【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

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第3章

3-05 あなたを追って

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 部屋のチャイムが鳴った。
「ルームサービスお持ちしました」
 部屋を開けると、メイドさんのような恰好をした女性が、オーダーしたお酒やグラス、軽食等を乗せたワゴンを運んできた。

「ありがとう」
 運んできた女性は会釈して、部屋から出て行った。
 私はワゴンをテーブルの近くまで移動させ、ソファーに腰を下ろした。

 やがて彼女は、バスルームから出てきた。
 バスローブをまとっている。
 あの中は裸なのだろうか。

 シャンプーと石鹸の香りが漂う。
「ルームサービス届いたのですね」
 彼女はバスタオルで髪を乾かしながら、私と向かい合わせのソファーに腰かけた。

 私は彼女に言った。
「貴女は私に、こんな事して、楽しいですか?」
 彼女は、クスッと笑った。
「はい。それと、そろそろ貴女という呼び方は変えて頂けませんか。ここまで来たのですから、碧と呼んで下さい」

 私は、立ち上がった。
「私、帰ります」
 私が部屋から出ようと扉のノブに手を掛けた時、
「待って下さい!」
 慌てて碧が呼び止めた。

「すみません。主任優しいから、つい甘えてしまいました」
 碧は下を向き、肩を落としていた。

 ……やれやれ、ここは私も、冷静に対応しなければいけないと思った。
 ソファーに戻り、ビールの栓を抜いた。
「せっかくですから、飲みましょう」
 グラスにビールを注ぎ、碧に渡した。
「ありがとうございます」

 そして、もう一つのグラスにビールを注いだ。
「では、みなさんが知らない碧さんに……カンパイ」
 碧も笑みを浮かべた。
「乾杯」

 一杯目のビールを飲み干すと、碧が話かけてきた。
「主任は私の……どのような噂を聞かれているのですか?」

「そりゃもう、容姿端麗、頭脳明晰、品行方正、三拍子揃った完璧な女性だと」
 碧は斜め下を向いて、暗い表情で笑っている。

数多あまた強者つわものどもが、交際を申し込んだものの、誰一人として生還した者はいないと」
「……私は、モンスターですね」

「ああ、それで第1研ではラスボスって呼ばれているのですか」
「……ラスボスって何ですか?」
「最後に出てくる最強のモンスターです」
「それは私、知りませんでした」

「噂なんて、本人の知らない所で広がっていくものですから」
 碧は、自分の持つグラスに目を落としながら、つぶやいた。
「ラスボスか~」

「私は、頓挫していたプロジェクトを入社2年で立て直した偉業から、怪物、化け物、と称されて、ラスボスって呼ばれているものと思っていましたが」

「……プロジェクトの部長が、この問題は解決出来ないので、プロジェクトを白紙に戻したいといった報告書を所長に提出した時、会社の仕組みを知らない新人の私が解決してしまったもので、部長の立場を潰しちゃったんです」
「……そんな事があったのですか」

「だから、……実は私、第1研で孤立してるんです」
 ……そうか、部長がその結論をまとめたという事は、そのプロジェクトを担当した研究員すべての結論だったのだろう。

「しかし所長も含め、会社の上層部は貴女を高く評価している。10年後には第1研の所長になる人だと……」
「私はただ、研究に専念できる環境で仕事したいだけです」
 ……あれ?……さっきまでのふしだら碧は、何処へ行ってしまったのだろう?

「碧さんは、今まで私がこの社員旅行に不参加だった事、ご存じでしたよね」
 碧は顔を上げた。
「はい」

「碧さんは私に、やっと会えたと言ってました」
「はい、私は、あなたを追って、この会社に入りました」
「ええ?……私は、貴女を知らない」
「はい、その通りだと思います」
「……」

「実はこのような所で、主任とゆっくりお話ししたかったのです」
「ゆっくりと……ですか」
「あっ、その前に、先ほどは大変失礼致しました」
 碧は深々と頭を下げた。
「どうしたんです」

「主任から優しい空気が伝わってくるもので、つい甘えてしまいました」
「私って、そうなんですか?」

 碧は微笑みながら言った
「はい。……やはり自覚が無いようですね」
「……」

「でも、私ってやっぱりダメね、慣れない事しても……うまく行かない事、自覚しました」
「慣れない事……ですか」

「白状しますとドキドキでした。気持ちを静める為にシャワー浴びて……」
「いや~それは反則ですよ。普通シャワー浴びたら、あとはやるだけがお約束でしょう」

「……そうなのですか?」
 うわ~ここにもバカが1人いた。
 碧の今までの言動は、ふしだらな性格からではなく、ナチュラルだったという事か。

「わかりました、お酒飲みながら、ゆっくりとお話ししましょう」
 こんな調子で話は始まった。

 碧が話し始めた。
「私の大学での後期論文の研究で、様々な方法を試したのですが、目的とした結果を出す事が出来ませんでした」
「後期論文というと博士論文ですね」

「はい。その時、私の研究内容に近い研究をされている論文を見つけました。主任が4年前、国際会議で行われた研究発表と、提出された論文です」
 私は瞬時、真顔に返った。

「私の論文を……読まれたのですか」
「はい……整然としていて……美しさのあまり涙が溢れました」
「いや~あの論文の査読評価は、担当された方、2人ともアベレージでしたよ」
「あの論文、十分な理解、されていないと思います」
「……」

「私は主任の論文から研究方法を改め、結果を出す事に成功しました。そして、ドクタータイトルを取る事が出来ました」
「それは良かったです。私としても嬉しいです」

「私はあの論文を発表した会社と研究者を調べて、ここへ入社しました」
「……はあ?」
「私は主任の目に留まりたくて、この2年間、必死に成果を出してきました」
「いや~この仕事、必死になったからといって成果が出せるものでもないでしょう」

「しかし、社内での主任の評価が低いという話しを聞きました。そこで私は主任が担当されている研究内容を社内ネットワークで調べました」
「……調べたんですか」

「最初の印象は、それほど難しい内容でも無いように感じました。なのに1年以上かけて何の成果も出せていない。もしかしたら、あの論文は別の方が書いたものを、主任が自分の名前で発表したのではないかとさえ思い、そうであれば、色々と思う所がありました」
「……」

「私は仕事の合間をみて、主任が担当されている問題を検討しました。私がその問題を解決出来れば、私はこの会社にいる意味は無いと考え、会社を辞めるつもりでした」
「いや……それは……」

「そして、それに取り組んで 1ヵ月ぐらいして、初めてその問題の難しさに気付かされました。これ……解が無い」
「……気付かれましたか」

「その後、その問題が解決した報告を社内ネットで知りました。その報告書を読んで、私はあの論文を書かれた方は、間違いなく主任である事を確信しました」
「……まあ、私の中でも、色々ありましたから」

「会社は主任の能力を推し測れていません」
「いやあ、そんな事ないですよ」

「来年、私は第3研へ異動願いを出しますので、主任の下で仕事させて下さい」
「出たよ! また訳の解らない! この天然娘が!!」
「……だめですかぁ?」
 うっ、この上目遣い……やばい、やばい!

「さあ、今は碧さんと2人きりです、飲もう飲もう」
「はいっ」

 ……やばかった~ 危うく全てを持っていかれるところだった。
 碧の破壊力……恐るべし!

 その日、明け方まで、碧と飲み明かした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次回:適当な話を
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