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第二章 見知らぬ土地ですべき事

05 せめて最後に一つでもあなたに贈り物をしたいから

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 約束の20日目が近づいてきたとある日の早朝。
 俺は先を斜めに切っただけの長さ1m、直径3cm程の木の枝を2本、籠に入れて背負う。

『よし』
「ソーマ。それは何?」

 背負った後に拳を握って気合を入れていた俺の背中から、無骨な声が聞こえてくる。
 この声は間違いなくベンズのおっさんだろう。
 振り向くと予想通り1人の筋肉ダルマが立っており、右手で俺の背負った籠を指差していた。

「これは、私の、武器」
「武器?」
「ハイ」

 俺は頷くと、背中から木の枝──木刀にしようかと思ったが出来なかったのだ──を一本手に取ると、ベンズさんに向ける。

「私は刃物少しだけ。使えない。木の枝で叩く。一番、強いと思った」
「ムウ」

 ベンズさんは一言唸りながら自身の顎を撫でた後に俺から枝を取り上げ、しげしげと見つめる。

「何故、武器が必要※※※※?」
「谷に行く、したい。そこは危険。私を守る武器、必要と思う」
「谷※※!?」

 ベンズさんが驚いたように大声を上げたので、俺は人差し指を立てて自分の口の前に持って行って静かにして欲しいと頼む。その時に小屋に目を向けたので、ベンズさんも俺の言いたい事はわかっただろう。

「……ネヴィーに話さない? どうして?」
「ネヴィー必ず止める。それは私の本意、違う。谷に行くのは必ず」
「どうして?」
「…………」

 俺に顔を近づけて、真剣な表情のベンズさんに話すかどうするか少し迷ったが、ここで話さなければきっとベンズさんも止めるだろう。
 俺は仕方なく話す事にした。

「谷の川に有る、石が欲しい」
「……『オクトレイス』……か」

 『オクトレイス』は恐らくそのままの名称なんだと思う。多分。ネヴィーさんから色々と石の特徴を聞いたけれど、俺のかわいそうな頭では、地球で同じような石があるのかわからなかったのだ。

「……何故。必要」
「……ネヴィーに贈る、したい。私は沢山助けた、もらった。後少しで私家出る。このまま、何もお礼しない、駄目。あの石、ネヴィー、ベンズに貰った事あると、言った。沢山、喜ぶしていた。私もネヴィーが喜ぶ、望む」
「……オクトレイス贈る意味。理解※※知る?」
「意味?」

 黙って俺の話を聞いていたベンズさんだったが、話が終わった途端目つきをきつくして俺に問いかける。
 いや、キツくしてなんてオブラートに包んでもしょうがないな。一言。ガンつけてきた。
 
「意味? わからない。石贈る、お礼。違う意味ある?」
「…………」

 恐らく、石を贈るという行為自体に何かしらの意味があるのだろう。そして、それがベンズさんにとってあまり嬉しくない事なんだろうという事が何となく知れた。
 ちなみに、ベンズさんとネヴィーさんの関係だが、夫婦という事で確定した。

 この二週間の間で、ひょっとしたら日本で言う所の家系図のような物を用いれば分かるんじゃないかと思って、俺が書いた家系図もどきで各関係の勉強を行ったのだ。
 そして、その時にネヴィーさんの親類事情も聞いており、旦那はベンズさん。子供は無し。ネヴィーさんは4人姉妹の次女で、ベンズさんは何と10人兄妹の3男。
 どうしてこんな場所で生活しているのかも聞いてみたが、よくわからなかった。多分、ネヴィーさんも俺が何を言いたいのかよくわからなかっただろう。

 それは兎も角、言ってしまえば人妻であるネヴィーさんへ、同じような歳の男が石ころとはいえプレゼントすると言っているのだ。それは旦那としては面白くないだろう。それも、旦那に堂々と話しているのだから質が悪い。
 だけど、暫く俺を睨みつけた後、ベンズさんは何か悟ったように深々とため息をつくと、俺の肩をがっしりと掴む。
 はっきり言ってとても痛い。何か言いたいけど我慢している気持ちが漏れ出してますよ。

「少し、待つ」

 そう告げると、ベンズさんは小屋の裏に歩いて行ってしまった。
 やがて、戻って来たベンズさんが手にしていたのは、一言で説明すると少し分厚いシートベルトだった。
 色は濃い茶色で、恐らく何かの獣の革製なのだろう。
 輪になっている部分から被って、斜めになっている部分を肩にかけて腰の部分を締めるのだろう。そうして見てみると、腰を締める部分に何やら小さな装飾品がついているのが見えてそれが何か理解した。

『ああ……剣帯か』
「『ケンタイ』?」
「ああ。いえ」

 俺はベンズさんから剣帯を受け取ると、思う通りに身につけてみる。
 使用感はベルトとあまり大差ないが、肩で固定しているので多少重いものでも下げられるようになっているのだろう。
 そんな俺の姿を見て、ベンズさんは少し驚いたようだった。

「剣を※前※※使う※事※ある※※?」

 多分、だけど、剣を持っていた事があるのか聞いたのだと思う。

「いえ。刃物の武器は使う、ない。見た事ある。真似した」
「※※※※。理解※した」

 ベンズさんは納得したように頷くと、俺の腰に手を伸ばし、剣帯をいじっている。
 そして、次に2本の木の枝を順番に持っていたナイフで加工すると、そのまま剣帯に差して見せた。

「……おお……」

 俺が悪戦苦闘しても全く形にならなかった木の枝が、持ち手の部分だけとはいえ木刀のような佇まいになってしっかりと剣帯に収まっているではないか。
 しかも、2本並んで下げられているのでまるで2本差しの侍のようだ。

「ソーマ」

 作業を終えると俺の背中を強く叩いて。

「谷は※※危険。獣※※見る※したら※必ず逃げる。武器が、※※有る※※意味はない」
「…………」
「※※※は、ネヴィーが泣く※※※見る※ない。必ず戻る」
「はい」

 正直に言うとベンズさんの言った言葉の1/3は俺がまだ覚えていない言葉だった。
 けれど、何が言いたいのかは分かった。痛いほど。

「心配ない。私はネヴィーが泣く、一番嫌い。必ず戻る」

 だから、俺は絶対の自信をもって答えると、ベンズさんに向かってサムズアップしてみせた。
 しかし、そんな俺の姿を見たベンズさんは何故かとても嫌そうな顔をした後、俺の背中を目一杯叩いて俺に悲鳴を上げさせた。

 ……この世界にはサムズアップの文化がないのだろうか? 解せぬ。
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