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第3章
3-08 私の隣には
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会社に着いた。
思っていたとおり、酔いのだるさは抜けていた。
「おはようございます」
部下が私を見るなり、挨拶してくれた。
「ああ、おはよう」
仕事に取り掛かろうとすると、別のグループの女性社員が、声を掛けてきた。
「主任、なんか主任の噂で持ち切りですよ」
「噂?」
私は、部下のインテリ君を呼んだ。
「あの……何か聞いてる?」
インテリ君は、ため息をついて答えた。
「一昨日の宴会で、水瀬女史が主任の隣に座ってお酒を注いでいた。ただ、それだけです」
「ああ、ただそれだけだ……それだけだよな?」
「水瀬女史をずっと目で追ってた人の話では、水瀬女史が席を立ったのは、主任にお酒を注ぎにいった時だけだそうです」
「……そう、ってずっと目で追ってたって、ストーカーじゃないか、けしからん奴だなぁ」
「第1研の〇〇部長です」
「あっそ」
はあ、〇〇部長、自分の所へ注ぎにきてくれるのを、ずっと目で追いかけて待ってたんだろうな~
「あの……どのようなお話をされてたのですか」
インテリ君がそんな質問をすると、何故か私の周りの人口密度が高くなったように感じた。
「いゃあ、主任昇進おめでとうございますって」
「第1研のエースが、第3研の主任に対してですか?」
「はい、解った。ありがとう」
そう言って、インテリ君を自分の席に帰した。
すると、私の周りの人口密度が急に低くなったように感じたのは、気のせいだろうか?
何か視線を感じる。
その先を見ると、綾乃がこちらを見ていた。
目が合うと、綾乃は目をそらして気まずそうに自分の席へ向かった。
・・・・・・
本日から、新組織としての業務が本格的に始動する。
私の部下として配属されたメンバーと、今後のプロジェクト及びスケジュールについて、初めてのミーティングを行った。
……何だろう?
先週の木曜日、私の部下として配属が決まったリーダー君とインテリ君だが、納得していない様相だった。
当然である。
彼らほど優秀な社員は、もっと勢いのある主任の下に配属されるべきである。
先週の社員旅行での宴会で、2人は挨拶しに来てくれた。
形式的な挨拶ではあったが、私は嬉しかった。
今後彼らと、どのように接したら良いのだろう?
彼らは私を上司として、認めてくれるのだろうか?
そんな不安を抱いていた。
しかし、何という事だろう。
今日の彼らは、真剣そのものであった。
私と向き合い、私の話を事細かく聞いてくれている。
そうか、彼らは本当に優秀なのだ。
たとえ、私のような者の下でも、仕事は真摯に取り組む考えだ。
……いや……それはそれで良いのだが……何か違うように感じる。
そう、今日会社に出社した時、何かいつもと違っていた。
私など相手にしない若手社員が、私とすれ違う時、軽く会釈してくれた。
ほ~主任になると、周りからの目も変わるんだ~等と思っていたが、何か違う。
そう、主任になったのは4月から。
今まではそのような事は1度もなかった。
どうした。
どうしたんだ。
この2日間で、何が変わった。
考えられる事は、1つしかない。
『あの水瀬碧が、私の隣でお酌した』
ただ、それだけだ。
ただ、それだけなのに、私の周りの人間が、私に対する見方を変えたのだ。
10年後は、第1研の所長と噂されている水瀬碧。
多くの研究者を蹴散らして、ラスボスの異名を持つ水瀬碧。
『……あの主任の後ろには、水瀬碧がいる』
これではまるで、虎の威を借る狐ではないか。
……もう、私の隣に……水瀬碧は、いないのだよ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回:疑惑
思っていたとおり、酔いのだるさは抜けていた。
「おはようございます」
部下が私を見るなり、挨拶してくれた。
「ああ、おはよう」
仕事に取り掛かろうとすると、別のグループの女性社員が、声を掛けてきた。
「主任、なんか主任の噂で持ち切りですよ」
「噂?」
私は、部下のインテリ君を呼んだ。
「あの……何か聞いてる?」
インテリ君は、ため息をついて答えた。
「一昨日の宴会で、水瀬女史が主任の隣に座ってお酒を注いでいた。ただ、それだけです」
「ああ、ただそれだけだ……それだけだよな?」
「水瀬女史をずっと目で追ってた人の話では、水瀬女史が席を立ったのは、主任にお酒を注ぎにいった時だけだそうです」
「……そう、ってずっと目で追ってたって、ストーカーじゃないか、けしからん奴だなぁ」
「第1研の〇〇部長です」
「あっそ」
はあ、〇〇部長、自分の所へ注ぎにきてくれるのを、ずっと目で追いかけて待ってたんだろうな~
「あの……どのようなお話をされてたのですか」
インテリ君がそんな質問をすると、何故か私の周りの人口密度が高くなったように感じた。
「いゃあ、主任昇進おめでとうございますって」
「第1研のエースが、第3研の主任に対してですか?」
「はい、解った。ありがとう」
そう言って、インテリ君を自分の席に帰した。
すると、私の周りの人口密度が急に低くなったように感じたのは、気のせいだろうか?
何か視線を感じる。
その先を見ると、綾乃がこちらを見ていた。
目が合うと、綾乃は目をそらして気まずそうに自分の席へ向かった。
・・・・・・
本日から、新組織としての業務が本格的に始動する。
私の部下として配属されたメンバーと、今後のプロジェクト及びスケジュールについて、初めてのミーティングを行った。
……何だろう?
先週の木曜日、私の部下として配属が決まったリーダー君とインテリ君だが、納得していない様相だった。
当然である。
彼らほど優秀な社員は、もっと勢いのある主任の下に配属されるべきである。
先週の社員旅行での宴会で、2人は挨拶しに来てくれた。
形式的な挨拶ではあったが、私は嬉しかった。
今後彼らと、どのように接したら良いのだろう?
彼らは私を上司として、認めてくれるのだろうか?
そんな不安を抱いていた。
しかし、何という事だろう。
今日の彼らは、真剣そのものであった。
私と向き合い、私の話を事細かく聞いてくれている。
そうか、彼らは本当に優秀なのだ。
たとえ、私のような者の下でも、仕事は真摯に取り組む考えだ。
……いや……それはそれで良いのだが……何か違うように感じる。
そう、今日会社に出社した時、何かいつもと違っていた。
私など相手にしない若手社員が、私とすれ違う時、軽く会釈してくれた。
ほ~主任になると、周りからの目も変わるんだ~等と思っていたが、何か違う。
そう、主任になったのは4月から。
今まではそのような事は1度もなかった。
どうした。
どうしたんだ。
この2日間で、何が変わった。
考えられる事は、1つしかない。
『あの水瀬碧が、私の隣でお酌した』
ただ、それだけだ。
ただ、それだけなのに、私の周りの人間が、私に対する見方を変えたのだ。
10年後は、第1研の所長と噂されている水瀬碧。
多くの研究者を蹴散らして、ラスボスの異名を持つ水瀬碧。
『……あの主任の後ろには、水瀬碧がいる』
これではまるで、虎の威を借る狐ではないか。
……もう、私の隣に……水瀬碧は、いないのだよ。
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次回:疑惑
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