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第六章 俺は魔女の能力を侮っていたのかもしれない
07 これまで忘却していた存在
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「お盆休み。そう言えば世間にはそんなものもあったんだな……」
いつも通りの会社からの帰り道。
スーパーに、向かって車を走らせていた俺はそんな独り言を漏らしてしまう。
何故に突然そんなことを思ったかというと、仕事中の雑談の中で何気なく夏期休暇の予定を聞かれたからだ。
初めは「何ですかそれ?」と、思わず返してしまった俺だったが、詳しく話を聞いているうちに日本の基本的な風習について思い出した次第。
最も、それに思い出した俺が「あるんだ。長期休暇……」と呟いてから同僚の皆さんに生暖かい目で見られたのは早急に記憶から追い出したい。
それを前提に窓の外の風景に目を向ければ、成る程。
いつもとは違う様子の子供達や家族連れが、歩道を歩いたり走ったりしているのが見て取れた。
今日は平日だが、イメージとしては休日の町並みと思えば違和感はないだろう。
「成る程。学校は既に夏休みに入ったか」
俺はようやく色々納得し、サンバイザーに挟み込んでいたリリ作成のお買い物メモに目を向けた後、目的のスーパーに向かった。
◇◇◇◇
「おや?」
買い物を終え、家の門を開けるために車を止めた俺の目に入ったのは、門の格子越しに庭を覗き込んでいる小さな女の子の姿だった。
俺の腰くらいまでしかない身長に、頭の左右で纏められた髪は尻尾のようにそれぞれ下げられたツインテール。
通常であれば「どこの家の子だ?」となるようなこのようなシュチュエーションも、この辺で一人で遊んでいても不思議に思われないような近所の女の子など一人しかいなかったから、俺は車から降りると迷わず近づいて声をかけた。
「真奈美ちゃんこんにちは。どうしたの? おじさんの家に何かようかい?」
「おじちゃん。こんばんは」
俺の声に庭の中を覗いていた真奈美ちゃんはこちらに体全体を向けると、両足を揃えてペコリと頭を下げて挨拶を返してくれた。
うん。こういう所は翠が教える事はないだろうから、きっと明美夫人が教えてるんだろうなー等と思うが、真奈美ちゃんの挨拶に気がついて空に目を向けると、うっすらと暗くなり始める所だった。
成る程。これは確かにこんにちはではなくこんばんはですね。
「お母さんはどうしたの? こんな時間に一人で危ないだろう?」
「ママね。気がついたらいなかったの」
「はあ?」
真奈美ちゃんの言葉に俺は間抜けな声を上げつつ周りを見る。
何やら真奈美ちゃんは自分の家の方角を指さしながら首を傾げているが、目の見える範囲には人の姿は無かった。
というか、この辺りは民家も少ないし普段から人通りも少ないが、何と言うか、本当に不自然な程人の姿が見えなかったのだ。
「うーん……。そっか。まあ、もうすぐ暗くなるし帰った方がいいよ。おじさん送っていくからさ」
「ありがとー」
翠ではないがはぐれたらいけないと手を伸ばした俺だったが、お礼を言った割に真奈美ちゃんの反応が悪い。
俺と会話しつつも何やらチラチラと庭に目を向けているようだったので、俺も自宅の庭に目を向ける。
特に目新しい物もない何時もの庭の姿にしか見えないのだが。
「どうしたの? 何か面白いものでも見つけた?」
「お花!」
俺の問いかけに、真奈美ちゃんはニパッと笑うと庭の一角に向けて指を差す。
そこには作りかけの畑……のようなものが荒地のように広がっており、淵の部分を白い花弁を広げた花が囲っていた。
あの花に関しては別に種から育てたわけでもなく、既に咲いていたものを買ってきて植え替えただけのものである。
確か、花屋の店員の話ではマーガレットだったと思う。
あんなものを植えた理由としては、初めは元気に土いじりをしていた金髪だったが、遅々として進まない整地と体の痛みから、徐々にモチベーションが落ちてしまっていた。
それでも弱音も吐かずに続けていたのだが、日に日に目が死んでいくのを気の毒に思ってリリに相談して植えたのがあの花である。
一応、自分が慣らした場所に花が咲いているのが嬉しかったのか、最近ではまた元気に土いじりを再開していた。
まあ、休日に毎回駆り出される俺としては複雑な気分ではあったが。
「そっか。真奈美ちゃんは初めて見たのか。もっと近くで見てみる?」
「いいの?」
「いいよ。少しなら」
俺が頷いて門を開けると、真奈美ちゃんはパッと畑に向かって駆けていく。
俺はその後ろ姿を確認した後に車を庭の中に入れると、畑に向かった。
畑では真奈美ちゃんが膝を折って花を眺めていた。
「きれい」
「そっか。それは良かった」
真奈美ちゃんの隣に腰を下ろし、同じように花を眺める。
真奈美ちゃんは喜んでいるが、何となく花たちも元気がないような気がする。
植え替えた土地が悪かったのか、植え替え自体が悪かったのか、世話が悪いのかは分からないが。
「ここ花壇?」
「ん? いや……畑? かなぁ……」
一応畑……だと思うが、自信を持って言い切れない。
そして、それは真奈美ちゃんも同じだったのだろう。コテンと首を傾げた。
「畑? おじいちゃんのと違う」
「いや、本職の奴と比べないで欲しんだけど」
素人の土いじりと本業を比べたら流石に金髪が哀れだ。後俺。
確かに今の畑はある程度石を取り除いて空気を入れて柔らかくはなっているが、堆肥も混ぜてないし……というか、それ以前の状態だ。
そもそも広さが違いすぎて真奈美ちゃんの目には花壇にしか見えないのだろう。
「まあ、そのうちね。ひょっとしたら花壇になっちゃうかもしれないけど」
「そーなの?」
「うん。まあ、上手くいくかわかんないし。さて」
俺は立ち上がると空を見上げる。
既に空は黄昏色に染まり、これ以上は本格的に不味かろう。
いくら夏とはいえ、暗くなり始めたらあっという間だ。
「もう帰ろう。送っていくよ」
「うん」
手を差し出した俺に、真奈美ちゃんは今度は素直に手を乗せてきた。
その手を握り、庭の外に向かって歩き出すと、少し暗くなり始めた田舎道を、まるで俺の家を避けるように迂回していく近所の人たちの姿が遠目に見えた。
これは多分リリが何かやってるな。
真奈美ちゃんの手を引いて千堂さんの家に向かいながら、帰ったら聞いてみようと思った。
いつも通りの会社からの帰り道。
スーパーに、向かって車を走らせていた俺はそんな独り言を漏らしてしまう。
何故に突然そんなことを思ったかというと、仕事中の雑談の中で何気なく夏期休暇の予定を聞かれたからだ。
初めは「何ですかそれ?」と、思わず返してしまった俺だったが、詳しく話を聞いているうちに日本の基本的な風習について思い出した次第。
最も、それに思い出した俺が「あるんだ。長期休暇……」と呟いてから同僚の皆さんに生暖かい目で見られたのは早急に記憶から追い出したい。
それを前提に窓の外の風景に目を向ければ、成る程。
いつもとは違う様子の子供達や家族連れが、歩道を歩いたり走ったりしているのが見て取れた。
今日は平日だが、イメージとしては休日の町並みと思えば違和感はないだろう。
「成る程。学校は既に夏休みに入ったか」
俺はようやく色々納得し、サンバイザーに挟み込んでいたリリ作成のお買い物メモに目を向けた後、目的のスーパーに向かった。
◇◇◇◇
「おや?」
買い物を終え、家の門を開けるために車を止めた俺の目に入ったのは、門の格子越しに庭を覗き込んでいる小さな女の子の姿だった。
俺の腰くらいまでしかない身長に、頭の左右で纏められた髪は尻尾のようにそれぞれ下げられたツインテール。
通常であれば「どこの家の子だ?」となるようなこのようなシュチュエーションも、この辺で一人で遊んでいても不思議に思われないような近所の女の子など一人しかいなかったから、俺は車から降りると迷わず近づいて声をかけた。
「真奈美ちゃんこんにちは。どうしたの? おじさんの家に何かようかい?」
「おじちゃん。こんばんは」
俺の声に庭の中を覗いていた真奈美ちゃんはこちらに体全体を向けると、両足を揃えてペコリと頭を下げて挨拶を返してくれた。
うん。こういう所は翠が教える事はないだろうから、きっと明美夫人が教えてるんだろうなー等と思うが、真奈美ちゃんの挨拶に気がついて空に目を向けると、うっすらと暗くなり始める所だった。
成る程。これは確かにこんにちはではなくこんばんはですね。
「お母さんはどうしたの? こんな時間に一人で危ないだろう?」
「ママね。気がついたらいなかったの」
「はあ?」
真奈美ちゃんの言葉に俺は間抜けな声を上げつつ周りを見る。
何やら真奈美ちゃんは自分の家の方角を指さしながら首を傾げているが、目の見える範囲には人の姿は無かった。
というか、この辺りは民家も少ないし普段から人通りも少ないが、何と言うか、本当に不自然な程人の姿が見えなかったのだ。
「うーん……。そっか。まあ、もうすぐ暗くなるし帰った方がいいよ。おじさん送っていくからさ」
「ありがとー」
翠ではないがはぐれたらいけないと手を伸ばした俺だったが、お礼を言った割に真奈美ちゃんの反応が悪い。
俺と会話しつつも何やらチラチラと庭に目を向けているようだったので、俺も自宅の庭に目を向ける。
特に目新しい物もない何時もの庭の姿にしか見えないのだが。
「どうしたの? 何か面白いものでも見つけた?」
「お花!」
俺の問いかけに、真奈美ちゃんはニパッと笑うと庭の一角に向けて指を差す。
そこには作りかけの畑……のようなものが荒地のように広がっており、淵の部分を白い花弁を広げた花が囲っていた。
あの花に関しては別に種から育てたわけでもなく、既に咲いていたものを買ってきて植え替えただけのものである。
確か、花屋の店員の話ではマーガレットだったと思う。
あんなものを植えた理由としては、初めは元気に土いじりをしていた金髪だったが、遅々として進まない整地と体の痛みから、徐々にモチベーションが落ちてしまっていた。
それでも弱音も吐かずに続けていたのだが、日に日に目が死んでいくのを気の毒に思ってリリに相談して植えたのがあの花である。
一応、自分が慣らした場所に花が咲いているのが嬉しかったのか、最近ではまた元気に土いじりを再開していた。
まあ、休日に毎回駆り出される俺としては複雑な気分ではあったが。
「そっか。真奈美ちゃんは初めて見たのか。もっと近くで見てみる?」
「いいの?」
「いいよ。少しなら」
俺が頷いて門を開けると、真奈美ちゃんはパッと畑に向かって駆けていく。
俺はその後ろ姿を確認した後に車を庭の中に入れると、畑に向かった。
畑では真奈美ちゃんが膝を折って花を眺めていた。
「きれい」
「そっか。それは良かった」
真奈美ちゃんの隣に腰を下ろし、同じように花を眺める。
真奈美ちゃんは喜んでいるが、何となく花たちも元気がないような気がする。
植え替えた土地が悪かったのか、植え替え自体が悪かったのか、世話が悪いのかは分からないが。
「ここ花壇?」
「ん? いや……畑? かなぁ……」
一応畑……だと思うが、自信を持って言い切れない。
そして、それは真奈美ちゃんも同じだったのだろう。コテンと首を傾げた。
「畑? おじいちゃんのと違う」
「いや、本職の奴と比べないで欲しんだけど」
素人の土いじりと本業を比べたら流石に金髪が哀れだ。後俺。
確かに今の畑はある程度石を取り除いて空気を入れて柔らかくはなっているが、堆肥も混ぜてないし……というか、それ以前の状態だ。
そもそも広さが違いすぎて真奈美ちゃんの目には花壇にしか見えないのだろう。
「まあ、そのうちね。ひょっとしたら花壇になっちゃうかもしれないけど」
「そーなの?」
「うん。まあ、上手くいくかわかんないし。さて」
俺は立ち上がると空を見上げる。
既に空は黄昏色に染まり、これ以上は本格的に不味かろう。
いくら夏とはいえ、暗くなり始めたらあっという間だ。
「もう帰ろう。送っていくよ」
「うん」
手を差し出した俺に、真奈美ちゃんは今度は素直に手を乗せてきた。
その手を握り、庭の外に向かって歩き出すと、少し暗くなり始めた田舎道を、まるで俺の家を避けるように迂回していく近所の人たちの姿が遠目に見えた。
これは多分リリが何かやってるな。
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