【完結】至福のひと時

青村砂希

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第1話 武装解除

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 私は、大手家電メーカーに勤める独身女性、28歳。
 肩書は企画部課長。
 20代で課長職に就いた女性は、会社始まって以来との事らしい。
 年収は……それなりに。
 現在、都心のマンションに住んでいる。

 頭のてっぺんからつま先まで、一流のブランド品で武装し、常に凛とした態度で仕事をしている。
 そんな私には、同棲している男性がいる。
 年齢は私と同じで、彼の仕事は……何だろう。
 大学の研究室に通い、実験の助手としての仕事を受け持っている様だが、年収は100万に届かない程度。
 実質的には、私が彼を食べさせている。
 そんな彼なのだが、私は彼にベタ惚れなのである。

 とにかく優しい。
 そして、どんな私も受け入れてくれる。
 そして、私に対して気付いた事を、きちんと伝えてくれる。

 そして、私が課長になれたのも、実は彼のお陰である。
 毎年、社内で行われる企画コンペに、彼がアイディアを出してくれた。
 そのアイディアが3年連続して採用され、ことごとくヒットした。
 お陰で私は今年度、課長の役職に就く事となり、生活に困る事も無くなった。

 今日は週末の金曜日。
 今週中に、上げなければならない企画書がある。
 土日の休日を取る為に、一人で深夜まで残業している。
 ようやく仕上がったのは、午前3時をまわったところ。

 タクシーに乗って自宅へ戻る。
 部屋に入ると、彼も起きていた。

「おかえり」
 彼が玄関まで出迎えてくれた。
 彼は来月、ミュンヘンで開かれる国際会議で、研究発表が予定されている。
 そこで発表する資料を整理していた様だ。

「……ただいま」
 疲れた態度で言葉を返す。

 歩きながら、着ていた服を脱ぎ捨てる。
 粗末に扱う気持ちは無いのだが、一刻も早く武装解除したい。
 彼は私が脱ぎ捨てた服を拾い上げながら、優しく言葉をかけてくれる。
「遅くまで、大変だね」
 私は下着姿でバスルームに向かう。

 途中、彼を横目で見ると、彼は視線を外している……ドキドキ。
 シャワーを浴びながら自分自身を振り返る。

 ……私は彼に甘えている。

 私は、バスローブのみをまとい、バスルームから出た。
 ベッドに座って髪を乾かしていると、彼が扉をノックする。

 ピザ、パスタ、サラダ、スープ、そしてお酒を乗せたワゴンが運ばれてきた。

 彼は照明を消してカーテンを開け、エアコンの温度を少し下げた。

 窓の外が明るくなり始めた。
 菫色の空を見ながら、彼と並んで食事を始める。

 徹夜明けで、頭がふわふわしている。
 ……実に気持ちがいい。

 優しい光が射し込む部屋で、二人でお酒飲みながら今から寝るのだ。
 待ちに待った、至福のひと時。
 だらしない時間の始まりである。

 二人で乾杯してお酒を飲む。
 彼は優しく抱き寄せる。
 ピザを頬張りながら談笑する。
 私も彼も、ヘラヘラしている。

 そんな私は、思ってしまう。
 もし、彼にふられたら、私は生きていけない。
 ……私は彼に溺れている。

 良い感じにお酒がまわって来た。
 私は彼に抱き付く様に、寝てしまった。
 実は寝たふりをしていた事、彼には内緒だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:あとは寝るだけ
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