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第4章
4-05 一度には
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次の日の日曜、起きてリビングに向かうと、明里は朝食の用意を済ませ、出かける準備をしていた。
「おじさん、おはようございます」
「ああ、どうした?」
「今日1日、好きにさせて下さい」
「ああ、かまわないけど」
「高校の友達と会う約束しました」
「ああ」
「必ず夜には帰ってきますので、心配しないで下さい」
「わかった」
「お昼と夕飯、ごめんなさい」
「いや、気にしないで」
「では、行ってきます」
「ああ、気を付けて」
明里は振り向かずに出かけた。
……高校の友達か
明里が用意してくれた朝食を食べていると、碧からメールが届いた。
『会えませんか』
私は、社外で碧と2人で会う事は控えようと考えていたが、今回は、そうも言ってられない。
私はメールを返した。
『了解。待ち合わせの時刻と場所を指定して下さい』
少し間を置いて、碧からメールが届いた。
『最後にお会いした喫茶店で14時。いかがでしょう』
……あの喫茶店を指定してきた。
私はメールを返した。
『了解しました』
私は支度して例の喫茶店に向かった。
喫茶店に着いて中に入ると、前回と同じ場所に碧が座っていた。
そして、前回と同じ装い。
「今日も待たせてしまいました」
「いえ、今日も、お約束した時間前です」
ウエイトレスさんが注文を取りにきた。
私はブレンドコーヒーを注文し、碧も同じものを、と言った。
ここまでは前回と同じ。
しかし、今日の碧は前回と違う。
注文したコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーに口を付けながら沈黙が続く。
碧が話し始めた。
「主任が同棲されている方って、昨日の女性ですよね」
「……なんでそう思う」
「なんとなく」
「……」
そう、昨日の時点で、ごまかす事は考えていなかったが、ここで否定しなかった事で認めた事になる。
「何でですか?」
「ああ」
「姪御さんって紹介されましたが、本当はどういったご関係なのですか」
「1年前に拾った」
碧は固まった。
まあ当然だろう。
想定外のはずだ。
私は、明里と最初に会った時の事と、明里の家庭事情を話した。
そして、明里に大学を受験させた事。
受験勉強をみてあげた事。
そして、明里が居てくれたお陰で、仕事の成果を出す事が出来た事……等を話した。
碧は、信じられない表情で言葉を向けた。
「いくら何でも……女子高生を拾って一緒に住み始めて……私は主任の同棲相手の方ってどのような方なのか、色々と想像していましたが、あまりにも……あまりにもかけ離れていて……」
「ですから碧さんは、とっとと私なんか整理して、他の人に目を向けて下さい」
「ふ~」
碧は、深く息を吐いた。
「……」
「あの……この先、どのようになさるのですか」
「……明里が大学を卒業したら、結婚する」
「……卒業するまでは、結婚されないのですか」
「……明里はまだ若い。明里にとって気の迷いかもしれない。……本当に、私と生涯を共に過ごせるのか……私より良い人が、この先現れるかもしれない」
「ふぅ~」
碧は、再び息を吐いた。
「人間、歳をとると、臆病になるのです」
「……それほど、お年を召されているとも、思えませんが」
「……」
突然碧は顔を上げた。
「……という事は?……私にも可能性、あるのですね!」
「えっ! いや、あの、碧さん?」
「私の博士論文、ご存じですか?」
「……いえ」
「可能性は無いって言われてたんです」
「……私は1人の女性しか愛せない」
「それは、『一度には』という事ですよね」
碧はにっこり笑って喫茶店の注文書を取り、「ごちそうさまでした」と言って会計に向かった。
私は失言を後悔し、うつむいたまま碧が店を出る扉の音を聞いた。
・・・・・・
私は適当な弁当を買ってマンションに戻った。
明里はまだ帰っていない。
弁当を食べた。
時計を見ると午後6時
明里は、夜には帰って来ると言って出かけた。
「夜って、何時だぁ?」
風呂を沸かし、風呂に入って、風呂から出た。
時計の針は、7時を過ぎたところ。
「あ~明里、早く帰ってこないかなあ~」
心の声が口に出てしまう。
これはいかんと思い、缶ビールを開けた。
1本飲み、2本飲み、3本めを開けようとした時、玄関扉の開く音がした。
「ただいま」
「……おかえり……今日は、どうだった?」
「はい、友達とカラオケ行って、ゲーセン行って、ボーリングに行って勝負しました」
「……」
「諦めたら、そこで試合終了だって言われました」
「……そう」
「だから、絶対に諦めません!」
明里の眼に、力が宿っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
始まってしまうのか……聖杯戦争、もとい、正妻戦争!
次回:何か思う所があるようで……
「おじさん、おはようございます」
「ああ、どうした?」
「今日1日、好きにさせて下さい」
「ああ、かまわないけど」
「高校の友達と会う約束しました」
「ああ」
「必ず夜には帰ってきますので、心配しないで下さい」
「わかった」
「お昼と夕飯、ごめんなさい」
「いや、気にしないで」
「では、行ってきます」
「ああ、気を付けて」
明里は振り向かずに出かけた。
……高校の友達か
明里が用意してくれた朝食を食べていると、碧からメールが届いた。
『会えませんか』
私は、社外で碧と2人で会う事は控えようと考えていたが、今回は、そうも言ってられない。
私はメールを返した。
『了解。待ち合わせの時刻と場所を指定して下さい』
少し間を置いて、碧からメールが届いた。
『最後にお会いした喫茶店で14時。いかがでしょう』
……あの喫茶店を指定してきた。
私はメールを返した。
『了解しました』
私は支度して例の喫茶店に向かった。
喫茶店に着いて中に入ると、前回と同じ場所に碧が座っていた。
そして、前回と同じ装い。
「今日も待たせてしまいました」
「いえ、今日も、お約束した時間前です」
ウエイトレスさんが注文を取りにきた。
私はブレンドコーヒーを注文し、碧も同じものを、と言った。
ここまでは前回と同じ。
しかし、今日の碧は前回と違う。
注文したコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーに口を付けながら沈黙が続く。
碧が話し始めた。
「主任が同棲されている方って、昨日の女性ですよね」
「……なんでそう思う」
「なんとなく」
「……」
そう、昨日の時点で、ごまかす事は考えていなかったが、ここで否定しなかった事で認めた事になる。
「何でですか?」
「ああ」
「姪御さんって紹介されましたが、本当はどういったご関係なのですか」
「1年前に拾った」
碧は固まった。
まあ当然だろう。
想定外のはずだ。
私は、明里と最初に会った時の事と、明里の家庭事情を話した。
そして、明里に大学を受験させた事。
受験勉強をみてあげた事。
そして、明里が居てくれたお陰で、仕事の成果を出す事が出来た事……等を話した。
碧は、信じられない表情で言葉を向けた。
「いくら何でも……女子高生を拾って一緒に住み始めて……私は主任の同棲相手の方ってどのような方なのか、色々と想像していましたが、あまりにも……あまりにもかけ離れていて……」
「ですから碧さんは、とっとと私なんか整理して、他の人に目を向けて下さい」
「ふ~」
碧は、深く息を吐いた。
「……」
「あの……この先、どのようになさるのですか」
「……明里が大学を卒業したら、結婚する」
「……卒業するまでは、結婚されないのですか」
「……明里はまだ若い。明里にとって気の迷いかもしれない。……本当に、私と生涯を共に過ごせるのか……私より良い人が、この先現れるかもしれない」
「ふぅ~」
碧は、再び息を吐いた。
「人間、歳をとると、臆病になるのです」
「……それほど、お年を召されているとも、思えませんが」
「……」
突然碧は顔を上げた。
「……という事は?……私にも可能性、あるのですね!」
「えっ! いや、あの、碧さん?」
「私の博士論文、ご存じですか?」
「……いえ」
「可能性は無いって言われてたんです」
「……私は1人の女性しか愛せない」
「それは、『一度には』という事ですよね」
碧はにっこり笑って喫茶店の注文書を取り、「ごちそうさまでした」と言って会計に向かった。
私は失言を後悔し、うつむいたまま碧が店を出る扉の音を聞いた。
・・・・・・
私は適当な弁当を買ってマンションに戻った。
明里はまだ帰っていない。
弁当を食べた。
時計を見ると午後6時
明里は、夜には帰って来ると言って出かけた。
「夜って、何時だぁ?」
風呂を沸かし、風呂に入って、風呂から出た。
時計の針は、7時を過ぎたところ。
「あ~明里、早く帰ってこないかなあ~」
心の声が口に出てしまう。
これはいかんと思い、缶ビールを開けた。
1本飲み、2本飲み、3本めを開けようとした時、玄関扉の開く音がした。
「ただいま」
「……おかえり……今日は、どうだった?」
「はい、友達とカラオケ行って、ゲーセン行って、ボーリングに行って勝負しました」
「……」
「諦めたら、そこで試合終了だって言われました」
「……そう」
「だから、絶対に諦めません!」
明里の眼に、力が宿っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
始まってしまうのか……聖杯戦争、もとい、正妻戦争!
次回:何か思う所があるようで……
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