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第5章
5-04 今日一番の目的
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研究室で、食べ物を作るようになってからは、昼休みも研究室で過ごすようになってしまった。
好きな物を買ってきて、温めて、食べて。
しかし、あまりそれも良くないと思い、私は提案した。
「ラボ飯もいいですが、昼休みは、みんなで食堂へ行って、またテーブルを囲みませんか」
碧が言った。
「そうですね、ここに閉じこもってばかりというより、昼休みぐらいは、この部屋から出ましょうよ」
みんな賛成した。
「お昼休みは食堂へ、ここでのおやつは3時の休憩」
等とリーダー君が言ったが、みんなの反応は微妙だった。
昼休みになった。
リーダー君が、声を掛けた。
「じゃあ、行きますか」
私は、千広に声をかけた。
「さあ、佐伯さんも一緒に」
千広は少し驚いた表情を見せた。
「……私もですか?」
「もちろんです」
みんなは、扉の所で待っている。
「さあ」
「……わかりました」
食堂に着いて、大テーブルを囲んだ。
ここは、第1研究棟の食堂。
みんな、青のストラップをぶらさげている。
我々は千広以外、よそ者の紺色ストラップ。
その我々が、大テーブルを囲って幅をきかせている。
「このテーブルを6人で囲むと、いい感じですね」
「今までは、5人でしたからね」
いつものように、訳の解らない話をしながらの食事である。
私は、問題を提起した。
「うちの会社は、何をつくるべきか」
私はそれだけ言って、後は無言のまま話の流れを見守った。
インテリ君が言った。
「ここは、公の研究機関ではありませんから、企業の目的は利益を上げる事です」
碧が訊いた。
「利益を上げるとは?」
リーダー君が答えた。
「良い物、売れる物をつくる事です」
綾乃が訊いた。
「良い物とは? それが解りません」
千広が発言した。
「そもそも、良い物が売れる物とは限りません」
よし! 千広が話に加わってくれた。
私にとって、今日一番の目的だった。
それからは、社会の中での会社の役割までさかのぼり、
野を越え山を越え、たどり着いた結論は、
「会社は、良い物を生み出せる人間をつくる(育てる)事」
という事で収まった。
……食堂でのまわりからの視線、ちょっと恥かしかった事は内緒だ。
・・・・・・
自宅へ帰ると、明里はキッチンテーブルで、過去の問題に取り組んでいた。
既に夕食の下ごしらえは済ませているようで、私が着替えている間にテーブルを片付け、夕食を準備してくれた。
明里と一緒に夕食を頂きながら、前期試験勉強の進捗を聞いた。
「どうですか?」
「はい。もらった過去問ですが、問題数として400題近くあります」
「それは大変」
「8月中に終わらせて、9月になったら友達と答え合わせをする事になりました」
「すばらしい」
「7月22日から始めて8月31日までの40日間で400題ですから、1日10題。1時間に1題」
「進捗は?」
「今日8月10日で、20日目ですから目標の200題に対して、現在250題完了しました」
「すごい」
「出来るのからやっていますので、これからが大変です」
「うわ~」
夕食を済ませると、明里は再びキッチンテーブルで過去問に取り組み始めた。
ここでいつもなら、勉強している明里を見ながら、お酒を飲むという至福のひと時を過ごすのだが、私は気になって明里に聞いた。
「この過去問に、1日何時間ぐらい向き合っている?」
「ん~ 10時間ぐらい」
明里の言う10時間とは、実際は12時間から14時間だろう。
私は言った。
「よし、これから夜の散歩に行こう」
「え?」
「職場でも、研究室に閉じこもっていないで、昼休みは部屋から出ましょうという事になった。最近明里はこの部屋に閉じこもってるんじゃないの?」
「いえ、毎日食材買いにスーパーへ行ってます」
「い~から、行くぞ!」
「でも……」
明里は出来ない問題が心配のようだ。
「い~から!」
「わかりました、ちょっと待ってて下さい、着替えて来ます」
明里は、部屋へ入った。
待つ事5分ほど、部屋から出て来た明里は浴衣を着ていた。
「お~」
思わず声が出てしまった。
紺色に染めた生地に、紅色のラインが入っている。
粋な柄だ。
「おじさんのネックストラップとお揃いです」
「なるほど~ よく見つけたねぇ~」
「スーパーの売り出しで、たまたま見つけて買っちゃいました。おじさんと、どこかの夏祭りに行きたいな~と思いまして」
「いや~」
「ダメですかぁ?」
明里は上目遣いで訴える。
「いきましょ~」
今は、午後9時前。
私は明里を連れて大通りへ出て、タクシーで〇〇公園へ向かった。
公園に着いた。
夜風が気持ちいい。
明里は気持ち良さそうに私の前を歩く。
明里が石段を登る際、足を上げる。
そのたび、後ろの生地がピンと張られ、その輪郭を露わす。
その時、私の心拍数は、一気に跳ね上がった。
そこには、下着のラインが無い!
広い芝生が敷かれたエリアに出た。
緑の芝生がライトアップされている。
アイスクリームの自販機があったので、2つ買ってベンチに腰掛けた。
遠くに見える高層ビル群と目の前に広がる緑の芝生。
その夜の景色を眺めながら、二人でアイスクリームを食べた。
明里が言った。
「あ~やっぱり、こうして頭の中をからっぽにする事って、大事ですね~」
「ああ」
等と言っているが、とんでもない。
私の頭の中は、明里の浴衣の下の事で一杯である。
浴衣を着る際、下着のラインが出ない浴衣用の下着があるようだ。
しかし、浴衣用の下着等持っていないので、下着は付けないという人もいるらしい。
いま、明里は、どっちなんだ。
……気になる。
明里に聞いてみるか?
「あ、明里さん?」
「はい?」
「今、明里さんは……下着付けてますか?」
すると明里は、クスッと笑って答えた。
「さあ~どっちでしょ~」
あ~この笑った表情は? 裏の裏の裏を考えても解らない。
明里は、小さな声でささやいた。
「見てみます?」
あ~
「近くに誰もいませんよ」
あ゛~
頭の中が、ぶっ飛びそうだ。
その時、溶けたアイスが、私の私自身の上に落ちた。
「あ゛~」
心の声が出てしまった。
慌ててハンカチで前を拭いた。
私は座ったベンチで、ぐったりとうな垂れた。
明里は気持ち良さそうに、アイスを食べながら芝生の上を歩き回っている。
今日は、残り少ない私の元気、全て明里に持って行かれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:天文研で合宿?
好きな物を買ってきて、温めて、食べて。
しかし、あまりそれも良くないと思い、私は提案した。
「ラボ飯もいいですが、昼休みは、みんなで食堂へ行って、またテーブルを囲みませんか」
碧が言った。
「そうですね、ここに閉じこもってばかりというより、昼休みぐらいは、この部屋から出ましょうよ」
みんな賛成した。
「お昼休みは食堂へ、ここでのおやつは3時の休憩」
等とリーダー君が言ったが、みんなの反応は微妙だった。
昼休みになった。
リーダー君が、声を掛けた。
「じゃあ、行きますか」
私は、千広に声をかけた。
「さあ、佐伯さんも一緒に」
千広は少し驚いた表情を見せた。
「……私もですか?」
「もちろんです」
みんなは、扉の所で待っている。
「さあ」
「……わかりました」
食堂に着いて、大テーブルを囲んだ。
ここは、第1研究棟の食堂。
みんな、青のストラップをぶらさげている。
我々は千広以外、よそ者の紺色ストラップ。
その我々が、大テーブルを囲って幅をきかせている。
「このテーブルを6人で囲むと、いい感じですね」
「今までは、5人でしたからね」
いつものように、訳の解らない話をしながらの食事である。
私は、問題を提起した。
「うちの会社は、何をつくるべきか」
私はそれだけ言って、後は無言のまま話の流れを見守った。
インテリ君が言った。
「ここは、公の研究機関ではありませんから、企業の目的は利益を上げる事です」
碧が訊いた。
「利益を上げるとは?」
リーダー君が答えた。
「良い物、売れる物をつくる事です」
綾乃が訊いた。
「良い物とは? それが解りません」
千広が発言した。
「そもそも、良い物が売れる物とは限りません」
よし! 千広が話に加わってくれた。
私にとって、今日一番の目的だった。
それからは、社会の中での会社の役割までさかのぼり、
野を越え山を越え、たどり着いた結論は、
「会社は、良い物を生み出せる人間をつくる(育てる)事」
という事で収まった。
……食堂でのまわりからの視線、ちょっと恥かしかった事は内緒だ。
・・・・・・
自宅へ帰ると、明里はキッチンテーブルで、過去の問題に取り組んでいた。
既に夕食の下ごしらえは済ませているようで、私が着替えている間にテーブルを片付け、夕食を準備してくれた。
明里と一緒に夕食を頂きながら、前期試験勉強の進捗を聞いた。
「どうですか?」
「はい。もらった過去問ですが、問題数として400題近くあります」
「それは大変」
「8月中に終わらせて、9月になったら友達と答え合わせをする事になりました」
「すばらしい」
「7月22日から始めて8月31日までの40日間で400題ですから、1日10題。1時間に1題」
「進捗は?」
「今日8月10日で、20日目ですから目標の200題に対して、現在250題完了しました」
「すごい」
「出来るのからやっていますので、これからが大変です」
「うわ~」
夕食を済ませると、明里は再びキッチンテーブルで過去問に取り組み始めた。
ここでいつもなら、勉強している明里を見ながら、お酒を飲むという至福のひと時を過ごすのだが、私は気になって明里に聞いた。
「この過去問に、1日何時間ぐらい向き合っている?」
「ん~ 10時間ぐらい」
明里の言う10時間とは、実際は12時間から14時間だろう。
私は言った。
「よし、これから夜の散歩に行こう」
「え?」
「職場でも、研究室に閉じこもっていないで、昼休みは部屋から出ましょうという事になった。最近明里はこの部屋に閉じこもってるんじゃないの?」
「いえ、毎日食材買いにスーパーへ行ってます」
「い~から、行くぞ!」
「でも……」
明里は出来ない問題が心配のようだ。
「い~から!」
「わかりました、ちょっと待ってて下さい、着替えて来ます」
明里は、部屋へ入った。
待つ事5分ほど、部屋から出て来た明里は浴衣を着ていた。
「お~」
思わず声が出てしまった。
紺色に染めた生地に、紅色のラインが入っている。
粋な柄だ。
「おじさんのネックストラップとお揃いです」
「なるほど~ よく見つけたねぇ~」
「スーパーの売り出しで、たまたま見つけて買っちゃいました。おじさんと、どこかの夏祭りに行きたいな~と思いまして」
「いや~」
「ダメですかぁ?」
明里は上目遣いで訴える。
「いきましょ~」
今は、午後9時前。
私は明里を連れて大通りへ出て、タクシーで〇〇公園へ向かった。
公園に着いた。
夜風が気持ちいい。
明里は気持ち良さそうに私の前を歩く。
明里が石段を登る際、足を上げる。
そのたび、後ろの生地がピンと張られ、その輪郭を露わす。
その時、私の心拍数は、一気に跳ね上がった。
そこには、下着のラインが無い!
広い芝生が敷かれたエリアに出た。
緑の芝生がライトアップされている。
アイスクリームの自販機があったので、2つ買ってベンチに腰掛けた。
遠くに見える高層ビル群と目の前に広がる緑の芝生。
その夜の景色を眺めながら、二人でアイスクリームを食べた。
明里が言った。
「あ~やっぱり、こうして頭の中をからっぽにする事って、大事ですね~」
「ああ」
等と言っているが、とんでもない。
私の頭の中は、明里の浴衣の下の事で一杯である。
浴衣を着る際、下着のラインが出ない浴衣用の下着があるようだ。
しかし、浴衣用の下着等持っていないので、下着は付けないという人もいるらしい。
いま、明里は、どっちなんだ。
……気になる。
明里に聞いてみるか?
「あ、明里さん?」
「はい?」
「今、明里さんは……下着付けてますか?」
すると明里は、クスッと笑って答えた。
「さあ~どっちでしょ~」
あ~この笑った表情は? 裏の裏の裏を考えても解らない。
明里は、小さな声でささやいた。
「見てみます?」
あ~
「近くに誰もいませんよ」
あ゛~
頭の中が、ぶっ飛びそうだ。
その時、溶けたアイスが、私の私自身の上に落ちた。
「あ゛~」
心の声が出てしまった。
慌ててハンカチで前を拭いた。
私は座ったベンチで、ぐったりとうな垂れた。
明里は気持ち良さそうに、アイスを食べながら芝生の上を歩き回っている。
今日は、残り少ない私の元気、全て明里に持って行かれた。
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次回:天文研で合宿?
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