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第6章

6-16 デモンストレーション

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 今日、3Dプリンター社内デモの日をむかえた。
 明里のおかげで、この上なく寝不足である。

 デモは午後2時から、第3研究所のプレゼン・ルームで行うとの事で、午前中に機材のセッティング及び動作確認を行った。

 特に問題はない。
 何かあれば、直ぐに交換出来るようにバックアップの準備も万全である。
 別のテーブルに、作成したサンプルも展示した。

 デモの時間が近づくと、人が集まってきた。
 このデモをみるのは、事業部の重役と、取締役が何人か。
 そう聞いていたので、7~8人と考えていた。

 しかし、30人くらい集まって来た。
 ……なんだろう、すごい人数だ。これだけ注目されているのか?

 碧が集まって来た人達を見ながら、私に声をかけた。
「主任」
「ああ」
 集まってきた人の多くは、水色のネックストラップを下げている。
 何故、第2研の人が……?

 デモの時間になった。
 デモの説明は、リーダー君にお願いした。
 このプレゼン・ルームには、2本のマイクが用意されている。
 話をする者は、このマイクを持って話す。

 リーダー君が、マイクを持って説明しながらのデモを始めた。
 さすがに上手だ。
 こういった事は、リーダー君がいてくれて助かる。

 トラブルもなく、一通りの説明が終わった。
 見に来られた人達から、暖かい拍手が送られた。
 好意的に評価されたようだ。

 次に、質疑応答のステージとなった。
 何人かが、手をあげた。
 その人に2本目のマイクが渡される。

 最初は、ネックストラップから見て、事業部の人だ。
 質問内容は、この装置の大きさで、最大どのくらいの大きさの造形物が作れるのか、それと、どのくらいの時間がかかるのか?

 リーダー君が答えた。
「今日、ここでお見せしているデモ機で作れる最大の造形物は、一辺300㎜の正立方体です。次に、時間についてですが、作る形や大きさによって大きく異なりますので、ここに作成時間を書いたサンプルを展示しています。あとでご確認下さい。ちなみにこのサンプルの作成時間は76分でした」
 そのサンプルを手に持って説明した。

 特に問題なく質疑応答が進み、最後の人になった。
 その人にマイクが渡った時、私は気付いた。
 この男、見覚えがある。

 そう、部長室に行った時に居た男だ。
 水色のネックストラップを下げている。
 『第2研の人が、珍しいですね』と、部長に話した時の人だ。
 年齢と感じからして、主任研究員か?

 その彼は、マイクを持って話し始めた。
「お疲れ様です。 すばらしいデモでした。 造形物1体の作成時間ですが、私が計算した作成時間よりも遥かに早く、驚いています」
 ……私が計算した作成時間? 何故そんな計算している?

「質問ですが、更に短時間で造形物を作るアイディアをお持ちでしたら、教えて下さい」
 我々のチームに緊張が走った。

 この質問、答えを用意していない。
 迂闊だった。
 当然のように上がる質問である。

 これだけ高速化出来た事で、油断していた。
 『もっと高速化、出来ませんか?』簡単に言う。
 ここで見ている大多数の人は、ここまでの高速化を実現した大変さが解っていないのだ。

 ……まて、彼は解っている。 先ほど作成時間を計算していたと言ってた。

 リーダー君がそれに答えた。
「え~大変残念なのですが、現時点ではこれ以上、大幅な高速化は……」

 私が手をあげた。
「えっ」
 リーダー君は話を中断し、私にマイクを持ってきた。

 私は話しを始めた。
「はい。 私はこのプロジェクトの責任者です。このシステムの高速化についてですが」
 私は、参考として用意したプリンターのヘッドを手に持って話を続けた。

「これは、試薬を噴射するためのヘッドです。噴射幅は15㎜で、その中に300のノズルが収められています。これを何度も往復させながら1層つくるのですが、ターゲットと同じ幅、このデモ機でしたら、噴射幅300㎜のヘッドを作れば、1回の移動で1層作れますので、大幅な高速化は可能となります」

 この説明に対して、若手の見学者から、呆れた笑いが出た。
 そう、噴射幅300㎜のヘッドを作るなど、大変な事である。
 しかし、その笑いは、直ぐに引いた。
 ここに来ている重役達は、私の話に耳を傾けている。
 やはり、この3Dプリンター、会社はお金に糸目を付けないようだ。

 質疑応答を終えて、デモは無事終了となった。
 部長が私の所へ来た。

「お疲れ様」
「ありがとうございます」
「なんだ、私に大恥、かかせてくれるんじゃなかったのか」
「いや~」

 部長の顔が真顔になった。
「後で話がある。ここの片付けが済んだら、私の所へ来てくれ」
「……はい」

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 次回:(第6章 最終話)私が原因ですね
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