女子中学生と魔法使い

青村砂希

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第1章

01-01 通い妻?

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 私は今、大学の研究室での打ち上げに参加している。
 私の担当教授である浅野先生を含めて、居酒屋での飲み会。

 先生は明日、研究発表を行う為にボストンへ向かう。
 通常、研究発表は学生にやらせるのだが、今回は格式の高い国際会議との事で、先生が直々に行う事となった。

 何にしても、1つの研究成果を上げる事が出来た。

 私は、日本酒の徳利を持って、先生の所へ挨拶に行った。
「先生、お疲れ様です」
「おお、ありがとう」

「研究発表のスライド、なんとか間に合いました」
「ああ、今回の研究は君の功績が大きい。本来ならば君に発表してもらいたいのだが……ちょっと今回は特別でね」

「いや、これは先生に発表して頂かないと……しかし先生の助手として、私も付いて行かなくて良いのでしょうか」
「ああ、私1人で大丈夫だ」
「……はい」
「……」

 その後、何故か先生は、黙ってしまった。

 そして再び、先生は話し始めた。
「ところで君は、彼女いるのか?」
「えっ、いやぁ、そんな、女性とお付き合いする時間なんて、ありませんよぉ」

「そうか……じゃあ、うちの娘、どうだろう?」
「はぁ?」
 そして先生は、鞄からゴソゴソと何かを探し始めた。

 取り出したのは、スマホだった。
「あ……先生はスマホ、携帯されないのですか?」
「ああ、なんか、縛られるようで」
「……はぁ」
「……」

 そして、スマホの電源を入れて、待ち受け画面を見せてくれた。
「うちの娘だ」
 その写真は、中学校の校門の前で、先生と娘さんが並んで撮った写真だった。

「あっ、お嬢さん、中学の時の入学式でしょうか」
「ああ、今、娘は中1だ」
「はぁ?」

「……どうだ?」
「いやぁ」
 ……うん、これは……冗談は冗談で返さなければ失礼というもの。

「はい。い~ですねぇ~」
「だろ? 私の自慢の娘だ」
「はい」

 すると先生は、神妙な顔をして、私に言った。
「私に何かあった時は、娘を頼む」
「……はぁ」

 ・・・・・・

 宴会はお開きとなり、私は自分のアパートに帰った。
 ベッドで横になり、先生との話を思い出していた。

 ……あの先生の冗談……なんだったのだろう。
 普段、冗談を言うような先生では……ないのだが……。

 ・・・・・・

 それから数日後、とんでもない知らせが飛び込んできた。
 渡航先で、先生が行方不明との事。
 何だかの事件に巻き込まれたのか……。

 連絡が取れないまま、1ヵ月が過ぎた。
 先生は、娘さんが生まれた後、奥さんと別居された。
 娘さんは、先生が1人で育てたようだ。

 今回、このような事になってしまった為、奥さんが娘さんを引き取る事になったらしい。

 ・・・・・・

 大学の研究室は、担当教授がいないまま、年度末を迎えた。
 私が所属している研究室を引き継げる先生がいない為、研究室は解散。
 研究室のメンバーは、自分の研究テーマに近い研究室を探し、移る事となった。

 研究室解散の前日、研究室に空き巣が入った。
 カギが壊され、研究室は荒らされていた。
 ……こんな研究室に……お金に換えられる高価な物など、何も無いのに……?

 警察による現場検証を終えて、私は帰宅した。

 自分のアパートに着くと、扉の前で膝を抱えてしゃがんでいる1人の少女が居た。
「あの……どうされましたか?」

 その少女は私に確認した。
里中令さとなかれいさんですね」
「……はい」
「私は浅野正和の長女、浅野詩織あさのしおりと申します」
 ……教授のお嬢さん?……ああ、教授のスマホで見たお嬢さんだ。

 その子は寒さで震えている。
 今は3月の終わりだが、今日は肌寒い。
 すっかり冷え切ってしまったようだ。

 私は玄関扉を開けて、その子を部屋の中へ入れた。
 男の1人暮らしである。
 散らかっているのは、言うまでもない。

 暖房をつけて、部屋を暖めた。
 その子は床に正座して、頭を下げて言った。

「ふつつかものですが、よろしくお願い致します」
「……はぁ?」

 私は固まった。
 私も、その子の目に合わせて正座して訊ねた。
「なんの事でしょう?」

 その子は答えた。
「私は、里中さんに見初めて頂いたと、父からきいています」
「……はぃ?」

「父から、自分に何かあった時は、里中さんの所へ嫁ぐように言われました」
「いやぁ」

 ……ちょっと待て。
 たしか中学1年と言っていた。
 さすがに中学生にもなれば、そのような話、冗談である事ぐらい解るだろぉ?

「えぇっと……お父様から、他に何か?」
「里中さんは、とても真摯な方だとうかがっています」
「いや、そういった事ではなくて……」

 その後、しばらく沈黙が続いた。
 さて、どっから話しをしたら良いものか。

「えぇっと……詩織さんって言いましたか」
「はい」

「今、いくつになられました?」
「ただ今 13歳です」

「うん。13歳じゃ結婚出来ない事、知ってるよね」
「はい。民法の改正により、男女ともに婚姻は、18歳以上になりました」

「……はい」
「ですので、婚姻届けを出せる5年後まで、通い妻として……」
「ちょっと待って! そもそもそういった問題じゃないから!」

 詩織は上目使いで私に訊いた。
「ダメですかぁ?」
 うっ……女子中学生の破壊力……恐るべし!

「あのねぇ、他人である未成年の子と、私が一緒に暮らしていたら、私は逮捕されちゃうの!」

 すると詩織は、鞄から1枚の紙を取り出して私に渡した。
「母に書いて頂きました」
 それは、身元保証人となった詩織さんの母が、直筆で書かれた承諾書だった。

 『承諾書
  長女 浅野詩織とその婚約者 里中令との同居を認めます。
             身元保証人 母 浅野かなえ』

 私はぶっ飛んだ。
「いやぁ……」
 ……なんなんだろう。

 話しを聞くと、今までは父の家で父と2人で生活していた。
 父が行方不明になった後、母に引き取られた。

 しかし、母は既に他の男性と暮らしている。
 母との話し合いによって、自分は今、父の家で、1人で生活しているとの事。

 身元保証人となった母からは、
 高校卒業までの学費と生活費は出してくれるとの事。
 学校での保護者面談等には出席してくれるとの事。

 そして母からは、『あなたも好きなようにしなさい』と言われているとの事。
 そこで、私の所へ嫁いできたとの事だ。

 ……ありえない。
 こんな事、絶対にありえない!
 こんな事、許される訳が無い!

 私は、先生に恩義がある。
 しかし、未成年の詩織と同居する訳にはいかない。

「何かあれば、相談に乗るから……」
 それだけを伝え、彼女を帰した。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:誰も居ない家に
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