御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第五章 垣間見る過去とそれぞれの道

プロローグ

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 回線工事のための業者が壁やパソコンの前で作業をし、機材を玄関から出し入れしているその横を、リリが時には洗濯物を持って、あるいは俺にお茶のおかわりを入れる為に作業員の間を縫ってテーブルに近づき、そしてまた部屋から出ていく。
 そして、そんなリリの姿が全く見えないように行動する業者の人たちの様子を、テーブルにの傍で座っていた俺は半ば驚愕したかのように見ていた。

 魔法マジパネエ。

 だが、リリ曰く、流石に近くで大騒ぎをすると気づかれる危険があるらしく、当然のように金髪は俺達の部屋に隔離してある。
 当然、それだけだと勝手に部屋から出てきて大騒ぎする危険性があったので、外の門の補修の際に予備として余っていた小型の閂を簡易的に取り付けたので、中から勝手に外に出られてないという寸法だ。
 ただ、それだと内側からドアを激しく叩くなり大声で叫ぶなりの行為が考えられたので、一時的にテレビを俺の部屋に運び込んでおいたので工事の間くらいは間を持たせる事が出来るだろう。

 っていうか、何でここまでしなければいけないんだ。
 リリに聞くところによるとあいつの年齢は14歳らしく、あっちの世界でも成人はしていないらしいのだが、それでも十分物を判断することの出来る年齢の筈だ。
 それにも関わらずあの振る舞い。
 もしも、あいつの両親に会う事があったなら、どういう教育をしてきたのかを小一時間問い詰めたい。
 あ、王様だっけ? じゃあ、教育したのは別の人間か? とにかく、甘やかされまくって育てられたのだろうというのは今の金髪を見ていればわかるとおりだが。

 そんなこんなで凡そ一時間程で工事は終わり、業者を見送った俺が頭を掻きながら家に戻ると、廊下の奥──まあ、俺達の部屋の方からだが──から、ようやく監禁から解放されたらしい金髪が俺の姿を見るやダッシュでこちらに向かってきた。
 ちなみにリリはというと、その後ろで何やらお腹をさすりながら眉尻を下げていたので、空腹が襲ってきたのだろう。こうなると腹を満たすまでリリは使い物にならないので、金髪の相手は俺がしなければならなくなる。
 マジ面倒。

「貴様ァ! 何故妾をあのような場所に閉じ込めおった!? 理不尽じゃろ! 妾は謝罪を要求する!!」
「うるせぇなぁ……」

 寧ろ、色々と神経を使って精神的に疲れている時に大音量のキンキン声を聞かされる俺の方が理不尽だと訴えたい。

「んだよ。お前ご所望の部屋に一時的とはいえ過ごせたんだから本望だろうが。それも、態々テレビまで置いて。あれ運ぶの大変だったんだからな? 寧ろ、お前は俺にもっと感謝しろ」
「何故じゃ!? 朝起きて降りてきたらいきなり首根っこ掴まれてあの部屋に放り投げられた挙句、外から鍵までかけられて! しかも、扉には『騒いだら体内の魔力を全て抜き取った上に飯抜き』の張り紙! 恐怖でてれびどころではなかったわ!!」

 俺は金髪の主張を聞いた後にリリに視線を向ける。
 ちなみに、金髪の言う張り紙を書いたのはリリだ。
 リリが言うにはあっちの世界の言葉で書いた方が金髪にダイレクトに意味が伝わって効果的とのアドバイスを受けて代筆を頼んだのだ。
 一応、俺も書く気になればあっちの世界の言語で書く事が出来る筈らしいのだが、どうもその辺の切り替えがまだ上手くいかないのか出来なかったのである。
 そういう理由もあり、張り紙の文面をよく見ていなかったのだが、どうやら金髪に対する脅し文句が書かれていたらしい。
 俺には体中の魔力を抜き取るという行為がどれくらいの苦痛を味わうのかは分からないが、金髪が恐怖を感じるくらいにはキツイお仕置きなのだろう。
 ちなみに、リリはようやく俺達の近くにたどり着くと、俺を見上げて一言告げた。

「お腹すいた」

 はい。そうですね。
 うん。何言われるかわかってたよ。

「まあ、金髪の戯言に関してはこの際放っておいて、先ずは飯にするか。リリが骨抜きになる前に用意してくれた奴があるから、それ食ってさ。文句があるならその後聞いてやるよ」
「真じゃな!? 絶対じゃな!?」
「おお。絶対絶対。俺が今まで嘘ついたことあったかよ?」
「息を吐くように嘘をつく主に言われとうないわ!?」

 はて? 覚えがないが。

 ともあれ、このままだといつまでたってもリリが省電力モードから脱却しないので、金髪を小突きながらキッチンに向かう。
 流石にこんな時くらいは金髪にも食事を運ぶくらいの労働はしてもらっても罰は当たるまい。
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