる先生がいない為、研究室は解散。
研究室のメンバーは、自分の研究テーマに近い研究室を探し、移る事となった。
研究室解散の前日、研究室に空き巣が入った。
カギが壊され、研究室は荒らされていた。
……こんな研究室に……お金に換えられる高価な物など、何も無いのに……?
警察による現場検証を終えて、私は帰宅した。
自分のアパートに着くと、扉の前で膝を抱えてしゃがんでいる1人の少女が居た。
「あの……どうされましたか?」
その少女は私に確認した。
「里中令さんですね」
「……はい」
「私は浅野正和の長女、浅野詩織と申します」
……教授のお嬢さん?……ああ、教授のスマホで見たお嬢さんだ。
その子は寒さで震えている。
今は3月の終わりだが、今日は肌寒い。
すっかり冷え切ってしまったようだ。
私は玄関扉を開けて、その子を部屋の中へ入れた。
男の1人暮らしである。
散らかっているのは、言うまでもない。
暖房をつけて、部屋を暖めた。
その子は床に正座して、頭を下げて言った。
「ふつつかものですが、よろしくお願い致します」
「……はぁ?」
私は固まった。
私も、その子の目に合わせて正座して訊ねた。
「なんの事でしょう?」
その子は答えた。
「私は、里中さんに見初めて頂いたと、父からきいています」
「……はぃ?」
「父から、自分に何かあった時は、里中さんの所へ嫁ぐように言われました」
「いやぁ」
……ちょっと待て。
たしか中学1年と言っていた。
さすがに中学生にもなれば、そのような話、冗談である事ぐらい解るだろぉ?
「えぇっと……お父様から、他に何か?」
「里中さんは、とても真摯な方だとうかがっています」
「いや、そういった事ではなくて……」
その後、しばらく沈黙が続いた。
さて、どっから話しをしたら良いものか。
「えぇっと……詩織さんって言いましたか」
「はい」
「今、いくつになられました?」
「ただ今 13歳です」
「うん。13歳じゃ結婚出来ない事、知ってるよね」
「はい。民法の改正により、男女ともに婚姻は、18歳以上になりました」
「……はい」
「ですので、婚姻届けを出せる5年後まで、通い妻として……」
「ちょっと待って! そもそもそういった問題じゃないから!」
詩織は上目使いで私に訊いた。
「ダメですかぁ?」
うっ……女子中学生の破壊力……恐るべし!
「あのねぇ、他人である未成年の子と、私が一緒に暮らしていたら、私は逮捕されちゃうの!」
すると詩織は、鞄から1枚の紙を取り出して私に渡した。
「母に書いて頂きました」
それは、身元保証人となった詩織さんの母が、直筆で書かれた承諾書だった。
『承諾書
長女 浅野詩織とその婚約者 里中令との同居を認めます。
身元保証人 母 浅野かなえ』
私はぶっ飛んだ。
「いやぁ……」
……なんなんだろう。
話しを聞くと、今までは父の家で父と2人で生活していた。
父が行方不明になった後、母に引き取られた。
しかし、母は既に他の男性と暮らしている。
母との話し合いによって、自分は今、父の家で、1人で生活しているとの事。
身元保証人となった母からは、
高校卒業までの学費と生活費は出してくれるとの事。
学校での保護者面談等には出席してくれるとの事。
そして母からは、『あなたも好きなようにしなさい』と言われているとの事。
そこで、私の所へ嫁いできたとの事だ。
……ありえない。
こんな事、絶対にありえない!
こんな事、許される訳が無い!
私は、先生に恩義がある。
しかし、未成年の詩織と同居する訳にはいかない。
「何かあれば、相談に乗るから……」
それだけを伝え、彼女を帰した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:誰も居ない家に
私の担当教授である浅野先生を含めて、居酒屋での飲み会。
先生は明日、研究発表を行う為にボストンへ向かう。
通常、研究発表は学生にやらせるのだが、今回は格式の高い国際会議との事で、先生が直々に行う事となった。
何にしても、1つの研究成果を上げる事が出来た。
私は、日本酒の徳利を持って、先生の所へ挨拶に行った。
「先生、お疲れ様です」
「おお、ありがとう」
「研究発表のスライド、なんとか間に合いました」
「ああ、今回の研究は君の功績が大きい。本来ならば君に発表してもらいたいのだが……ちょっと今回は特別でね」
「いや、これは先生に発表して頂かないと……しかし先生の助手として、私も付いて行かなくて良いのでしょうか」
「ああ、私1人で大丈夫だ」
「……はい」
「……」
その後、何故か先生は、黙ってしまった。
そして再び、先生は話し始めた。
「ところで君は、彼女いるのか?」
「えっ、いやぁ、そんな、女性とお付き合いする時間なんて、ありませんよぉ」
「そうか……じゃあ、うちの娘、どうだろう?」
「はぁ?」
そして先生は、鞄からゴソゴソと何かを探し始めた。
取り出したのは、スマホだった。
「あ……先生はスマホ、携帯されないのですか?」
「ああ、なんか、縛られるようで」
「……はぁ」
「……」
そして、スマホの電源を入れて、待ち受け画面を見せてくれた。
「うちの娘だ」
その写真は、中学校の校門の前で、先生と娘さんが並んで撮った写真だった。
「あっ、お嬢さん、中学の時の入学式でしょうか」
「ああ、今、娘は中1だ」
「はぁ?」
「……どうだ?」
「いやぁ」
……うん、これは……冗談は冗談で返さなければ失礼というもの。
「はい。い~ですねぇ~」
「だろ? 私の自慢の娘だ」
「はい」
すると先生は、神妙な顔をして、私に言った。
「私に何かあった時は、娘を頼む」
「……はぁ」
・・・・・・
宴会はお開きとなり、私は自分のアパートに帰った。
ベッドで横になり、先生との話を思い出していた。
……あの先生の冗談……なんだったのだろう。
普段、冗談を言うような先生では……ないのだが……。
・・・・・・
それから数日後、とんでもない知らせが飛び込んできた。
渡航先で、先生が行方不明との事。
何だかの事件に巻き込まれたのか……。
連絡が取れないまま、1ヵ月が過ぎた。
先生は、娘さんが生まれた後、奥さんと別居された。
娘さんは、先生が1人で育てたようだ。
今回、このような事になってしまった為、奥さんが娘さんを引き取る事になったらしい。
・・・・・・
大学の研究室は、担当教授がいないまま、年度末を迎えた。
私が所属している研究室を引き継げる先生がいない為、研究室は解散。
研究室のメンバーは、自分の研究テーマに近い研究室を探し、移る事となった。
研究室解散の前日、研究室に空き巣が入った。
カギが壊され、研究室は荒らされていた。
……こんな研究室に……お金に換えられる高価な物など、何も無いのに……?
警察による現場検証を終えて、私は帰宅した。
自分のアパートに着くと、扉の前で膝を抱えてしゃがんでいる1人の少女が居た。
「あの……どうされましたか?」
その少女は私に確認した。
「里中令さんですね」
「……はい」
「私は浅野正和の長女、浅野詩織と申します」
……教授のお嬢さん?……ああ、教授のスマホで見たお嬢さんだ。
その子は寒さで震えている。
今は3月の終わりだが、今日は肌寒い。
すっかり冷え切ってしまったようだ。
私は玄関扉を開けて、その子を部屋の中へ入れた。
男の1人暮らしである。
散らかっているのは、言うまでもない。
暖房をつけて、部屋を暖めた。
その子は床に正座して、頭を下げて言った。
「ふつつかものですが、よろしくお願い致します」
「……はぁ?」
私は固まった。
私も、その子の目に合わせて正座して訊ねた。
「なんの事でしょう?」
その子は答えた。
「私は、里中さんに見初めて頂いたと、父からきいています」
「……はぃ?」
「父から、自分に何かあった時は、里中さんの所へ嫁ぐように言われました」
「いやぁ」
……ちょっと待て。
たしか中学1年と言っていた。
さすがに中学生にもなれば、そのような話、冗談である事ぐらい解るだろぉ?
「えぇっと……お父様から、他に何か?」
「里中さんは、とても真摯な方だとうかがっています」
「いや、そういった事ではなくて……」
その後、しばらく沈黙が続いた。
さて、どっから話しをしたら良いものか。
「えぇっと……詩織さんって言いましたか」
「はい」
「今、いくつになられました?」
「ただ今 13歳です」
「うん。13歳じゃ結婚出来ない事、知ってるよね」
「はい。民法の改正により、男女ともに婚姻は、18歳以上になりました」
「……はい」
「ですので、婚姻届けを出せる5年後まで、通い妻として……」
「ちょっと待って! そもそもそういった問題じゃないから!」
詩織は上目使いで私に訊いた。
「ダメですかぁ?」
うっ……女子中学生の破壊力……恐るべし!
「あのねぇ、他人である未成年の子と、私が一緒に暮らしていたら、私は逮捕されちゃうの!」
すると詩織は、鞄から1枚の紙を取り出して私に渡した。
「母に書いて頂きました」
それは、身元保証人となった詩織さんの母が、直筆で書かれた承諾書だった。
『承諾書
長女 浅野詩織とその婚約者 里中令との同居を認めます。
身元保証人 母 浅野かなえ』
私はぶっ飛んだ。
「いやぁ……」
……なんなんだろう。
話しを聞くと、今までは父の家で父と2人で生活していた。
父が行方不明になった後、母に引き取られた。
しかし、母は既に他の男性と暮らしている。
母との話し合いによって、自分は今、父の家で、1人で生活しているとの事。
身元保証人となった母からは、
高校卒業までの学費と生活費は出してくれるとの事。
学校での保護者面談等には出席してくれるとの事。
そして母からは、『あなたも好きなようにしなさい』と言われているとの事。
そこで、私の所へ嫁いできたとの事だ。
……ありえない。
こんな事、絶対にありえない!
こんな事、許される訳が無い!
私は、先生に恩義がある。
しかし、未成年の詩織と同居する訳にはいかない。
「何かあれば、相談に乗るから……」
それだけを伝え、彼女を帰した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:誰も居ない家に
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる