【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

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第7章

7-01 明里の学祭

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 無事、3Dプリンターの引き継ぎ作業を終えて、ゆっくりとした休日をむかえる事が出来た。

 来週から、新たなプロジェクトが待ち受けている。
 絶対に大変なプロジェクトに違いない。
 非常に心配だが、見えない不安にメンタルを削られてはいけない。
 という事で『ゆっくりとした休日をむかえる事が出来た』と自分自身に言い聞かせている。

 明里は昨日から始まった大学の学祭で、天文研の部員として駆り出されている。
 プラネタリウム喫茶との事で、天井に映し出された星の下で、幻想的な音楽と共に、お茶とケーキを味わってもらうという企画らしい。

 問題は、お茶とケーキの給仕である。
 なにやら、男性は執事のコスチュームで、女性はメイド服に猫耳カチューシャを付けて給仕するらしい。
 やれやれ……高校の文化祭かぁ?
 まったくもって、けしからん。

 しかし、明里のけしからん装い……見たい。
 だが、チキンの私には、その開き直りの根性が無い。
 どうやって、学祭に潜入する?
 私では、彼女の学祭に来た彼氏……とは、見られないだろう。

 私と同年代の女性と一緒であれば、遠方から子供の学生生活を見に来たご両親……と、見てくれるかもしれないが、父親が1人で、のこのこと、子供の学祭、見にくるかぁ?

 では、大学関係者という設定はどうだ?
 キャンパスに入る所までは違和感ない。
 しかし、特定の部の喫茶店に入ってくつろぐかぁ?
 やはり無理だ。
 私には、この壁を乗り越える術を持ち合わせていない。

 私は、残念な気持ちを抱えながら、コンビニへ弁当を買いに部屋を出た。
 エレベーターで1階に降りると、マンション敷地内の広場で、幼稚園に通っているケンタ君と、その父親が遊んでいた。

 子供好きの明里は、その子と時々遊んでいるのを見た事がある。
 同じマンションの住人で、ご両親共々、私とも顔なじみである。
 ……

 なんという事でしょう。
 神様が、もし居るとすれば、無理やりねじ込んだような状況が訪れた。
 父親は、急きょ会社にいかなければならない連絡を受けた。
 しかし、母親は今、実家に帰っているとの事だ。

「どこか、子供を預かってくれる所、ご存じないでしょうか?」
「でしたら、私が責任持ってお預かりしましょう。私も子供好きですから」
 という事で、夕方までケンタ君を預かる事になった。
 となると、ケンタ君を連れて、明里の学祭を見に行ける。

 大学近くに住んでいる子供が、「お祭りやってる!」って事で、父親と一緒に遊びに来たという設定である。

 よ~し、よしよし。
 よ~し、よしよし。
 一気に私は元気になった。

 注意すべき事は、ケンタ君とはぐれない事。
 迷子になった。行方不明になった。では、許されない。
 まず、ケンタ君の服に、私のスマホを装着させた。
 そして、途中ではぐれないよう、明里の大学まで、タクシーで行った。

 大学に着くと、校門で小さな子供に対して風船を配っている。
 迷子にならないようにとの配慮だろう。
 大変すばらしい。

 風船には重りが付いていて、手を離しても飛んでいかない工夫がされているが、私は風船のひもをケンタ君のズボンのベルトに結んだ。
 よし、これで完璧だ。
 ケンタ君と手を繋いで、いよいよ明里の学祭へ潜入である。

 校門を通ると、学祭のパンフレットが配られていた。
 そのままキャンパスを歩いて行くと、広場に出た。
 ここで、様々な部やサークルによる模擬店が並んでいる。

 大変な賑わいである。
 ケンタ君が、私の手を力強く握った。
 多くの人で、ケンタ君は、緊張しているようだ。

 やきそば一皿 100円
 お好み焼き  100円
 たこ焼き一皿 120円
 どこの店も、儲けよう等考えていないような値段だ。
 材料費及び調理器具のレンタル料金を考えると、大丈夫だろうか。

 どこの店も、長蛇の列。
 にも関わらず、「今からお好み焼き90円に値下げしました~」と叫び、すると別の所で「今から焼きそば80円、80円です~」
 おいおい、何を張り合っているんだ。
 10円、20円、おつり返すの大変だろう。

 店を覗くと、沢山の10円玉が用意されている。
 どうやら、お約束のようだ。
 だからだろうか、近所の子供達が沢山来ている。
 大学の学祭は、こうでなければいけない。

 さて、私の性格は、楽しみは最後に取って置くタイプなのだが、明里のお店に行ったら、「今日は終了とさせて頂きました」といったら立ち直れない。
 そこで、最大の目的である、明里のプラネタリウム喫茶へ向かう事にした。

 場所を、パンフレットで確認する。
 N棟2階の201号室
 私は、ケンタ君の目の高さまでしゃがみ、「すこ~し、静かな所へ行こうね」と言うと、ケンタ君は、口を一文字に伸ばして、何も言わずに力強くうなずいた。

 いかん、まだ幼稚園児だ。解らない事だらけで怖いはずだ。
 私の言う事をちゃんと聞くよう、父親と約束したのだろう。
 相当無理している。

 この後、ロボット研究部とか、鉄道模型部等に連れて行ってあげようと思っていたが、それどころではないかもしれない。
 天文研へ行ったら、まっすぐ帰った方がいいだろうと思った。

 天文研のお店に着くと、私自身の愚かさを痛感した。
 長蛇の列である。
「ただいま、約50分ほど、お待ちいただいております」との声が聞こえた。
 ちょっと考えれば、この程度の状況、予測出来たはずだ。

 私一人なら、50分程度、待つ事は出来るが、ケンタ君は……無理だ。
 ただでさえ、緊張している。
 これ以上負担を掛けて具合悪くなったら可哀そうだし、ご両親に対して申し訳が立たない。

 決断の時である。
 よし、帰ろう。

 ……でも、ちょ~っとお店覗いて、もし明里を見る事が出来たら……
 私は、お店の入り口に向かった。
 入り口には『撮影はご遠慮下さい』と書かれた紙が貼られている。
 ん~やはり、けしからんに違いない。

 そ~っと店の中を覗いた。
 しかし、明里を見つける事は出来なかった。
 周りからの視線が痛い。
 この行動は、誰が見ても変態オヤジである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:いつも明里さんに
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