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第6章
6-03 検討会議
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次の日、出社すると、メンバーは早くから全員出社していた。
昨日納品してもらったメカが気になるようである。
さっそくメンバー全員で検討会議を開いた。
「昨日、メカ3台を無事に納品してもらいました。早速動作確認を行ったのですが、想定していなかった問題が発覚して……じゃあリーダー君から説明してもらえますか」
「はい、昨日納品してもらったメカにAヘッド、Bヘッドを装備して、立体造形物の作成を試みたのですが、途中でヘッドが目詰まりを起こしてしまい中断しました」
碧が質問した。
「当然ヘッドが目詰まり起こす事は想定内で、定期的にヘッドのコンディションを整える操作は仕様済みでしたが、それとは異なる問題ですか?」
「はい。そういったレベルではないのです。コンディションを整えたヘッドが、1ラインの途中で目詰まり起こしてしまうのです」
始めて聞く問題に、碧、綾乃、千広は、深刻な表情を見せた。
綾乃が聞いた。
「原因は、解っているのですか」
「おそらく2つのヘッドが高速で移動する事で、最初のヘッドが落とした試薬を、2番目のヘッドが空気と共に巻き上げてしまい、噴射口に付着してしまう。その結果、2つの試薬が混ざる事で、固まってしまう」
千広が言った。
「なるほど、この方式の利点が欠点となってしまった訳ですね」
そう、この問題、解決しないと、この3Dプリンターは、まったく使い物にならない。
碧が聞いた。
「2番目ヘッドが巻き上げているのは間違いありませんか? もし巻き上げているのが最初のヘッドであれば、1番ヘッドと2番ヘッドの距離を離すとか、進行方向に向けて同列ではなく、縦に並べれば軽減するのでは」
インテリ君が言った。
「なるほど、2番ヘッドは、数ライン遅らせた情報で噴射させるのですね」
私は発言した。
「そう、このように、どんどんアイディアを出してほしい。 みんなから出してもらったアイディアで、行う価値がありそうな物から実験していきたい。 このプロジェクト、再来月の始めあたりで、デモしてもらいたいと言われている」
「えっ」
一同に緊張が走った。
「はい」
リーダー君が手をあげた。
「ターゲットの0.2㎜上を、高速でヘッドが移動する。最初に噴射した試薬が、空気によって巻き上げられる。だったら、空気を抜けばいい」
綾乃が訊いた。
「それは、装置全体を密閉した容器に入れて、空気を抜いて動かすという事ですか?」
「はい、ただし気圧を下げれば試薬が気化するでしょうから、試薬の特性に変化を及ぼさない程度に下げて動かせば改善できるかと」
私が発言した。
「たしかにこのプリンターの最終形態は、付着出来ない結晶が粉塵として飛び散らないように、防護ケースを用意する事は想定していましたが、完全密閉容器となる訳ですね」
しばし、沈黙が続いた。
次にインテリ君が手をあげた。
「私は、ターゲットとヘッドとの距離、0.2㎜というのを、もっと開けられないかと考えています。もう少し開けられれば、相当改善されると思います」
おお、2人とも、昨日帰ってから、色々と対策を考えてくれていたようだ。
千広が質問した。
「ターゲットとヘッドとの間を広げれば、噴射した試薬を目標ポイントに落とすのが難しくなるのでは?」
「ええ、それに、動いているヘッドから試薬を落下させる訳ですから、試薬自体、進行方向に向けて慣性力が働き、真下ではなく斜めに落ちます。つまり、落す位置と着地する位置にズレが生じます。そのズレを加速度センサーから計算して補正して落下させているのですが、距離を開けると精度が落ちる事が予想されます。そこで、ヘッドからの噴射速度を上げられないかと考えています」
私は発言した。
「なるほど、ちなみに試薬に生じる慣性力の問題だけど、いっその事、ヘッドを固定して、ターゲットの方を動かせば、試薬に慣性力は働かず、まっすぐ落ちる」
すると、みんなの表情は微妙だった。
綾乃が訊いた。
「え~この、ターゲット側を、ガンガン動かすんですか?」
千広が言った。
「動かす台に、ターゲットを固定しなければいけませんね。でも最初の1層目はどうやって固定しましょう」
碧が言った。
「いや、それ以前の問題として、同じ事です。 確かに落ちる試薬に慣性力は働きませんので真下に落ちますが、ターゲットを動かすのでしたら、落してから着地するまでの時間で、ズレがおこります」
「お~」
私は声をあげた。
みんなから、どっと笑いが出た。
よし、これでみんな、もっと気楽に思い付きを語れるようになったぞ。
全て作戦通りだ。
……という事にしよう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全て作戦通りって……おじさんがポンコツなの、みんな知ってますから!
次回:このチームを存続させたい
昨日納品してもらったメカが気になるようである。
さっそくメンバー全員で検討会議を開いた。
「昨日、メカ3台を無事に納品してもらいました。早速動作確認を行ったのですが、想定していなかった問題が発覚して……じゃあリーダー君から説明してもらえますか」
「はい、昨日納品してもらったメカにAヘッド、Bヘッドを装備して、立体造形物の作成を試みたのですが、途中でヘッドが目詰まりを起こしてしまい中断しました」
碧が質問した。
「当然ヘッドが目詰まり起こす事は想定内で、定期的にヘッドのコンディションを整える操作は仕様済みでしたが、それとは異なる問題ですか?」
「はい。そういったレベルではないのです。コンディションを整えたヘッドが、1ラインの途中で目詰まり起こしてしまうのです」
始めて聞く問題に、碧、綾乃、千広は、深刻な表情を見せた。
綾乃が聞いた。
「原因は、解っているのですか」
「おそらく2つのヘッドが高速で移動する事で、最初のヘッドが落とした試薬を、2番目のヘッドが空気と共に巻き上げてしまい、噴射口に付着してしまう。その結果、2つの試薬が混ざる事で、固まってしまう」
千広が言った。
「なるほど、この方式の利点が欠点となってしまった訳ですね」
そう、この問題、解決しないと、この3Dプリンターは、まったく使い物にならない。
碧が聞いた。
「2番目ヘッドが巻き上げているのは間違いありませんか? もし巻き上げているのが最初のヘッドであれば、1番ヘッドと2番ヘッドの距離を離すとか、進行方向に向けて同列ではなく、縦に並べれば軽減するのでは」
インテリ君が言った。
「なるほど、2番ヘッドは、数ライン遅らせた情報で噴射させるのですね」
私は発言した。
「そう、このように、どんどんアイディアを出してほしい。 みんなから出してもらったアイディアで、行う価値がありそうな物から実験していきたい。 このプロジェクト、再来月の始めあたりで、デモしてもらいたいと言われている」
「えっ」
一同に緊張が走った。
「はい」
リーダー君が手をあげた。
「ターゲットの0.2㎜上を、高速でヘッドが移動する。最初に噴射した試薬が、空気によって巻き上げられる。だったら、空気を抜けばいい」
綾乃が訊いた。
「それは、装置全体を密閉した容器に入れて、空気を抜いて動かすという事ですか?」
「はい、ただし気圧を下げれば試薬が気化するでしょうから、試薬の特性に変化を及ぼさない程度に下げて動かせば改善できるかと」
私が発言した。
「たしかにこのプリンターの最終形態は、付着出来ない結晶が粉塵として飛び散らないように、防護ケースを用意する事は想定していましたが、完全密閉容器となる訳ですね」
しばし、沈黙が続いた。
次にインテリ君が手をあげた。
「私は、ターゲットとヘッドとの距離、0.2㎜というのを、もっと開けられないかと考えています。もう少し開けられれば、相当改善されると思います」
おお、2人とも、昨日帰ってから、色々と対策を考えてくれていたようだ。
千広が質問した。
「ターゲットとヘッドとの間を広げれば、噴射した試薬を目標ポイントに落とすのが難しくなるのでは?」
「ええ、それに、動いているヘッドから試薬を落下させる訳ですから、試薬自体、進行方向に向けて慣性力が働き、真下ではなく斜めに落ちます。つまり、落す位置と着地する位置にズレが生じます。そのズレを加速度センサーから計算して補正して落下させているのですが、距離を開けると精度が落ちる事が予想されます。そこで、ヘッドからの噴射速度を上げられないかと考えています」
私は発言した。
「なるほど、ちなみに試薬に生じる慣性力の問題だけど、いっその事、ヘッドを固定して、ターゲットの方を動かせば、試薬に慣性力は働かず、まっすぐ落ちる」
すると、みんなの表情は微妙だった。
綾乃が訊いた。
「え~この、ターゲット側を、ガンガン動かすんですか?」
千広が言った。
「動かす台に、ターゲットを固定しなければいけませんね。でも最初の1層目はどうやって固定しましょう」
碧が言った。
「いや、それ以前の問題として、同じ事です。 確かに落ちる試薬に慣性力は働きませんので真下に落ちますが、ターゲットを動かすのでしたら、落してから着地するまでの時間で、ズレがおこります」
「お~」
私は声をあげた。
みんなから、どっと笑いが出た。
よし、これでみんな、もっと気楽に思い付きを語れるようになったぞ。
全て作戦通りだ。
……という事にしよう。
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全て作戦通りって……おじさんがポンコツなの、みんな知ってますから!
次回:このチームを存続させたい
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