15 / 37
第二章 見知らぬ土地ですべき事
07 我慢比べは俺の得意分野なんだ
しおりを挟む
最初は熊。次は狼。
どうにも俺は別の世界では随分と肉食獣に好まれるな。
何か彼らを惹きつけるスメルでも漂わせているのだろうか?
俺は腰から【木の枝Verベンズ】を抜くと『ブタ狼』に鋒を向ける。
『さあ、どこからでも……は、困るな。寧ろどっかいけ。まあ、こんな事言っても獣のお前には通じないだろうけど。あ、人間にも通じないな日本語は』
実に悲しいことに。
せめて言葉が通じればもう少しマシな状況になっていたのではないだろうかと思うが、それはベンズさんやネヴィーさんを否定する行為に等しい。ので訂正を要求しよう。自分に。
それは兎も角、俺はベンズさんが手を加えてくれた木の枝【改】を両手でしっかりと握ると、
『こんな棒きれで猛獣に勝てるか! 悪いけど逃げさせてもらうぞ。アディオス!!』
ブタ狼に背を向けて逃げ出した。
ちなみにこれはベンズさんの忠告を聞いた結果だ。
決して臆病風に吹かれたわけではない。
そんな俺の行動に一瞬あっけに取られたようだが、一声吠えて追いかけてきたようだった。
そのスピードは熊を凌駕し、あっという間に背後に迫る。
どうやら、対熊戦で使用した戦略的撤退は全く通用しないらしい。まあ、熊の時も最終的には追いつかれたのだけど。
『……それなら!!』
俺は水に飛び込むと、あえて水深の深い場所まで藻掻くように駆けていき、体が沈んだ所で華麗にクロールで引き離す。
『はははっ!! 犬かきで近代泳法に敵うと思ったか! 悪いがこのまま逃げさせてもら痛ぇっ!!』
どうやら深い部分はそれほど長くはなかったらしい。
少し泳いだ所ですぐに水深が浅くなり、掻き出そうとしていた左手が思い切り川底を擦る。
まるで大根おろしの最中におろし金で指も一緒におろしてしまったかのような痛みが走り、もんどり打ちながら体を起こした拍子に木の枝も一緒に流してしまった。
『ああっ!! メインウェポンがぁ!!』
思わず右手を伸ばして追いかけようとしてしまったが、すぐに後方からの水音に反応して転がるように上陸する。
すると、ちょうど今ま俺がいた場所にブタ狼が突っ込み、更に間髪入れずにこちらに向かって加速した。
『くそっ! 全然大は小を兼ねないな! 熊もどきよりもよっぽどヤバイ!』
俺はもう一本の木の枝を咄嗟に抜き放つと、思い切り横に振り抜く。
しかし、ブタ狼は軽々と飛び上がって木の枝を躱すと、そのまま俺の首に向かって口を開いた。
『危なっ!!』
左手でブタ狼の顔を叩きながら、その反動を利用して反対側に転がるように逃げる。
が、さっきブタ狼の顔を払った時に牙が触れてしまったようだ。左手からは真っ赤な血が少なくない量流れていた。
『マジかよ……。狂犬病とか大丈夫かな?』
それ以前に生き残れるかの方が心配だが。
兎も角今は逃げるのが先決だ。
俺はすぐさま反転し、再び逃走を開始する。
ちょうどぐるりと回って元の場所にもどるような感じになってしまったが、ブタ狼から一番遠い場所を選んで逃げていたらそうなってしまった。
当然、同じ地形ならブタ狼の方が圧倒的に機動力があり有利である。
すぐに後ろからブタ狼の気配が迫ってきた。
兎も角、なにか利用できるものはないだろうか?
それは道具でも地形でもなんでもいい。
ブタ狼が諦める、もしくは俺が逃げ切れる。その結果を出せるものは。
逃げて、追いつかれてもがいて、逃れて、また逃げて……。
森の中を行ったり来たりとぐるぐる回る。
逃げるたびに増える傷に動きが鈍り、追いつかれる時間がだんだん短くなっている。ひょっとしたら、俺を弱らせようとわざとやっているのかもしれない。
このままでは新たなブタ狼か、最悪初日に遭遇した熊もどきに再会してしまう可能性もゼロではい。
ゼロではないという事は可能性があるという訳で、0%以下の確率でも──。
あ。
そこで俺は初日の出来事がフラッシュバックする。
あの時も絶対絶命の状況の中、藁でもつかむ思いでその可能性に賭けた。
そして、今俺が生きているという状況が、その驚異的な可能性を引き当てたのだと思っていた。
思っていたのだが──
──もしもそれが必然ならば?
俺は反転するとブタ狼と向かい合う。
それは、あの時。熊もどきに追いかけられていた時には選ばなかった選択肢。
ブタ狼は熊もどきよりも遥かに動きが速い。
しかし、一撃で大木をなぎ倒した熊もどき程のパワーはない。
実際、何度もブタ狼の牙を受けたが、こうして俺は動き回っている。
ならば、熊もどきと同じ対応をしていては最適解を導くことなど出来ないのだ。
当然、こうして悠長に物事を考える時間なんて本来はないはずだから、こうしてグダグダとくだらない事を考えているということは、既に俺が選択肢を選んだ後だからだ。
俺の握った木の枝【セカンド】がブタ狼の腹に深々と突き刺さる。
代わりに差し出すのは俺の左腕と左頬。
ブタ狼は俺の左腕を噛み砕き、そのままの勢いで俺の左頬に牙を立てたが、その代償として己のハラワタに木の枝を招待する羽目となる。
「ブオォォォォォォォォォォォッ!!」
口が塞がれているからだろうか。
まるで本当の豚のような鳴き声を上げるブタ狼。
そんなブタ狼を左肩でカチ上げるようにして乗せて、俺は全力で沢に向かう。
『さて、この状況で大した高さではないとはいえ、高所から落ちたら、俺とお前どちらが壊れるかな?』
俺の足は止まらない。
既に大地から離れ、腹部に致命傷を受けたブタ狼であったが、まだまだ抵抗する力が残っているようで全身をくねらせ、足は暴れ、左腕を噛んで抉る。
『──だけど悪いな』
何度も走り回っていた事で沢の上にまで逃げていたのが幸いしたと本気で思う。
俺は沢の淵まで一気に走り込むと、まるで走り幅跳びの選手のように沢に向かって踏み切った。
伊達に殴られ慣れているわけじゃない。
それは俺がこの世界にくる前から持っていた唯一のスキル──
『──我慢比べは俺の得意分野なんだ!!』
沢の淵から発射された俺と獣を縫い合わせた砲弾は、飛び出した勢いそのままに滑空し。
石が敷き詰められた地面に諸共叩きつけられた。
どうにも俺は別の世界では随分と肉食獣に好まれるな。
何か彼らを惹きつけるスメルでも漂わせているのだろうか?
俺は腰から【木の枝Verベンズ】を抜くと『ブタ狼』に鋒を向ける。
『さあ、どこからでも……は、困るな。寧ろどっかいけ。まあ、こんな事言っても獣のお前には通じないだろうけど。あ、人間にも通じないな日本語は』
実に悲しいことに。
せめて言葉が通じればもう少しマシな状況になっていたのではないだろうかと思うが、それはベンズさんやネヴィーさんを否定する行為に等しい。ので訂正を要求しよう。自分に。
それは兎も角、俺はベンズさんが手を加えてくれた木の枝【改】を両手でしっかりと握ると、
『こんな棒きれで猛獣に勝てるか! 悪いけど逃げさせてもらうぞ。アディオス!!』
ブタ狼に背を向けて逃げ出した。
ちなみにこれはベンズさんの忠告を聞いた結果だ。
決して臆病風に吹かれたわけではない。
そんな俺の行動に一瞬あっけに取られたようだが、一声吠えて追いかけてきたようだった。
そのスピードは熊を凌駕し、あっという間に背後に迫る。
どうやら、対熊戦で使用した戦略的撤退は全く通用しないらしい。まあ、熊の時も最終的には追いつかれたのだけど。
『……それなら!!』
俺は水に飛び込むと、あえて水深の深い場所まで藻掻くように駆けていき、体が沈んだ所で華麗にクロールで引き離す。
『はははっ!! 犬かきで近代泳法に敵うと思ったか! 悪いがこのまま逃げさせてもら痛ぇっ!!』
どうやら深い部分はそれほど長くはなかったらしい。
少し泳いだ所ですぐに水深が浅くなり、掻き出そうとしていた左手が思い切り川底を擦る。
まるで大根おろしの最中におろし金で指も一緒におろしてしまったかのような痛みが走り、もんどり打ちながら体を起こした拍子に木の枝も一緒に流してしまった。
『ああっ!! メインウェポンがぁ!!』
思わず右手を伸ばして追いかけようとしてしまったが、すぐに後方からの水音に反応して転がるように上陸する。
すると、ちょうど今ま俺がいた場所にブタ狼が突っ込み、更に間髪入れずにこちらに向かって加速した。
『くそっ! 全然大は小を兼ねないな! 熊もどきよりもよっぽどヤバイ!』
俺はもう一本の木の枝を咄嗟に抜き放つと、思い切り横に振り抜く。
しかし、ブタ狼は軽々と飛び上がって木の枝を躱すと、そのまま俺の首に向かって口を開いた。
『危なっ!!』
左手でブタ狼の顔を叩きながら、その反動を利用して反対側に転がるように逃げる。
が、さっきブタ狼の顔を払った時に牙が触れてしまったようだ。左手からは真っ赤な血が少なくない量流れていた。
『マジかよ……。狂犬病とか大丈夫かな?』
それ以前に生き残れるかの方が心配だが。
兎も角今は逃げるのが先決だ。
俺はすぐさま反転し、再び逃走を開始する。
ちょうどぐるりと回って元の場所にもどるような感じになってしまったが、ブタ狼から一番遠い場所を選んで逃げていたらそうなってしまった。
当然、同じ地形ならブタ狼の方が圧倒的に機動力があり有利である。
すぐに後ろからブタ狼の気配が迫ってきた。
兎も角、なにか利用できるものはないだろうか?
それは道具でも地形でもなんでもいい。
ブタ狼が諦める、もしくは俺が逃げ切れる。その結果を出せるものは。
逃げて、追いつかれてもがいて、逃れて、また逃げて……。
森の中を行ったり来たりとぐるぐる回る。
逃げるたびに増える傷に動きが鈍り、追いつかれる時間がだんだん短くなっている。ひょっとしたら、俺を弱らせようとわざとやっているのかもしれない。
このままでは新たなブタ狼か、最悪初日に遭遇した熊もどきに再会してしまう可能性もゼロではい。
ゼロではないという事は可能性があるという訳で、0%以下の確率でも──。
あ。
そこで俺は初日の出来事がフラッシュバックする。
あの時も絶対絶命の状況の中、藁でもつかむ思いでその可能性に賭けた。
そして、今俺が生きているという状況が、その驚異的な可能性を引き当てたのだと思っていた。
思っていたのだが──
──もしもそれが必然ならば?
俺は反転するとブタ狼と向かい合う。
それは、あの時。熊もどきに追いかけられていた時には選ばなかった選択肢。
ブタ狼は熊もどきよりも遥かに動きが速い。
しかし、一撃で大木をなぎ倒した熊もどき程のパワーはない。
実際、何度もブタ狼の牙を受けたが、こうして俺は動き回っている。
ならば、熊もどきと同じ対応をしていては最適解を導くことなど出来ないのだ。
当然、こうして悠長に物事を考える時間なんて本来はないはずだから、こうしてグダグダとくだらない事を考えているということは、既に俺が選択肢を選んだ後だからだ。
俺の握った木の枝【セカンド】がブタ狼の腹に深々と突き刺さる。
代わりに差し出すのは俺の左腕と左頬。
ブタ狼は俺の左腕を噛み砕き、そのままの勢いで俺の左頬に牙を立てたが、その代償として己のハラワタに木の枝を招待する羽目となる。
「ブオォォォォォォォォォォォッ!!」
口が塞がれているからだろうか。
まるで本当の豚のような鳴き声を上げるブタ狼。
そんなブタ狼を左肩でカチ上げるようにして乗せて、俺は全力で沢に向かう。
『さて、この状況で大した高さではないとはいえ、高所から落ちたら、俺とお前どちらが壊れるかな?』
俺の足は止まらない。
既に大地から離れ、腹部に致命傷を受けたブタ狼であったが、まだまだ抵抗する力が残っているようで全身をくねらせ、足は暴れ、左腕を噛んで抉る。
『──だけど悪いな』
何度も走り回っていた事で沢の上にまで逃げていたのが幸いしたと本気で思う。
俺は沢の淵まで一気に走り込むと、まるで走り幅跳びの選手のように沢に向かって踏み切った。
伊達に殴られ慣れているわけじゃない。
それは俺がこの世界にくる前から持っていた唯一のスキル──
『──我慢比べは俺の得意分野なんだ!!』
沢の淵から発射された俺と獣を縫い合わせた砲弾は、飛び出した勢いそのままに滑空し。
石が敷き詰められた地面に諸共叩きつけられた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
スコップは多分武器ではない……
モモん
ファンタジー
大地はすべてを生み出す母……、そんな思いから生まれた作品です。母なる大地が何を与えてくれるのか、一つのケースがここにあります。
……いや、違うだろ! そういう作品じゃねえぞ! ……などという反論は受け付けていませんので、ご了承くださいませ。
スウィートカース(Ⅱ):魔法少女・伊捨星歌の絶望飛翔
湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
異世界の邪悪な存在〝星々のもの〟に憑依され、伊捨星歌は〝魔法少女〟と化した。
自分を拉致した闇の組織を脱出し、日常を取り戻そうとするホシカ。
そこに最強の追跡者〝角度の猟犬〟の死神の鎌が迫る。
絶望の向こうに一欠片の光を求めるハードボイルド・ファンタジー。
「マネしちゃダメだよ。あたしのぜんぶ、マネしちゃダメ」
運命のいたずら世界へご招待~
夜空のかけら
ファンタジー
ホワイト企業で働く私、飛鳥 みどりは、異世界へご招待されそうになる。
しかし、それをさっと避けて危険回避をした。
故郷の件で、こういう不可思議事案には慣れている…はず。
絶対異世界なんていかないぞ…という私との戦い?の日々な話。
※
自著、他作品とクロスオーバーしている部分があります。
1話が500字前後と短いです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
復讐者は禁断魔術師~沈黙の聖戦~
黒い乙さん
ファンタジー
発展とは程遠い辺境の村に生まれ、その村で静かに一生を終える事を望む少年テオドミロ。
若者たちが次々都会に旅立ち、ゆっくり死に向かってゆく村で狩人を目指し日々生活しているテオドミロだったが、故郷の森で一人の少女と出会った事で、終わりの見えない仇討の旅に出る事に。
『行こう』
全てを失った少年が手を伸ばし。
全てを失った少女がその手を取った。
敵討ちで始まった二人の旅の終焉がどこなのか。
この時の二人には知る由もなかった。
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる