上 下
7 / 38

可愛い娘③~sideリチャード~

しおりを挟む


「パパ、大丈夫?」
「ああ、メアリー。メアリーさえいればパパはとっても幸せだよ」
「メアリーも、パパがいてくれたら幸せだよ」


メアリーはあまり母から愛情を受けていなかったのだろう、シスリーは家に殆どおらず、夜のパーティーに毎日のように参加していた。彼女は昼間は家庭教師より勉強を受けていたのだが、午後はいつも一人きりであるのに文句一つも言わない。


「メアリー、ママが夜いなくて寂しくないのかい?」
「ううん、メアリーは良い子だから一人で大丈夫」


母から毎晩「あなた良い子だから一人でも平気ね」と言い聞かせて出掛けているようで、彼女の年齢にしては従順すぎる子供であった。


(こんな小さな子供が、一人で良い訳ないだろう・・・)


リチャードはどれだけ忙しくとも彼女と朝食と晩餐は必ず一緒に取るようにした。シスリーは昼に起きて夜出掛ける生活が続いているので週に一、二度一緒に食事を取るくらいである。


「明日の勉強の予習してるのかい?偉いね、メアリー」
「へへ、ありがと」


リチャードが少しメアリーを褒めるだけで、「褒められたの始めて」と恥ずかしそうに頬を染めていた。彼女の様々な人生での始めてをリチャード自ら与えたいがために、休日は彼女に時間を使うことが増えた。


「パパ、トマトの実ができてる」
「本当だね、メアリーが大事に育ててあげたからだね」


リチャードはメアリーに貴族が習わないようなことも教えてあげた。今から貴族と平民が平等に生きる時代へと移っていくであろう。彼女には何でも教えてあげたかった。そんな中、シスリーは愛人が出来たのか家に戻らない日が増えた。メアリーは思春期を迎え、まるで薔薇の蕾のように美しくなっていく。そんな彼女の成長をしっかりと見守ってあげないシスリーに不満を持ち、何度も話し合おうとするもかわされてしまい、今日も彼女は出掛けてしまった。



「旦那様!!奥様がっ・・・!!」


シスリーは愛人との旅行先へ向かう道中であっけなく死んでしまった。彼女と結婚して愛そうと努力をしていたのだが、無駄に終わってしまったようだ。


「私、パパと一緒がいい。どこも行きたくない」


彼女は娘とはいえ血は全く繋がっていない。彼女の親族に預けることも考えたが、メアリーがそれを望まなかった。


「リチャード・・・まさかうちの従姉妹が君にそこまで迷惑をかけていたとは知らなかった・・・本当にすまなかった。何をして償えばよいか・・・」
「顔を上げてください、陛下・・・」


平民であったリチャードに、血縁者であり、美しい従姉妹を宛がった国王の気持ちを無下にできず何も言わなかったリチャードも悪かったのである。国王を責める気には一切なれなかった。


「では是非ともメアリーの親権を私に・・・それで私は満足でございますので」
「わかった・・・君には、感謝しかない・・・メアリーも宜しく頼んだぞ」
「はい、陛下」


国王の支援を断り、リチャードは借金を返していった。シスリーの夜遊びや無駄遣いを制御できなかったのはリチャードが強く彼女に言えなかったからだ。リチャードは文句ひとつ言わず、借金を返していった。


(メアリーは私が守らなければ・・・)


リチャードにはメアリーしかいない。そしてメアリーにもリチャードしかいないのだ。


(彼女のためなら何だってしよう)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】レスだった私が異世界で美形な夫達と甘い日々を過ごす事になるなんて思わなかった

むい
恋愛
魔法のある世界に転移した割に特に冒険も事件もバトルもない引きこもり型エロライフ。 ✳✳✳ 夫に愛されず女としても見てもらえず子供もなく、寂しい結婚生活を送っていた璃子は、ある日酷い目眩を覚え意識を失う。 目覚めた場所は小さな泉の辺り。 転移して若返った?!と思いきやなんだか微妙に違うような…。まるで自分に似せた入れ物に自分の意識が入ってるみたい。 何故ここにいるかも分からないまま初対面の男性に会って5分で求婚されあれよあれよと結婚する事に?! だいたいエロしかない異世界専業主婦ライフ。 本編完結済み。たまに番外編投稿します。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。

すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!? 「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」 (こんなの・・・初めてっ・・!) ぐずぐずに溶かされる夜。 焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。 「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」 「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」 何度登りつめても終わらない。 終わるのは・・・私が気を失う時だった。 ーーーーーーーーーー 「・・・赤ちゃん・・?」 「堕ろすよな?」 「私は産みたい。」 「医者として許可はできない・・!」 食い違う想い。    「でも・・・」 ※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。 ※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 それでは、お楽しみください。 【初回完結日2020.05.25】 【修正開始2023.05.08】

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

処理中です...