【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

文字の大きさ
上 下
59 / 88
第6章

6-05 めずらしいですねぇ

しおりを挟む
 9月に入った。
 朝食を終えると、明里が遠慮がちに、たずねてきた。

「あの、ここに友達、呼んじゃだめですか?」
「いや、別にかまわんが……」

「友達と、前期試験の過去問の答え合わせをしたいんですが……」
「ああ、自由に使ってくれてかまわない。 8月中に終わらせるって言ってたよね」

「ええ、なんとか終わらせました。 学校の図書館では私語厳禁なので……」
「そうだよね、話し合い出来る場所、大学にないの?」

「いつもは空いてる時間の食堂を利用してるんですが、夏休み期間はやってなくて……」
「なるほど、ここなら毎日、自由に使っていいから、何か美味しい物でも用意して、楽しくやるといい」
「ありがとうございます」
 明里は嬉しそうに言った。

「ああ、それと、今後遅くなる日が続くと思うから、その都度連絡する」
「了解しました。友達とは遅くても8時前には解散します」

「試験まで1ヵ月無いよね。がんばって」
「はい、おじさんも体を壊さないように、気を付けてください」
「ありがとう」

 そんな会話を交わして、私は会社に向かった。

 出社すると、上司の部長に呼び出され、第3研究棟に向かった。

 部長室に入ると、1人の男性が居た。
 水色のネックストラップをさげている。
 この色、第2研究所の人間だ。

 私が部屋に入るなり、その男性は、
「では、私はこれで失礼します」
 と、部長に挨拶し、その後私にも会釈して退室した。

 第2研の人間がここに来るのは珍しい。
 研究開発と言っても、第1研は研究職的色合いが濃く、第2研、第3研は、開発職的色合が濃い。

 研究とは、ゼロから新しい物を生み出す仕事と、ここでは言われている。
 そして、開発とは、既存の物と既存の物を組み合わせて新しい物を生み出す仕事。

 今回の私のプロジェクトも、第1研が作り上げた試薬AとBを使い、それと既存のインクジェットプリンター技術を応用して、3Dプリンターを作るといった内容である。

 よって、第1研と第2研、また 第1研と第3研の交流はあるが、第2研と第3研の交流は、あまりない。

「めずらしいですねえ、第2研の人がここに来るのも」
「ああ、まあ、君を呼び出した用件だが」
 ……あれ?部長、何かごまかしたような?

「今、担当してもらっている3Dプリンターのデモの予定だが、10月7日でどうだろうか?」
「はい、私も、そのあたりでのデモを想定して進めています」

「大丈夫か?」
「え~、色々問題をかかえていますが、なんとか見せられる所まで持って行きます」

 すると、何故かここで部長は沈黙した。
「実は今回のデモ、今までのような、現在こんな感じです。といった訳にはいかない」
「……と、言いますと?」

「事業部の上層の人間、それと、取締役の面々まで見にくる」
「えっ」
 私は、一瞬固まった。

「もちろん、即商品化という所まで仕上げてくれと言ってる訳ではない。 会社は君の3Dプリンターのデモに注目している。 だから押さえてほしいポイントだが、これ本当に完成出来るの? といった疑問の声が上がってはまずい」

「なるほど、了解しました。 もちろん完成出来ないデモでは意味がありませんが、10月のデモは、まだ中間発表の意味合いで捉えていました」

「ああ、だから、ちょっと今までと違う」
「わかりました。認識を改めます」

 そのような話を受けて、私は研究室へ戻った。
 部長から伝えられた事。
 1つは、デモの日程が10月7日に決まった事。
 2つめ、このデモ、今までと違い、大きな意味を持っている事。

 本来、この事を、みんなに伝えなければならない。
 情報の共有は鉄則である。
 しかし私は、伝えるタイミングを選んだ。

 今伝えると、みんなの発想が縮こまり、無難な発想に傾いてしまう。
 今は、できるだけ伸び伸びと、大胆な発想を提案してほしい。

 私は、人間の思考には、2種類あると考えている。
 ロダン作成の『考える人』のように、一点を見つめて脳を絞るようにして考える姿勢。
 もう1つは、楽な姿勢で遠くの景色にフォーカスを外して、ぼーっと考える姿勢。
 前者はこの先必要になる姿勢だが、今は後者の姿勢で考える時期である。

 定時を過ぎた。
 ほっておくと、みんな夢中になって、帰る事を忘れてしまう。
 いずれ、泊まり込みになってしまうかもしれないが、今はまだ、その時期ではない。

 私はみんなを、適当な時間で解散させた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:明里を起こさないように
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

処理中です...