【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

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第3章

3-09 疑惑

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 そして次の日、いつものように出社すると、新たな話が伝わってきた。

 水瀬女史が昨日、有給休暇申請を突然2週間出したとの事。
 本来、急病を例外として、有給休暇申請は前もって出すよう定められており、上司の承認を得て受理される。
 承認を得ず、それも長期に渡り休暇を取る事は許されていない。
 あの水瀬女史が?という事で、噂になって広がっていた。

 有給申請、気になる。まさか会社を辞めるとか?
 すると、部下のリーダー君が私の前に来た。
「主任、ちょっとお話があります」

 リーダー君の表情から、場所を変えた方がいいと判断した。
「ああ、E会議室が空いているから、そこでいいかな」
「はい」
 私とリーダー君は、会議室に入り、椅子に座った。

「今、主任の噂が広がっています」
「ああ下らない。放っとくつもりだ」
「噂というのは、本人に聞かれないように広がるものです。ですので、主任は噂から一番遠い所にいます」

「何かまずい噂……広がってる?」
「私が聞いた噂をお伝えします」
「ああ、頼む」

「まず、水瀬女史が、主任にお酒を注ぎに行った事から始まります」
「ああ、皆さん好奇な目で見ざるをえないようだ」
「すると、その噂を聞いた人の1人が、その噂に付け加えました。そういえば、新人の〇〇綾乃さんをカラオケに誘ったら、この後、主任と約束があるって」
「えっ」

「お互い社会人ですから何の問題もありません。ただ、入ったばかりの新人女子は、上司に誘われたら断れませんので、セクハラ、パワハラの類ではないかと……。本来このような事は、個人で誘うのではなく、複数で、グループで誘うべきではないのか、との話が出ています」

「わかった。〇〇綾乃さんを呼んできてくれる」
「わかりました」

 やれやれ、パワハラかぁ、しかし、お話しがありますと言ってきた……さすがはリーダー君だ。
 管理部の面倒な連中の耳に入ると、つまらない事になる。
 私が女子社員に人気のある上司であれば、それは彼女も同意の下と見なされるのだろうが、私のような冴えない男相手では、嫌がる女子社員に対して無理やり誘ったパワハラと見なされてしまう。

 しばらくして、リーダー君は綾乃を連れて戻ってきた。
「主任、すみません」
 綾乃は私を見るなり頭を下げた。
 どうやらこの噂、綾乃の耳にも入っていたようだ。

 綾乃は事の全てを、私の前でリーダー君に話した。
 実は、3人組にカラオケに誘われていた事。
 自分はカラオケが苦手だった事。
 しかし、先輩達の誘いを断れなかった事。

 丁度主任が通りかかった為、主任と約束があると言って3人に断った事。
 その後、3人が見えなくなった所で、主任と別れた事。

「わかりました、パワハラは3人組の方だった訳ですね。この噂、私がしずめます」
「ああ、お願い出来るかな。こればかりは疑惑の目で見られている私では、なんとも難しい。それに若い君の方が、そういった類のネットワーク持っているだろう」
「了解しました」

「この件について、1つお願いがある。3人組にしてみれば、綾乃さんは喜んでカラオケに付き合ってくれると思っていたのだろう。綾乃さんは3人組の誘いを嫌がっていたという事は伏せてほしい。今後、綾乃さんが仕事する上で、支障の無いように」

「それは……」
 リーダー君は、難しい表情を浮かべた。

「事実を公表して噂をしずめるのは誰にでも出来る。これは君にしか出来ない」
「……解りました、考えてみます」

 綾乃が言葉を挟んだ。
「あの、私、嫌われてもかまいません……本当に、主任にご迷惑おかけしてしまって……」
 リーダー君が、言葉を返した。
「綾乃さん、俺に任せて下さい」
 うん、さすがはリーダー君だ。
 この1件は、そのようにして綾乃を帰した。

 ……しかしリーダー君は、まだ残っている。
「……まだ……他にも?」
「はい。もう1つ、噂が広がっています」
「……」

 リーダー君は、話しはじめた。
「一昨日、主任と水瀬女史が温泉の帰り、渡り廊下で話しているのを見かけて、その後水瀬女史を見た者がいないと……」
 ……そうか、一緒にタクシーに乗った所は、誰にも見られていないようだ。

「いゃあ、君にもわかるだろう、水瀬女史は役職こそ付いていないが、私より遥かに発言力を持っている。だから私が水瀬女史に対して、パワハラ等ありえない」
「ええ、パワハラではありません。噂は主任が水瀬女史に、何かしたのではないかという話です」

「バカバカしい、何を根拠に」
「水瀬女史から有給休暇申請がメールで送られ、上司に電話がありました。上司は急に2週間も困ると言ったら、申し訳ありませんと言って……泣いているようだったとの事です。慌てて、ご親族に、ご不幸かなにか……と尋ねたら、いいえ、そのような事はありませんので心配なさらないで下さい。との事だそうです」

「で、最後に目撃された私が水瀬女史に何かしたのではないかと?」
「この噂は、悪ふざけから広がったように感じます」

「……君の想像を聞かせてほしい」
「水瀬女史にご執心な人は何人もいます。みんな真剣に交際を申し込んだものの、誰1人として叶う人はいませんでした。誰も相手にしなかった水瀬女史が主任の隣でお酒を注いでいる。心中穏やかではなかったでしょう」
「しかし、それで私が何かしたというのは飛躍している」

「これは、水瀬女史との交際が叶わなかった者達による、主任へのねたみや嫉妬です。お酒注いでもらって、勘違いして、無理やり誘って襲っちゃったんじゃない。と言った悪ふざけの冗談から、綾乃さんへのパワハラ疑惑が後押しして広がってしまった」

 私は、溜息をついた。
「わかりました。この件は放っときましょう。どうせ2週間後、水瀬女史が出社すれば、彼女の口から全てが明かされる」

「それを聞いて安心しました」
「おい、君もそういった目で、私をみていたのか?」
「いやぁ、そんな事ありえないと思いますが、もし私が主任の立場だったら、私だって男ですから、水瀬女史にお酒注いでもらったら、どこまで理性が保てるか?」
「おいおい、犯罪者にはならないでくれよ」

「はい、しかしそのぐらい、主任の隣に座っていた水瀬女史には、大変な衝撃を受けました」
「はいはい、解ったから、さっきの綾乃さんの件、それだけお願いする」
「了解しました」

「悪いね、本来の仕事以外の事まで頼んで」
「いいえ、主任の下に配属が決まった時、正直言いますと気持ちがトーンダウンしていたのですが、今は大変満足しています」
「……ありがとう。これからもよろしく」
「はい」

 ……そう……リーダー君は私を案じて、お話がありますと言ってきた。
 碧の現状を踏まえた上で、私の部下として満足していると言ってくれた。
 ……そうなんだ……と、思う事にしよう。

 私は会議室を出て、自分の席に着いた。
 気になって碧の携帯にメールしようと思ったが、しない事にした。
 上司に電話を入れたという事で、間違いを起こすような事はないだろう。

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 次回:今日は……
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