【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

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第4章

4-02 幸せな時間

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 いつものように、碧を含めて5人で昼食を取っていた。

 碧が尋ねた。
「現在、どのような問題に取り組んでいるのですか?」

 基本的に、担当している仕事については守秘義務があるのだが、社内の人間であれば問題ない。
 インテリ君が、担当している内容と、解決出来ていない問題を説明した。

 私のグループでは、ミーティング(検討会議)で、各自担当している問題を説明し、進め方に誤りがないか等を検証し、意見やアイディアを出しあう。

 私は、碧に言った。
「そう、その部分、難航しているんですよ。水瀬さん、何かいいアイディアありませんか?」
「はあ、難しい問題、担当されているのですね」
 と碧は答えた。

 昼休みが終わり、私が席に着くと、碧からメールが届いた。
 『さしでがましいようですが』といった前置きから、さっきのインテリ君の問題に対する碧からの見解が書かれていた。
 そして最後に『主任は、部下に解決させるお考えと思いまして』と書かれていた。

 碧の指摘した方向性、非常に興味深い。
 部下を育てる為に部下に解決させる。
 その考えもあるのだが、今の私のグループには、そんな余裕はない。
 解決出来るのであれば、解決したい。

 碧が、あの席で私案を披露しなかったのは、私の顔を立てて、私から伝えて欲しいとの事だろう。
 どうするか、今すぐインテリ君に伝えるか?
 いや……明日の昼までは、インテリ君に検討させよう。

・・・・・・

 次の日の昼食も、5人でテーブルを囲んだ。
 私は、昨日のインテリ君が抱えている問題に対して、私に送られた碧の私案を話した。

 碧は、私の話に焦った表情をみせた。
 インテリ君は、それを興味深く聞いている。
 私は、その件に関して3人に話した。

「水瀬さんは、私の顔を立てて、私に私案を送ってきました。私のグループでは、それが誰のアイディアでも、利用出来るなら利用したい」

 私は碧に言った。
「今後、何か気付かれた事があれば、直接伝えてあげて欲しい。私の顔を立てる事に気を配るようでは、貴女を私のグループへ受け入れる事は出来ません」

 私の言葉に、3人は驚いている。
 その中で、碧は私に目を合わせて笑みを浮かべた。

 そう、私は来年度、碧を引き抜く事を決意した。
 それについて、私なりに想定される全ての事を覚悟した。
 その覚悟を碧は読み取ってくれたようだ。

・・・・・・

 次の日から、ランチタイムは、現在抱えている問題の検討会に変貌した。
 碧に対して、それぞれが抱えている問題を説明する。
 それに対して碧は、進めるべき方向性を提案する。
 まるで、女神様にまつわる信者のようだ。

 2週間遅れのスケジュールが、あっという間にオンスケジュールとなった。
 碧がいてくれれば、部下の能力を引き上げる事が出来そうだ。

・・・・・・

 会社から帰宅して、いつものように明里と夕食を頂き、入浴を済ませた。
 寝る前に軽く飲みたい気分になり、リビングへ行くと、明里はリビングテーブルで大学の専門書とノートを広げて勉強していた。

 冷蔵庫からビールを取り出すと、
「あっ、ごめんなさい、テーブル使いますよね」
 明里はテーブルの上を片付けようとした。

「いや、私は空いてるスペースで飲んでるから」
 明里は、すまなそうに頭を下げた。

「何か、おつまみになるもの、作りましょうか?」
「いや、おかまいなく。……そーだね~、受験勉強の時は、私と一緒にこのテーブルで勉強していたけれど、これからは明里の部屋に机必要だよね」

 私の話に対して、明里は遠慮がちに言った。
「あの~迷惑かけないようにしますから、今までどおり、このリビングテーブルで勉強してちゃ……だめですか?」

「いや、私は一向にかまわないけど、明里は自分の机、あった方がいいんじゃない?」
「ここで勉強していれば、今みたいにおじさんと一緒にいられますし……このテーブルの方がいいな~」
「……わかった」
 了解すると、明里は笑顔を返してくれた。

 私は、勉強している明里の脇で、ビールを飲み始めた。
 ……なんだろう、この感じ。
 そう、以前、私の友人が、こんな事を話していた。

 彼には、小学校2年生のお嬢さんがいる。
 彼が仕事を終えて自宅に戻り、夕食を取る時、そのテーブルの脇で娘さんが勉強している。
 2桁の足し算、引き算の演習問題を一生懸命やっている。

 彼は娘さんを見ながら、頭の中でガンバレ~と応援しながら、脇でゆっくりとお酒を飲んでいる時、たまらなく幸せを感じるとの事だ。

 私はその話を聞いた時、そんなもんかな~と思っていたが、今ならわかる、まったくその通りだ。
 何という幸せな時間が流れているのだろう。

 明里が勉強している専門書を覗き込んだ。
 ……ローレンツ変換
 ほ~
 私は、明里に声をかけた。

「どお?」
 明里が顔を上げて答えた。
「うん、おもしろいです」

 やれやれ、今日は飲みすぎてしまいそうだ。
 明里が一生懸命勉強している脇で、飲むお酒。
 なんて美味しいのだろう。

 これからは、何かつまめる物を買って用意しよう。
 私の中で、また1つ、楽しい事が増えた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:さて、なんででしょう
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