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第1章
1-11 しかし、まあ、なんだねぇ
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明里が受験した大学で、最初の合格発表の日を迎えた。
目標の大学を5校。合格圏に入っている大学を2校受験した。
今日はその中でも、目標としている大学の発表である。
合否の結果はインターネットで確認する。
受験番号を入力する事で合否の結果が表示される。
しかし私には受験番号を教えてくれない。
発表は午前10時から。
明里は、いつものように朝6時に起きて、落ち着かない様子。
突然、玄関で履物を履いている。
「……どうしたぁ?」
「夕食の食材、買いに行ってきます」
「まだ9時だよ」
「近くのスーパーは9時から開店」
「今いかなくても」
「落ちてたら、買い物に行く元気なくなりそう」
「結果発表は今日が最後って訳じゃないんだから」
「行ってきま~す」
明里は飛び出して行った。
……やれやれ。
しかし、落ち着かないのは私も同様である。
今、この部屋は、私一人となってしまった。
静寂の中、秒針の音だけが鳴り響いている。
……この時計の秒針って、こんなに大きな音だっけ。
「ピンポ~ン」
玄関チャイムにビクッとした。
こんな時に……誰だぁ?
もし、ここに明里が居たら、笑われてしまうではないか。
明里が買い物に行っていて……良かった~
・・・・・・
9時55分、明里は夕食の買い物を終えて、息を切らして帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえり」
「まにあったぁ~」
「ん?」
「発表は、おじさんと一緒にみたいの」
「……そう」
「あ~あと3分」
明里はリビングテーブルの椅子に座り、両手を合わせて祈りながら、足はバタバタさせている。
10時と共に、合否結果サイトにアクセス。
画面には、『現在アクセスが集中しており、つながりにくい状況となっております。しばらく時間をおいてから再度お試しください』
「……」
「……」
5分後、再びアクセス。
『現在アクセスが集中しており……』
私は独り言のように言った。
「しかし、まあ、なんだねぇ」
「……おじさん……ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「……はい、何でしょう」
「何か……楽しんでいませんか?」
「……なんで?」
「……なんか……楽しそうだから」
「いや……そんな事はない」
「……」
「いや~もし残念な結果であっても、明里が落ち込まないように、明るく振舞わないと……と思いまして」
「お気遣い頂き、痛み入ります」
「……すみません」
私は無神経な発言に謝罪した。
「……ごめんなさい」
明里も心無い返しに謝ってきた。
私は、明里の落ち着かない様子をみていると、なんだか申し訳ない気分になってきた。
「あ~本当は明里と一緒に合否の結果を見たかったんだが……」
明里は意味不明の表情を私に向けた。
「実は明里がさっきスーパーに行っている間、明里宛てに書留が届きました」
私は隠していた封筒を明里に渡した。
明里が受験した大学からである。
もちろん開封していないが、何か色々入っている。
「開けてみて」
明里は手を震わせながら開封した。
中に入っていたのは入学手続き書類一式と合格通知。
「おめでとう」
明里は合格通知を握り締めながら、泣きそうな声で言った。
「……ありがとう……おじさん」
「はい。よくがんばりました」
私は、明里の頭を髪がくしゃくしゃになるまで、なでまわした。
明里が合格通知を見た時、『大喜び』といった表情ではなかった。
ギュッと眼をつぶって下を向いて……「良かった」と言葉を漏らした。
必死に応えたかった……そんな表情だった。
その日、明里の買ってきた食材で、ゆっくりと食事しながら合格祝いをした。
・・・・・・
結果として、7校受けて合格したのは、目標としていた大学1校と、合格圏として受けた1校だけだった。
「目標大学、受かってよかったね」
「運が味方してくれました」
「私が渡した、お守りカイロのお陰かな」
「そのお守りじゃ……ないよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
明里さん、目標大学合格おめでとう。
たぶん、おじさんのほうが喜んでる。
次回:ひさしぶりの1人生活
目標の大学を5校。合格圏に入っている大学を2校受験した。
今日はその中でも、目標としている大学の発表である。
合否の結果はインターネットで確認する。
受験番号を入力する事で合否の結果が表示される。
しかし私には受験番号を教えてくれない。
発表は午前10時から。
明里は、いつものように朝6時に起きて、落ち着かない様子。
突然、玄関で履物を履いている。
「……どうしたぁ?」
「夕食の食材、買いに行ってきます」
「まだ9時だよ」
「近くのスーパーは9時から開店」
「今いかなくても」
「落ちてたら、買い物に行く元気なくなりそう」
「結果発表は今日が最後って訳じゃないんだから」
「行ってきま~す」
明里は飛び出して行った。
……やれやれ。
しかし、落ち着かないのは私も同様である。
今、この部屋は、私一人となってしまった。
静寂の中、秒針の音だけが鳴り響いている。
……この時計の秒針って、こんなに大きな音だっけ。
「ピンポ~ン」
玄関チャイムにビクッとした。
こんな時に……誰だぁ?
もし、ここに明里が居たら、笑われてしまうではないか。
明里が買い物に行っていて……良かった~
・・・・・・
9時55分、明里は夕食の買い物を終えて、息を切らして帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえり」
「まにあったぁ~」
「ん?」
「発表は、おじさんと一緒にみたいの」
「……そう」
「あ~あと3分」
明里はリビングテーブルの椅子に座り、両手を合わせて祈りながら、足はバタバタさせている。
10時と共に、合否結果サイトにアクセス。
画面には、『現在アクセスが集中しており、つながりにくい状況となっております。しばらく時間をおいてから再度お試しください』
「……」
「……」
5分後、再びアクセス。
『現在アクセスが集中しており……』
私は独り言のように言った。
「しかし、まあ、なんだねぇ」
「……おじさん……ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「……はい、何でしょう」
「何か……楽しんでいませんか?」
「……なんで?」
「……なんか……楽しそうだから」
「いや……そんな事はない」
「……」
「いや~もし残念な結果であっても、明里が落ち込まないように、明るく振舞わないと……と思いまして」
「お気遣い頂き、痛み入ります」
「……すみません」
私は無神経な発言に謝罪した。
「……ごめんなさい」
明里も心無い返しに謝ってきた。
私は、明里の落ち着かない様子をみていると、なんだか申し訳ない気分になってきた。
「あ~本当は明里と一緒に合否の結果を見たかったんだが……」
明里は意味不明の表情を私に向けた。
「実は明里がさっきスーパーに行っている間、明里宛てに書留が届きました」
私は隠していた封筒を明里に渡した。
明里が受験した大学からである。
もちろん開封していないが、何か色々入っている。
「開けてみて」
明里は手を震わせながら開封した。
中に入っていたのは入学手続き書類一式と合格通知。
「おめでとう」
明里は合格通知を握り締めながら、泣きそうな声で言った。
「……ありがとう……おじさん」
「はい。よくがんばりました」
私は、明里の頭を髪がくしゃくしゃになるまで、なでまわした。
明里が合格通知を見た時、『大喜び』といった表情ではなかった。
ギュッと眼をつぶって下を向いて……「良かった」と言葉を漏らした。
必死に応えたかった……そんな表情だった。
その日、明里の買ってきた食材で、ゆっくりと食事しながら合格祝いをした。
・・・・・・
結果として、7校受けて合格したのは、目標としていた大学1校と、合格圏として受けた1校だけだった。
「目標大学、受かってよかったね」
「運が味方してくれました」
「私が渡した、お守りカイロのお陰かな」
「そのお守りじゃ……ないよ」
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明里さん、目標大学合格おめでとう。
たぶん、おじさんのほうが喜んでる。
次回:ひさしぶりの1人生活
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