【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

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第4章

4-11 水面下で動いている?

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 第1研の所長が話を始めた。
「水瀬君が君の下への異動を希望しているようだが、君に受け入れを断ってもらいたいと打診したところ、その場合、水瀬君は退職するとの事だが、本当かね?」

 私は答えた。
「間違いありません」
「その根拠は?」
「彼女は、私を追って、この会社に入社しました」

 一同、驚きの表情に変わった。
 碧が第1研で孤立している事、この場では伏せておこう。

「いいかげんな事を」
 碧の上司が声をあげた。
「ご本人に、ご確認下さい」
「……」
「そして何よりも、私が水瀬さんの受け入れを希望します」

 第1研の所長が発言した。
「君と水瀬君が、どのような関係かは知らんが、職場の判断に恋愛感情を持ち込まれては困るなぁ」

「いえ、私と水瀬さんは、そのような関係ではありません。私が4年前に発表した論文を読んで、私の下で仕事したいと、この会社に入社したのです」
「ほう」
 常務取締役が声をあげた。

「私はねえ、こんな役職に就いているが元々は技術畑の人間で、この会社から発表された研究論文には全て目を通している。だが、まあ、私の勉強不足もあって良く理解出来ない論文は読み飛ばしているのだが、今まで1つ、スルーしちゃいかんと感じた論文があった。君が書いた論文だよ」

 私は、驚いた。
 まさか、あの論文を精読されている人が、碧の他にもいた。

 常務取締役は、話を続けた。
「そうか、水瀬君はあの論文、理解出来たのか。……まあ、私も式の意味ぐらいは解るが、そこから導かれた結論について、十分な理解に至っていないように感じる。……そうだ、今度水瀬君に、一度ご教授頂こう」

 私は提案した。
「あの……よろしければ、私が」
「君じゃないよ」
「はっ、失礼しました」

「水瀬君にご教授願おう。君も同席したまえ。水瀬君の理解に十分でない所があれば、君に補足してもらいたい」
「はいっ、承知しました」

 常務取締役の話で、流れが一気に変わった。
 第1研の所長が、第3研の所長と部長に話しかけた。

「どうでしょう、彼及び彼のチーム全員を第1研に異動させて頂くというのは?」
 ……これは、想定外の展開である。
「第1研に異動してもらった彼のチームに、水瀬君を異動させる」

 ……第1研は、何が何でも碧を手放したくないようだ。
 もしかして、既に碧の参加を前提としたプロジェクトが、水面下で動いている?

 第1研の部長が発言した。
「しかし水瀬君は博士号を持っている。このタイトルを持たない君の下というのは……」
 すると、第3研の所長が発言した。
「いえ、前例はありませんが、それを不可とする規定は今のところありません」

 第3研の所長は、その案に乗り気のようだ。
 ここで、第1研に、恩を売っておこうといった計算なのだろうか?

 しばらく沈黙が続いた。
 私は第3研の、私の部長を見た。
 部長は、ただ、下を向いている。
 私の将来を考えれば、第1研に異動する方がいい……なんて事、考えてるんじゃーないだろーなー。

 私は発言した。
「あの、私は、今の部長の下での仕事を希望します」
 会議室に、再び緊張が走った。

 私は、今の部長に恩義がある。
 だが、ただそれだけではない。
 どうも第1研の部長の下で上手に仕事出来る気がしない。

 だいたい第1研の部長、このような事を所長が言い出す事を予想して、私がこの部屋に入る早々あのような乱暴な発言をしたのだろう。

 所長が受け入れを希望しても、実際の管理は部長になる。
 私が1人であれば、上司に嫌われようが、特に昇進を望んでいる訳でもないので、のらりくらりと、そこそこの結果を出す事は出来ると思うが、碧を部下に持つとなると、それは別の問題である。
 そこそこの結果では、許されない。

 緊張を破ったのは、常務取締役の発言だった。
「どうでしょう。ここは私に一任して頂けないでしょうか」
 一同、顔をあげた。

「この件、私に決めさせてほしい。その結果に満足出来なくて会社を辞められるようでしたら、それはそれで致し方ない」
 ……なるほど、第1研にとって、これなら碧が辞めても計画の見直しが出来る。

「了解しました」
 第3研の所長が応えた。
 第1研への気遣いのようだ。

「私も、了解しました」
 第1研の所長も了解した。

「では、この件は、これでお開きという事で」
 常務取締役の一声で解散となった。

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 次回:落し所
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