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第8章
8-03 約束の日
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私が赴任して2年が過ぎ、明里は現在、大学3年になった。
明里の大学は3年になるとゼミが始まり、4年から入る研究室を選ぶ為に、各研究室をまわる。
明里はそこで、大変興味を引く研究室に出会い、その研究室に入る事を強く望んだ。
・・・・・・
そして明里は4年になった。
明里の3年間の総合成績は、上位30%との事。
大学院への推薦入試資格は、上位50%との事で、このまま大学院へ進学する事が出来るだろう。
この総合成績は、ぎりぎりの成績で入学出来た明里にとって、1年の成績が足を引っ張っている。
3年の成績だけを見れば、上位5%に位置している。
よく頑張りましたと言ってあげたい。
そして明里は念願の研究室に入る事が出来た。
しかしここで、想定外の問題が起きた。
明里はこの研究室で、このまま大学院へ進む事を望んでいた。
しかし、その研究室の担当教授は今年一杯で、来年度からは自分の出身であるK大学へ籍を移すとの事である。
明里は担当教授に相談した。
するとその教授から、1つの提案がなされた。
「私が籍を移すK大学の大学院を受験してみませんか」
明里は、ネットのビデオ通話で私に伝えてきた。
他大学の大学院を受験するとなれば、今の大学の推薦資格は失う事になる。
私は、慌てた。
そして強く反対した。
「せっかく推薦で大学院へ進めるのだから」
「……」
「何処か他に、興味持てそうな別の研究室……ないの?」
……明里は、感情のない目を私に向けている。
そう、私は気付いてしまった。
これは、私の嫉妬だ。
明里の心が、明里の研究室の教授に向いている。
明里が……奪われる。
「もうすぐ、私の赴任も終了して、東京へ戻れるから」
「……」
明里は、何も返さなかった。
・・・・・・
そして明里は、K大学の大学院を受験した。
K大学といえば、日本を代表する関西の大学である。
大学院一般入試の試験勉強等してこなかったはずだ。
しかし明里は合格した。
大学院の入試は、大学の入試と大きく異なる。
これは、研究室担当教授の裁量権によるものかもしれない。
以前、明里の生活を支援していた頃、決して私は明里を閉じ込めていた訳ではない。
しかし明里にしてみれば、自分は籠の中の鳥で、籠の外へ出たら経済的に生きていけない。
だが、義父からお金を返された今、明里にとっての籠は消え去り、自由に好きな所へ飛んでいける。
明里は大学卒業と共に私のマンションを出て、K大学の関西へ引っ越した。
私は有給休暇を申請して、私のマンションに帰った。
室内は、綺麗に整っていた。
明里に提供していた部屋を開けた。
その部屋には……何も無かった。
以前明里が言っていた。
『私が帰って来ても、この部屋は、このままだよね』
これは、あの時の明里が怯えていた景色なのだろう。
明里がK大学の院試を受けると言った時、賛成し、応援するべきであった。
私はいつも大切な所で間違える。
……いや、どちらにしても、明里は出ていっただろう。
同じ事だ。
そう自分に言い聞かせた。
あれから4年が経った。
約束の日。
それは、明里が卒業する年の3月31日。
婚姻届けは……出されなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:(最終話) 夢の終わり
明里の大学は3年になるとゼミが始まり、4年から入る研究室を選ぶ為に、各研究室をまわる。
明里はそこで、大変興味を引く研究室に出会い、その研究室に入る事を強く望んだ。
・・・・・・
そして明里は4年になった。
明里の3年間の総合成績は、上位30%との事。
大学院への推薦入試資格は、上位50%との事で、このまま大学院へ進学する事が出来るだろう。
この総合成績は、ぎりぎりの成績で入学出来た明里にとって、1年の成績が足を引っ張っている。
3年の成績だけを見れば、上位5%に位置している。
よく頑張りましたと言ってあげたい。
そして明里は念願の研究室に入る事が出来た。
しかしここで、想定外の問題が起きた。
明里はこの研究室で、このまま大学院へ進む事を望んでいた。
しかし、その研究室の担当教授は今年一杯で、来年度からは自分の出身であるK大学へ籍を移すとの事である。
明里は担当教授に相談した。
するとその教授から、1つの提案がなされた。
「私が籍を移すK大学の大学院を受験してみませんか」
明里は、ネットのビデオ通話で私に伝えてきた。
他大学の大学院を受験するとなれば、今の大学の推薦資格は失う事になる。
私は、慌てた。
そして強く反対した。
「せっかく推薦で大学院へ進めるのだから」
「……」
「何処か他に、興味持てそうな別の研究室……ないの?」
……明里は、感情のない目を私に向けている。
そう、私は気付いてしまった。
これは、私の嫉妬だ。
明里の心が、明里の研究室の教授に向いている。
明里が……奪われる。
「もうすぐ、私の赴任も終了して、東京へ戻れるから」
「……」
明里は、何も返さなかった。
・・・・・・
そして明里は、K大学の大学院を受験した。
K大学といえば、日本を代表する関西の大学である。
大学院一般入試の試験勉強等してこなかったはずだ。
しかし明里は合格した。
大学院の入試は、大学の入試と大きく異なる。
これは、研究室担当教授の裁量権によるものかもしれない。
以前、明里の生活を支援していた頃、決して私は明里を閉じ込めていた訳ではない。
しかし明里にしてみれば、自分は籠の中の鳥で、籠の外へ出たら経済的に生きていけない。
だが、義父からお金を返された今、明里にとっての籠は消え去り、自由に好きな所へ飛んでいける。
明里は大学卒業と共に私のマンションを出て、K大学の関西へ引っ越した。
私は有給休暇を申請して、私のマンションに帰った。
室内は、綺麗に整っていた。
明里に提供していた部屋を開けた。
その部屋には……何も無かった。
以前明里が言っていた。
『私が帰って来ても、この部屋は、このままだよね』
これは、あの時の明里が怯えていた景色なのだろう。
明里がK大学の院試を受けると言った時、賛成し、応援するべきであった。
私はいつも大切な所で間違える。
……いや、どちらにしても、明里は出ていっただろう。
同じ事だ。
そう自分に言い聞かせた。
あれから4年が経った。
約束の日。
それは、明里が卒業する年の3月31日。
婚姻届けは……出されなかった。
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次回:(最終話) 夢の終わり
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