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第5章
5-06 私の役割
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出社すると、今日はインテリ君がホットプレートで何やら作っている。
驚いたのは、その後ろで、エプロン付けた千広が、そのレシピを学んでいる。
海鮮焼ソバとの事だ。
あんの作り方。片栗粉の溶かし方、とろみを付ける分量、隠し味に昆布茶を入れる……等。
千広は、メモを取っている。
やれやれ、
『あなた達は、いったい何なんですか!』
と言っていた千広は、いったい何処へ行ってしまったのか?
大変結構である。
研究開発の仕事は、特殊である。
1年かけて解決出来ない問題を、たった1日で解決してしまう事がある。
そこには、運が作用する。
ここでの運とは、ひらめきがやって来るか、と言った方が良いかもしれない。
このひらめき、ただ待っていても、なかなか訪れない。
そこで私のチームは、コミュニケーションを大切にしている。
私は仕事の中で、議論する事を積極的に行うようにしている。
その中で、お互いに相手の感性を刺激する。
ここで重要な事は、討論ではない。勝ち負けではない。
私のチームの皆には、次の2つの事を共通の認識とした。
これが同意されないと、議論は論点を外れ、不毛な言い争いになってしまう。
その1
『相手の考えを正しく理解しましょう。
相手の考えを理解した上で、反論しましょう。
相手の考えを理解しないで反論するのは、不毛ですよね』
尚、『理解』と『同意』は、同じ意味として使われる事があるが、ここでは別の概念とします。
その2
『相手の考えを、簡単に理解出来たと思ってはいけません。
それは、単に言葉の理解にすぎません』
言葉そのものの理解は容易です。
しかし、相手の考え(イメージ)を理解する事は、簡単ではありません。
その事を認識し、まずは質問して相手の考えを確認しましょう。
あなたの考えは、こういった事なのか?
私はこのように理解しているが、ズレていないか?
そうする事で、ようやく自分の理解が、相手の考えに近づく事が出来るのです。
先日、冷蔵庫等を買いに行った時、私はある物を注文した。
それは、スキャナー付きのホワイトボードである。
研究室にホワイトボードは、あたりまえの備品だが、1人1台、用意した。
そのホワイトボードに、数式や図を書きながら伝える。
本日、注文したホワイトボードが到着した。
各自、机、ボード、机、ボード、・・・という風に配置した。
早速、ボードの前で議論が始まった。
私のここでの役割の1つは、議論の最中、感情的にならないように誘導する。
真剣になると、つい感情的になってしまう。
そんな時、笑いを取って冷笑させる。
そして最大の役目は、議論の中で話を弾ませ、感性を刺激する事だ。
いかにして、みんなを乗せるか。
奇想天外な話を持ち込む。
また訳の解らない事を……といった空気が、
あれ、もしかして……という空気に替わった時、
そこからは、バタバタとひらめきの神様が集団で降りてくる。
優秀な能力を持つメンバーが、これだけ集まっている。
その感性を刺激し、才能を引き出す。
それが私の役割である。
いかに相手から刺激を受けるか、いかに相手に刺激を与えるか。
そこには、お互いの仲間意識が重要であり、普段からのワイワイガヤガヤが重要である。
しかしながら、このような研究室、受け入れられない事は承知している。
結果を出せなければ解体される。
その時は、私1人が責任を取れば良い。
どのみち、結果を出さなければ解体される。
早いか遅いかの違いでしかない。
・・・・・・
その日、私は珍しく夢を見た。
……怖い夢だった。
私が女子高生を拾い、同棲している事が、チームのメンバーにバレてしまった。
碧が言った。
「私、主任に騙されていたのよ!」
リーダー君が睨め付けた。
「犯罪ですよ!」
綾乃が蔑む目を向けた。
「最っ低ぇー!」
インテリ君が言った。
「何が、相手の考えを理解しましょうだ!」
千広が吐き捨てるように言った。
「偉っらそうに!」
……そして霧の中、みんなはキャリーバックを引いて、私から離れていく。
「さよ~なら~」
「さよ~なら~」
「さよ~なら~」
「さよ~なら~」
「わーっ」
私は飛び起きた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
体中、へんな汗をかいている。
時計を見ると、午前4時40分。
空がスミレ色に染まり始めた。
……
私は、正夢にならない事を願った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:会社で朝食
驚いたのは、その後ろで、エプロン付けた千広が、そのレシピを学んでいる。
海鮮焼ソバとの事だ。
あんの作り方。片栗粉の溶かし方、とろみを付ける分量、隠し味に昆布茶を入れる……等。
千広は、メモを取っている。
やれやれ、
『あなた達は、いったい何なんですか!』
と言っていた千広は、いったい何処へ行ってしまったのか?
大変結構である。
研究開発の仕事は、特殊である。
1年かけて解決出来ない問題を、たった1日で解決してしまう事がある。
そこには、運が作用する。
ここでの運とは、ひらめきがやって来るか、と言った方が良いかもしれない。
このひらめき、ただ待っていても、なかなか訪れない。
そこで私のチームは、コミュニケーションを大切にしている。
私は仕事の中で、議論する事を積極的に行うようにしている。
その中で、お互いに相手の感性を刺激する。
ここで重要な事は、討論ではない。勝ち負けではない。
私のチームの皆には、次の2つの事を共通の認識とした。
これが同意されないと、議論は論点を外れ、不毛な言い争いになってしまう。
その1
『相手の考えを正しく理解しましょう。
相手の考えを理解した上で、反論しましょう。
相手の考えを理解しないで反論するのは、不毛ですよね』
尚、『理解』と『同意』は、同じ意味として使われる事があるが、ここでは別の概念とします。
その2
『相手の考えを、簡単に理解出来たと思ってはいけません。
それは、単に言葉の理解にすぎません』
言葉そのものの理解は容易です。
しかし、相手の考え(イメージ)を理解する事は、簡単ではありません。
その事を認識し、まずは質問して相手の考えを確認しましょう。
あなたの考えは、こういった事なのか?
私はこのように理解しているが、ズレていないか?
そうする事で、ようやく自分の理解が、相手の考えに近づく事が出来るのです。
先日、冷蔵庫等を買いに行った時、私はある物を注文した。
それは、スキャナー付きのホワイトボードである。
研究室にホワイトボードは、あたりまえの備品だが、1人1台、用意した。
そのホワイトボードに、数式や図を書きながら伝える。
本日、注文したホワイトボードが到着した。
各自、机、ボード、机、ボード、・・・という風に配置した。
早速、ボードの前で議論が始まった。
私のここでの役割の1つは、議論の最中、感情的にならないように誘導する。
真剣になると、つい感情的になってしまう。
そんな時、笑いを取って冷笑させる。
そして最大の役目は、議論の中で話を弾ませ、感性を刺激する事だ。
いかにして、みんなを乗せるか。
奇想天外な話を持ち込む。
また訳の解らない事を……といった空気が、
あれ、もしかして……という空気に替わった時、
そこからは、バタバタとひらめきの神様が集団で降りてくる。
優秀な能力を持つメンバーが、これだけ集まっている。
その感性を刺激し、才能を引き出す。
それが私の役割である。
いかに相手から刺激を受けるか、いかに相手に刺激を与えるか。
そこには、お互いの仲間意識が重要であり、普段からのワイワイガヤガヤが重要である。
しかしながら、このような研究室、受け入れられない事は承知している。
結果を出せなければ解体される。
その時は、私1人が責任を取れば良い。
どのみち、結果を出さなければ解体される。
早いか遅いかの違いでしかない。
・・・・・・
その日、私は珍しく夢を見た。
……怖い夢だった。
私が女子高生を拾い、同棲している事が、チームのメンバーにバレてしまった。
碧が言った。
「私、主任に騙されていたのよ!」
リーダー君が睨め付けた。
「犯罪ですよ!」
綾乃が蔑む目を向けた。
「最っ低ぇー!」
インテリ君が言った。
「何が、相手の考えを理解しましょうだ!」
千広が吐き捨てるように言った。
「偉っらそうに!」
……そして霧の中、みんなはキャリーバックを引いて、私から離れていく。
「さよ~なら~」
「さよ~なら~」
「さよ~なら~」
「さよ~なら~」
「わーっ」
私は飛び起きた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
体中、へんな汗をかいている。
時計を見ると、午前4時40分。
空がスミレ色に染まり始めた。
……
私は、正夢にならない事を願った。
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次回:会社で朝食
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