【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

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第4章

4-04 明里 VS 碧

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 今週の金、土、日は〇〇の国際展示場で、各企業共同参加による新製品発表会が行われる。
 私の会社からも、幾つかの発表がある。

 私の研究所の開発部は、試作品を完成させるまでの仕事である。
 その試作品が、コストや価格、市場規模等について、総合的に審議され、ビジネスとして成り立つと判断された場合、事業部に受け渡される。

 その後、量産の手法等、市場で発表されるまでには、もうひと山ある。
 以前、私が完成させた試作品がデビューする事となり、今回それが発表される。
 初日の金曜日は、業界関係者のみの公開で、次の土、日が一般公開日となっている。

 明里にそれを話したら、「いく、いく、いく」と言い出した。
「おじさんの仕事、絶対見たいです!」との事だ。

 明里は金曜日、大学の授業がある為、土曜日に行く事にした。
「会場で、もし会社の知人に会った時は、私の姪として紹介する」
「了解しました」

「後学の為に連れてきました。と」
「はい。私、リケジョですから」
 そんな打ち合わせをしておいた。

 そして土曜日となった。
 私はいつものスーツを着て、明里は入学式に買った正装で展示会場へ向かった。

 さすがに混んでいる。
 中でも私の会社のブースは混んでいる。
 市場からは、それだけ注目されているという事なのだろうか。

 明里に色々説明しながら回っていると、海外支部に赴任していた昔の同期が声を掛けたきた。
「よう」
「おーひさしぶり」
「元気?」
「まあ、なんとか」

「主任昇進おめでとう」
「あれ~良くご存じで」
「本社の組織図は目を通しているよ」

「いつ頃戻れそう?」
「ん~しばらくは、あれ、そちらのお嬢さんは?」
「ああ、私の姪、理系の大学生で、こういった事にも興味あって」

「初めまして」と、明里が挨拶した。
「こちらこそ、初めまして。綺麗な姪御さんだね~」
「あっ、ありがとうございます」

「大学では、もてもてでしょう?」
「いえ、そんな」

「おう、そう言えば、裕子さん元気?」
 急に私へ話を振って来た。
「あっ……いや……もう5年も前に、別れたよ」

「え~本当に~、あんなに仲良くって……ああ、すまんすまん」
「いや」
「今度また、機会を見つけて一杯」
「ああ」

「では、お嬢さん、ごきげんよう」
「はい、ありがとうございました」
 明里は笑顔で会釈した。

 彼は、会社のブースに向かって行った。
 明里としばらく沈黙が続いた。

「裕子さんっていうんですね」
 私は無視した。

「あんなに仲良くって言ってましたね」
 私は何も答えなかった。

 その時、
「主任」
 正面から碧が歩いてきた。

「あれ、今日は駆り出しですか?」
「そうなんです」
「ああ、この子は私の姪で、理系の、まだ学生ですが、後学の為に連れてきたんです」
「はじめまして」と、明里が挨拶した。

 私は碧を紹介した。
「こちら私の指南役の水瀬さん」
「指南役だなんて……はじめまして。そう、主任が担当された新製品、大変注目されていますよ」

「いゃあ、なんか娘の社交界デビューみたいな感じで」
「えぇ~あれは、女の子だったんですか~?」
 ……

 そう、本来これで終わるはずだった。
 ところが、先ほどの裕子という名を耳にした明里が、碧を直視している。

 直視されている碧は、明里に対して不思議な表情を浮かべていた。
 しかし、その表情は、次第に驚きの表情に変わっていった。

 私は慌てて割り込んだ。
「じゃあ、私達はそろそろ帰りますので」

 碧は明里の目をみて挨拶した。
「それでは、ごきげんよう」

 明里も碧の目を見て挨拶した。
「はい、ありがとうございました」

 そのまま、会場を出た。
 明里とは無言のままマンションに着いた。

 私は、明里に話しかけた。
「夕飯どうしよっか」
「あっ、ごめんなさい、今から食材買ってきます。なんだろう私、うっかりしちゃって。おじさん先にお風呂へ入って下さい」

「いや、何処かへ食べに行こうか」
「平気平気、もう帰ってきちゃいましたから」

 明里はお風呂の湯張りスイッチを入れて、炊飯の準備をして買い物に出て行った。
 そう、今晩は外食のつもりだった。
 だが、なんとなく、そんな気分ではなかった。

 お風呂の湯が張られたメッセージが流れた。
 私は、湯舟に浸かりながら来週からの事を考えていた。
 碧は、きっと気付いただろう。
 明里が同棲相手である事を。

 私が風呂から上がると、明里はキッチンで夕食の準備を進めていた。
 匂いから、カレーライスのようだ。
 テーブルの上には、サラダが盛り付けられていた。

 炊飯器が、炊きあがりを鳴らした。
 ご飯を盛って、カレーをかけて、私の前に置いてくれた。
 一緒に「いただきます」と言って、カレーライスを口に運んだ。

 ……これは、明里が最初の夕食で作ってくれたカレーライス。
 隠し味にココアが入ってます。と言われ、悪くないと思った。
 あのココアカレー、あの日以来、封印していた。
 今日、なんで再び。

 正面を向くと、明里はカレーを前にして、涙を流している。
「どうした?」
「かなわないです。私、水瀬さんには、かなわないです」

「何が、かなわないんだ?」
「わかりません、わかりませんが……」
 そう、水瀬碧は自分には自覚無いようだが、相手に対して戦意喪失させるような空気を身にまとっている。

「なんでそう思うんだ?」
「だって水瀬さん、絶対おじさんに思いを寄せています」

 ……明里の女の勘か。
 明里はスプーンを握りしめながら下を向いて涙を流していた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 明里さんは感じた。
 この先おじさんは……水瀬さんに傾く。

 次回:一度には
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