【完結】おじさんが家出少女を自宅で囲う

青村砂希

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第3章

3-02 社員旅行

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 私は、明里から渡された封筒を開けた。
 中に入っていたのは、衣類に入れる防虫用ナフタリンだった。
 ……私に悪い虫がつかないように?
 今時の娘は、こんな事をするのだろうか?

 私は簡単に荷物をまとめ、お昼過ぎに出発した。
 社員旅行のホテルに着いたのは4時前だった。
 泊まる部屋は、あらかじめ決められており、荷物を置いて浴衣に着替え、大宴会場に向かった。

 200席ぐらいだろうか。
 既に半分ぐらいの人が席に着いていた。
 席も、あらかじめ決められており、自分の部所と名前を探して席に着いた。

 だいたい同じ部所でまとめられているようだ。
 新人から前の席で、私の周りは同僚でまとめられている。

「よう!」
 同期の人が声を掛けてきた。
「あっ、お久しぶり」
「遅かったな」

 ここでの遅かったとは、主任への昇進の意味だろうか?
 私は、ごまかすように答えた。
「まだ、集合時刻前だろう?」

「……昇進の事だよ」
「ハハハ、同期の中で一番遅いから」
「いゃあ、途中で辞めてった奴、一杯いるよ」

「私は、のらりくらりと、会社から追ん出されるまで、しがみついているよ」
「あいかわらずだなあ」
 そう言って、彼は離れていった。

 5時になった。
 最初に社長の挨拶、1分程度で次に取締役が乾杯の音頭を取った。
 話が短くて良い。
 宴会が始まった。

 私は、3人の部下が参加しているか目で探した。
 3人ともいる。
 新人はともかく、2人が参加してくれた事に安堵した。
 さすがは優良社員、私と違って良識をわきまえている。

 私はタイミングを見計らい、ビール瓶を持って直属の上司である部長の席へ挨拶に行った。
「部長、お疲れ様です」
「ああ、今年は来てくれたか」

「あの、今回は、ありがとうございました」
「いやね……丁度1年ぐらい前、なんか君を見ていると覇気がないというか、心配してたんだが、6月頃から生き生きしてきたというか、良く立ち直ってくれた」
「はい、お陰様で」
 私は部長に頭を下げた。
 ……そう、明里のお陰だ。

「この仕事は、いくら努力しても結果を出せない時がある。そんな中で、たくさんの人が潰れていったのを見てきた。こればかりは手を貸せる人はいない。私が出来る事といったら予算を取ってくる事ぐらいだ」
「はい、部長には、大変ご心配をお掛けしました」

「これからも期待しているよ」
「ありがとうございます」
 私は部長に深く頭を下げ、自分の席へ向かった。
 上に立つのも、大変なものだ。

 私が席に着いた時、見計らったようにリーダー君とインテリ君の2人がビール瓶を持って私に挨拶しにきた。
 私の正面に座って「今後とも、よろしくお願いします」と挨拶してくれた。
 私はビールを注いでもらいながら「こちらこそ、よろしく」と返した。

 私は近くの御盆からグラスを2つ持って来て、2人にビールを注いだ。
 2人に注いでもらったビールを飲み干すと「では、失礼します」と会釈して2人は席を離れた。

 いま、私の周りに人はいない。
 みんな上司やら同僚に、お酒を注ぎにまわっている。
 これでゆっくり食事をとれる。
 そう思った矢先、私の右後ろにスッとひざまずく人影を感じた。

 振り向くと、私の下に配属された新人の綾乃だった。
「主任、お疲れ様です」
 綾乃は、日本酒の徳利を持っていた。

「主任は日本酒、大丈夫ですか」
「あ、ああ」
 私は、ビールのグラスを置いて日本酒のグラスを持った。

 ひざまずいていた綾乃は前へ進み、私の右隣に座った。
 この宴会場で男性は水色、女性は桃色の浴衣を着ている。
 よって、桃色の浴衣が横に座ると非常に目立つのである。

 同僚が気付いて寄ってきた。
「あれぇ、いいですね~」
 綾乃は日本酒を注ぎながら「今後とも、よろしくお願い致します」と挨拶し、私も「こちらこそ、よろしく」と返した。

 綾乃が私にお酒を注いでいる時、同僚がスマホで写真を撮った。
「後で送るから、もう1枚、こっち向いて」
 私と綾乃が正面を向いた時、再びシャッターが切られた。
「はい、OKです」

 同僚は、にこにこして、席から離れていった。
 私と綾乃は向き合って、笑いを浮かべた。

「綾乃さんは、大学での専攻は?」
「私の専攻は発光有機素材の被膜化です」
「物理学と応用化学の分野ですね」

「そうなんです、私は物理寄りの選択科目を取ってきたもので、研究室に入ってからは、化学を基礎から勉強し直しました」
「まあ、この部所は、両方必要だから、期待しています」

「私、主任の下に付けて、本当に嬉しく思っています」
「ええ~?私のような残念な者の下に配属されて、正直気の毒に思っている」
「なんでですか~ 私、主任にオーラを感じます」
「オーラァ?……最近の若い娘は、そういった言葉を使うんだぁ」

「私、この先も主任に付いていきます!」
「ほんとぉ?」

 そんな話を交わしていると、別の同僚が2人集まってきた。
 私と初々しい新人の女性部下とのツーショットが、うらやましく見えたのだろう。
 綾乃はその空気を感じとって、丁寧にお辞儀して席を離れた。

 2人の同僚は、微笑ましい顔を私に向けている。
 突然その笑顔が真顔になった。

 ……なんだろう?

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 次回:ラスボス
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