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第6章
6-11 折衝
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碧のアイディアを元に、メカの改造、掛ける電圧、等の調整を行った。
手ごたえがあったので、部長に10/7のデモ延期を要請する事にした。
これからやる事は一杯ある。
3台のメカの内、もう1台、静電方式に改造。
だいたいデモ本番になると、調子悪くなるのがお約束である。
その為に、もう1台用意する。
そして、デモ準備班がブラシュアップしたソフトウエアを、静電気班のシステムに組み込む。
その上で、更に調整する。
今までの経験から、デモの延期は簡単でない。
ただ明里のおかげで延期願い、通るかもしれないと思った。
私は部長に時間を取ってもらい、部長室へ行った。
「失礼します」
「ああ、調子はどうだ」
「はい、その件で、ご相談させて頂きたく、お願いに参りました」
「……デモ日程の事かな?」
「はい、少し延期して頂きたく思います」
「何日ぐらいだ?」
ビンゴだ。普通、何日ぐらいだ、等とこちらの申し出に乗らない。
「はい、2週間ほど」
部長は、しばらく下を向いて考え始めた。
「今回のデモ、非常に重い意味を持つ事を以前話したが」
「はい、承知しております」
「やはり、話しておこうか……実は、今回の試薬を開発したチームが、新しい試薬の開発に目途がたった」
私は部長の話に割り込んだ。
「試薬Ay、Am、Ac……イエロー、マゼンタ、シアン……ではないでしょうか?」
「……なんでその事を知っている……これは、まだ社内でも発表していない」
「私の勘です」(本当は明里の勘なのだが……)
「そうか、……すごいな」
「ですので、今回のデモは、今、開発中の3Dプリンターの商品化ではなく、今後の展開をうらなう位置付けと理解しました」
「わかった。そこまで理解しているのなら、2週間の延期、なんとかしよう」
「申し訳ありません」
「2週間で、なんとかなるのか?」
「はい。もしかしたら、部長に大恥かかせてしまうかもしれませんが」
「ああ、それを聞いて安心した」
「ありがとうございます」
「延期するデモの日程、調整出来次第、連絡する」
「よろしくお願いします」
私は研究室に戻り、デモ日程を2週間、延期してもらう事を伝えた。
そして私はみんなに言った。
「みんなでデモを成功させましょう!」
・・・・・・
会社から帰宅すると、明里はいつものようにテーブルで勉強していた。
そして、いつものように、明里と一緒に夕食を頂いた。
私は明里に話しかけた。
「試験、どんな感じ?」
「過去問やってて良かったです。 そっくり同じ問題じゃあないけど、同じような問題、出してくれてます」
「この夏休み期間、すごい問題の量をこなしたものね」
「演習問題漬けでした」
「試験は今週一杯だよね。 がんばって」
「はい」
・・・・・・
夕食を終えると、明里は再びテーブルで勉強を始めていた。
私は入浴を済ませ、キッチンテーブルで、いつものように晩酌を始めた。
私は、明里に向かって、独り言のように言った。
「早く一緒に飲めるようになると、いいなぁ」
明里は私を見て、にっこり笑って言った。
「私と一緒に、飲みたい?」
「ああ」
「じゃ~飲んじゃおっか?」
「うっ……だ~め。二十歳過ぎてから」
「おじさんって、厳格ですよね」
「いや逆だよ。本当の私は、だらしないんだ。 タガをはめないと歯止めがきかなくなる。 まあ、失っていいものなら、それでもいいんだが、失いたくないものにかぎって歯止めがきかなくなってしまう」
「……?」
「はい、解らなくていいです。 ごめんなさい。 勉強続けて下さい」
「……」
明里は再び試験勉強を始めた。
勉強している明里を見ながら、ゆっくりとお酒を飲んだ。
……昔……同棲していた裕子と……明け方から飲み始めた。
エアコンの温度を下げて、部屋の照明を消して……。
暖かい日差しが射し込む中で、あとは寝るだけ。
あの時のだらしない生活。
至福のひと時だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:明里さんと待ち合わせ
手ごたえがあったので、部長に10/7のデモ延期を要請する事にした。
これからやる事は一杯ある。
3台のメカの内、もう1台、静電方式に改造。
だいたいデモ本番になると、調子悪くなるのがお約束である。
その為に、もう1台用意する。
そして、デモ準備班がブラシュアップしたソフトウエアを、静電気班のシステムに組み込む。
その上で、更に調整する。
今までの経験から、デモの延期は簡単でない。
ただ明里のおかげで延期願い、通るかもしれないと思った。
私は部長に時間を取ってもらい、部長室へ行った。
「失礼します」
「ああ、調子はどうだ」
「はい、その件で、ご相談させて頂きたく、お願いに参りました」
「……デモ日程の事かな?」
「はい、少し延期して頂きたく思います」
「何日ぐらいだ?」
ビンゴだ。普通、何日ぐらいだ、等とこちらの申し出に乗らない。
「はい、2週間ほど」
部長は、しばらく下を向いて考え始めた。
「今回のデモ、非常に重い意味を持つ事を以前話したが」
「はい、承知しております」
「やはり、話しておこうか……実は、今回の試薬を開発したチームが、新しい試薬の開発に目途がたった」
私は部長の話に割り込んだ。
「試薬Ay、Am、Ac……イエロー、マゼンタ、シアン……ではないでしょうか?」
「……なんでその事を知っている……これは、まだ社内でも発表していない」
「私の勘です」(本当は明里の勘なのだが……)
「そうか、……すごいな」
「ですので、今回のデモは、今、開発中の3Dプリンターの商品化ではなく、今後の展開をうらなう位置付けと理解しました」
「わかった。そこまで理解しているのなら、2週間の延期、なんとかしよう」
「申し訳ありません」
「2週間で、なんとかなるのか?」
「はい。もしかしたら、部長に大恥かかせてしまうかもしれませんが」
「ああ、それを聞いて安心した」
「ありがとうございます」
「延期するデモの日程、調整出来次第、連絡する」
「よろしくお願いします」
私は研究室に戻り、デモ日程を2週間、延期してもらう事を伝えた。
そして私はみんなに言った。
「みんなでデモを成功させましょう!」
・・・・・・
会社から帰宅すると、明里はいつものようにテーブルで勉強していた。
そして、いつものように、明里と一緒に夕食を頂いた。
私は明里に話しかけた。
「試験、どんな感じ?」
「過去問やってて良かったです。 そっくり同じ問題じゃあないけど、同じような問題、出してくれてます」
「この夏休み期間、すごい問題の量をこなしたものね」
「演習問題漬けでした」
「試験は今週一杯だよね。 がんばって」
「はい」
・・・・・・
夕食を終えると、明里は再びテーブルで勉強を始めていた。
私は入浴を済ませ、キッチンテーブルで、いつものように晩酌を始めた。
私は、明里に向かって、独り言のように言った。
「早く一緒に飲めるようになると、いいなぁ」
明里は私を見て、にっこり笑って言った。
「私と一緒に、飲みたい?」
「ああ」
「じゃ~飲んじゃおっか?」
「うっ……だ~め。二十歳過ぎてから」
「おじさんって、厳格ですよね」
「いや逆だよ。本当の私は、だらしないんだ。 タガをはめないと歯止めがきかなくなる。 まあ、失っていいものなら、それでもいいんだが、失いたくないものにかぎって歯止めがきかなくなってしまう」
「……?」
「はい、解らなくていいです。 ごめんなさい。 勉強続けて下さい」
「……」
明里は再び試験勉強を始めた。
勉強している明里を見ながら、ゆっくりとお酒を飲んだ。
……昔……同棲していた裕子と……明け方から飲み始めた。
エアコンの温度を下げて、部屋の照明を消して……。
暖かい日差しが射し込む中で、あとは寝るだけ。
あの時のだらしない生活。
至福のひと時だった。
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次回:明里さんと待ち合わせ
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