35 / 88
第4章
4-02 幸せな時間
しおりを挟む
いつものように、碧を含めて5人で昼食を取っていた。
碧が尋ねた。
「現在、どのような問題に取り組んでいるのですか?」
基本的に、担当している仕事については守秘義務があるのだが、社内の人間であれば問題ない。
インテリ君が、担当している内容と、解決出来ていない問題を説明した。
私のグループでは、ミーティング(検討会議)で、各自担当している問題を説明し、進め方に誤りがないか等を検証し、意見やアイディアを出しあう。
私は、碧に言った。
「そう、その部分、難航しているんですよ。水瀬さん、何かいいアイディアありませんか?」
「はあ、難しい問題、担当されているのですね」
と碧は答えた。
昼休みが終わり、私が席に着くと、碧からメールが届いた。
『さしでがましいようですが』といった前置きから、さっきのインテリ君の問題に対する碧からの見解が書かれていた。
そして最後に『主任は、部下に解決させるお考えと思いまして』と書かれていた。
碧の指摘した方向性、非常に興味深い。
部下を育てる為に部下に解決させる。
その考えもあるのだが、今の私のグループには、そんな余裕はない。
解決出来るのであれば、解決したい。
碧が、あの席で私案を披露しなかったのは、私の顔を立てて、私から伝えて欲しいとの事だろう。
どうするか、今すぐインテリ君に伝えるか?
いや……明日の昼までは、インテリ君に検討させよう。
・・・・・・
次の日の昼食も、5人でテーブルを囲んだ。
私は、昨日のインテリ君が抱えている問題に対して、私に送られた碧の私案を話した。
碧は、私の話に焦った表情をみせた。
インテリ君は、それを興味深く聞いている。
私は、その件に関して3人に話した。
「水瀬さんは、私の顔を立てて、私に私案を送ってきました。私のグループでは、それが誰のアイディアでも、利用出来るなら利用したい」
私は碧に言った。
「今後、何か気付かれた事があれば、直接伝えてあげて欲しい。私の顔を立てる事に気を配るようでは、貴女を私のグループへ受け入れる事は出来ません」
私の言葉に、3人は驚いている。
その中で、碧は私に目を合わせて笑みを浮かべた。
そう、私は来年度、碧を引き抜く事を決意した。
それについて、私なりに想定される全ての事を覚悟した。
その覚悟を碧は読み取ってくれたようだ。
・・・・・・
次の日から、ランチタイムは、現在抱えている問題の検討会に変貌した。
碧に対して、それぞれが抱えている問題を説明する。
それに対して碧は、進めるべき方向性を提案する。
まるで、女神様にまつわる信者のようだ。
2週間遅れのスケジュールが、あっという間にオンスケジュールとなった。
碧がいてくれれば、部下の能力を引き上げる事が出来そうだ。
・・・・・・
会社から帰宅して、いつものように明里と夕食を頂き、入浴を済ませた。
寝る前に軽く飲みたい気分になり、リビングへ行くと、明里はリビングテーブルで大学の専門書とノートを広げて勉強していた。
冷蔵庫からビールを取り出すと、
「あっ、ごめんなさい、テーブル使いますよね」
明里はテーブルの上を片付けようとした。
「いや、私は空いてるスペースで飲んでるから」
明里は、すまなそうに頭を下げた。
「何か、おつまみになるもの、作りましょうか?」
「いや、おかまいなく。……そーだね~、受験勉強の時は、私と一緒にこのテーブルで勉強していたけれど、これからは明里の部屋に机必要だよね」
私の話に対して、明里は遠慮がちに言った。
「あの~迷惑かけないようにしますから、今までどおり、このリビングテーブルで勉強してちゃ……だめですか?」
「いや、私は一向にかまわないけど、明里は自分の机、あった方がいいんじゃない?」
「ここで勉強していれば、今みたいにおじさんと一緒にいられますし……このテーブルの方がいいな~」
「……わかった」
了解すると、明里は笑顔を返してくれた。
私は、勉強している明里の脇で、ビールを飲み始めた。
……なんだろう、この感じ。
そう、以前、私の友人が、こんな事を話していた。
彼には、小学校2年生のお嬢さんがいる。
彼が仕事を終えて自宅に戻り、夕食を取る時、そのテーブルの脇で娘さんが勉強している。
2桁の足し算、引き算の演習問題を一生懸命やっている。
彼は娘さんを見ながら、頭の中でガンバレ~と応援しながら、脇でゆっくりとお酒を飲んでいる時、たまらなく幸せを感じるとの事だ。
私はその話を聞いた時、そんなもんかな~と思っていたが、今ならわかる、まったくその通りだ。
何という幸せな時間が流れているのだろう。
明里が勉強している専門書を覗き込んだ。
……ローレンツ変換
ほ~
私は、明里に声をかけた。
「どお?」
明里が顔を上げて答えた。
「うん、おもしろいです」
やれやれ、今日は飲みすぎてしまいそうだ。
明里が一生懸命勉強している脇で、飲むお酒。
なんて美味しいのだろう。
これからは、何かつまめる物を買って用意しよう。
私の中で、また1つ、楽しい事が増えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:さて、なんででしょう
碧が尋ねた。
「現在、どのような問題に取り組んでいるのですか?」
基本的に、担当している仕事については守秘義務があるのだが、社内の人間であれば問題ない。
インテリ君が、担当している内容と、解決出来ていない問題を説明した。
私のグループでは、ミーティング(検討会議)で、各自担当している問題を説明し、進め方に誤りがないか等を検証し、意見やアイディアを出しあう。
私は、碧に言った。
「そう、その部分、難航しているんですよ。水瀬さん、何かいいアイディアありませんか?」
「はあ、難しい問題、担当されているのですね」
と碧は答えた。
昼休みが終わり、私が席に着くと、碧からメールが届いた。
『さしでがましいようですが』といった前置きから、さっきのインテリ君の問題に対する碧からの見解が書かれていた。
そして最後に『主任は、部下に解決させるお考えと思いまして』と書かれていた。
碧の指摘した方向性、非常に興味深い。
部下を育てる為に部下に解決させる。
その考えもあるのだが、今の私のグループには、そんな余裕はない。
解決出来るのであれば、解決したい。
碧が、あの席で私案を披露しなかったのは、私の顔を立てて、私から伝えて欲しいとの事だろう。
どうするか、今すぐインテリ君に伝えるか?
いや……明日の昼までは、インテリ君に検討させよう。
・・・・・・
次の日の昼食も、5人でテーブルを囲んだ。
私は、昨日のインテリ君が抱えている問題に対して、私に送られた碧の私案を話した。
碧は、私の話に焦った表情をみせた。
インテリ君は、それを興味深く聞いている。
私は、その件に関して3人に話した。
「水瀬さんは、私の顔を立てて、私に私案を送ってきました。私のグループでは、それが誰のアイディアでも、利用出来るなら利用したい」
私は碧に言った。
「今後、何か気付かれた事があれば、直接伝えてあげて欲しい。私の顔を立てる事に気を配るようでは、貴女を私のグループへ受け入れる事は出来ません」
私の言葉に、3人は驚いている。
その中で、碧は私に目を合わせて笑みを浮かべた。
そう、私は来年度、碧を引き抜く事を決意した。
それについて、私なりに想定される全ての事を覚悟した。
その覚悟を碧は読み取ってくれたようだ。
・・・・・・
次の日から、ランチタイムは、現在抱えている問題の検討会に変貌した。
碧に対して、それぞれが抱えている問題を説明する。
それに対して碧は、進めるべき方向性を提案する。
まるで、女神様にまつわる信者のようだ。
2週間遅れのスケジュールが、あっという間にオンスケジュールとなった。
碧がいてくれれば、部下の能力を引き上げる事が出来そうだ。
・・・・・・
会社から帰宅して、いつものように明里と夕食を頂き、入浴を済ませた。
寝る前に軽く飲みたい気分になり、リビングへ行くと、明里はリビングテーブルで大学の専門書とノートを広げて勉強していた。
冷蔵庫からビールを取り出すと、
「あっ、ごめんなさい、テーブル使いますよね」
明里はテーブルの上を片付けようとした。
「いや、私は空いてるスペースで飲んでるから」
明里は、すまなそうに頭を下げた。
「何か、おつまみになるもの、作りましょうか?」
「いや、おかまいなく。……そーだね~、受験勉強の時は、私と一緒にこのテーブルで勉強していたけれど、これからは明里の部屋に机必要だよね」
私の話に対して、明里は遠慮がちに言った。
「あの~迷惑かけないようにしますから、今までどおり、このリビングテーブルで勉強してちゃ……だめですか?」
「いや、私は一向にかまわないけど、明里は自分の机、あった方がいいんじゃない?」
「ここで勉強していれば、今みたいにおじさんと一緒にいられますし……このテーブルの方がいいな~」
「……わかった」
了解すると、明里は笑顔を返してくれた。
私は、勉強している明里の脇で、ビールを飲み始めた。
……なんだろう、この感じ。
そう、以前、私の友人が、こんな事を話していた。
彼には、小学校2年生のお嬢さんがいる。
彼が仕事を終えて自宅に戻り、夕食を取る時、そのテーブルの脇で娘さんが勉強している。
2桁の足し算、引き算の演習問題を一生懸命やっている。
彼は娘さんを見ながら、頭の中でガンバレ~と応援しながら、脇でゆっくりとお酒を飲んでいる時、たまらなく幸せを感じるとの事だ。
私はその話を聞いた時、そんなもんかな~と思っていたが、今ならわかる、まったくその通りだ。
何という幸せな時間が流れているのだろう。
明里が勉強している専門書を覗き込んだ。
……ローレンツ変換
ほ~
私は、明里に声をかけた。
「どお?」
明里が顔を上げて答えた。
「うん、おもしろいです」
やれやれ、今日は飲みすぎてしまいそうだ。
明里が一生懸命勉強している脇で、飲むお酒。
なんて美味しいのだろう。
これからは、何かつまめる物を買って用意しよう。
私の中で、また1つ、楽しい事が増えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:さて、なんででしょう
5
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる