御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第五章 垣間見る過去とそれぞれの道

01 インターネットと現在の家計

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「さて。リリも復活したことだし本日のメインイベントといくかな」

 凄かった。何がとは言わないが。
 まあ、多めに用意していた食事の殆どがリリの腹の中に収まったといえば言わずともわかるだろうが。
 ただ、それでも金髪の分にまで積極的に手を出さなかったのはリリの理性が多少なりとも残っていたからだろう。
 まあ、途中で怯えた金髪がリリに食事を自主提供していたのは笑ってしまったが。

 さて、それよりもようやくパソコンの出番である。
 買ってから一週間。たまに俺が動作確認と簡単な記録をメモ帳に記入する程度で殆ど活躍する場のなかった置物である。
 一応、リリには簡単な使い方や起動方法なんかも教えたので、俺がいない間なんかに触ってはいたようだ。
 まあ、大した事は出来なかったとは思うが。

 宣言した後にパソコンの前に座った俺の両サイドにそれぞれ、右側にリリが、左側に金髪が座る。
 一応、裏口を修理した時に使った余った木材を使って千堂さんが木製のローテーブルを作ってくれたので、今はディスプレイとキーボード、マウス等はその上に乗っているので見栄えはいい。
 今週の頭にたまたま千堂さんと会った時に回線工事の話をして、流れでパソコンを直置きしている事を話したら、その2日後に持ってきてくれたのだ。
 ちゃんと塗装をした上にニス塗りまでしてある立派なものだ。黒光りしてかっこいい。
 ……なにげに俺の節約生活に欠かせない存在になりつつあるな。千堂さんは。

「なんじゃこのてれびは。全く動かんではないか」

 「つまらん」とでも続きそうな言葉発しながら鼻を鳴らした金髪を無視しつつマウスを動かす俺。
 そんな俺とディスプレイを交互に見ていたリリは特に不思議そうな顔もしていない。どうやら、金髪と違いリリは結構な時間このパソコンで遊んでいたようだ。
 まあ、唯一のテレビを金髪に占領されたら他に遊べるのはパソコンくらいしかないよな。

「あ、画面が切り替わった」

 そんなリリが声を上げたのは、俺がブラウザを立ち上げた時だった。
 恐らく、今まで見た事のない画面が出たから驚いたのだろう。
 俺はその声への対応もとりあえずは保留しておいて、そのまま検索からいつも使っている通販サイトへ飛んで、検索から「レディース 服」と打ち込んだ。

 すると、それまでつまらなそうにしていた金髪が、驚いたように俺の左腕を両手で掴むと前後に振りながら画面に向かって顔を向けた。

「何じゃこれは!? 様々な衣装の映像が沢山出てきおった!?」

 そんな反応をしている金髪は取り敢えず置いておいて、俺は右隣に座っていたリリに目を向ける。

「こんな感じだな。覚えられそうか?」
「何となく。何回か自分で実際にやればダイジョブだと思うよ」

 思ったとおり根本的な部分でリリは頭の作りが金髪とは違うらしい。
 勿論、普段からパソコンをいじっていたからというのはあるのだろうが、普通、これまでの自分の生活からかけ離れた道具をこうも簡単に理解できるのは地頭がいいからだ。

「よし。じゃあ、リリに関しては次のステップだな」

 俺はマウスを動かすと表示条件を「子供服」、「金額の安い順」にして表示しなおすと、掴まれていた腕を引き剥がして金髪に顔を向けると、画面を指差す。

「取り敢えず、お前はこの画像の中から好きな服を4、5着選べ。いいか、4、5着だぞ? 調子くれて10着とか選ぶんじゃねぇぞ? 後、今は余計な所触るなよ? 特に、ここを「金額の高い順」とかにしたら折檻してやるからな?」
「何だかよくわからんがわかった」

 予想外に素直に頷いた金髪にパソコンの正面の席を譲ってやり、代わりにリリを連れて俺はテーブルに移動する。
 そこで俺はリリを隣に座らせると、スマホを取り出してリリに画面を見せた。

「前にも言ったが、あれを使って買い物をするのが今回の目的だ。だが、買い物をするって事は金が掛かるって事で、考えなしに使われたら俺たちはあっという間に破産する。だから、お前にはそのへんの部分の管理を頼みたい」

 現在俺がリリに見せているのは俺のネット銀行の口座である。
 それを見せながら現在の貯金額と、月の収入、都度の支出を見せていく。
 すると、案の定というか予想通りというか、リリが「おや?」という顔を見せるとここ最近の数字を指差して疑問を口にする。

「ねえ。私達がいた国と通貨の単位が違うから間違ってるかもしれないんだけど……これ、旦那様が貰ってくるお金よりも使ってるお金の方が多くない? 特に、ここ最近」
「やっぱり気がついたか。ようするに俺が言いたいのはそういう所だ」

 俺は画面を拡大すると給与振込の部分とその他の支出の部分を指でなぞって説明する。

「この収入に関しては殆ど変化が無いと考えてくれていい。そうなると、こっちの支出の部分を減らさないと毎月赤字を垂れ流し続ける事になるわけだ。現状は貯金があるから何とかなってるけど、特にこの部分を減らさないととても何年もやっていくのは無理だ」
「ATM……? 確かにすごい金額だね。これ何?」
「通常俺は日常生活に必要な金額は財布に入れてるし、家電を買うのはカードだから、ATM……ようするに機械を使って外でお金を引き出す事だが、そいつを使うときは急にお金が必要になった時だ。ようするに、本来使う予定だった金額を超えてお金が必要になった場合だと思ってくれていい」

 俺はほぼ毎日のように記載されているATM○○銀行の文字を指でなぞりながら説明する。
 最も、カード決済は支払日がずれるから、決済日にはもっとすごい額の支出が記載される事になるのだが、それは今は言わなくてもいいだろう。

「家電はカード決済。光熱費、通信費は引き落とし。では、これはなんぞや? ──お前たち2人の日用品と追加購入した食費なんだな。これが」

 俺の言葉にリリは顔を赤くするとサッと俺から視線を逸らす。
 もしかしたら、さっき鬼のように食料を食べたのを思い出したのかもしれない。

「別に責めてるわけじゃないぞ? 生きている以上食べる事は必要だし、お前達に着たきり雀で居させるのは俺の精神衛生上良くないし。そもそも、俺の金銭感覚が問題で、物を買う・・・・って行為をここ数年殆どやってなかったからどうしても金遣いが荒くなっちまうんだよ。だから、そこをお前にコントロールしてもらえると助かるな……と」

 人差し指をスマホの画面から離すと、そのまま天井に向けたまま口にする俺にリリは視線を一度向けた後、スマホの画面に再び視線を戻して大きな溜息を吐いた。

「……何だか。すっごい面倒な事を頼まれた気分」
「実際面倒だぞ。後でパソコンの方でのネットバンキングのログインの仕方を教えるし、計算ソフトもダウンロードしておくよ。頼んだぞ」

 リリの肩に手を置いて俺の考えうる限りの最高の笑顔を見せたつもりだったのだが、リリはそんな俺をひと睨みすると、俺の膝の上に頭を乗せて、顔を腹に押し付けてしまった。

 まあ、彼女には自分のご飯の為にも頑張って頂きたいものである。
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