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ウルフの独り言
しおりを挟む「あれ、サイラス珍しいな。もう帰るのか」
「ええ、可愛い人が待ってますから」
「そ・・・そうかよ」
ウルフがサイラスに報告書を渡して部屋を出ようとすると、サイラスはもう帰る準備をしていた。今まで休まずに夜遅くまで仕事をし、ウルフよりも早く出勤しているあいつがだ。彼はいつ寝ているのか分からないような仕事人間であった。
(あいつも変わったなぁ・・・)
ジュリアがフランソワの代わりに拐われたとサイラスが知ってサイラスの瞳が揺れ、動揺をしているのが分かった。今までそういった感情を表に出さなかったので、彼の部下たちも驚いていた。
「あなたはこの子爵と男爵を探ってください。強行突破してもらってもかまいません。多少問題が起こっても情報屋から秘密を握っているので多少揉み消せます」
(こ、こええ・・・)
きっと貴族のほとんどの秘密を握っているのだろう、サイラスは的をしぼり的確に指示をした。
「やはり犯人は国王の兄ヴィクターで確定ですね。匿っている場所は子爵が元所有していた工場・・・拐われた場所から数キロ先です」
「サイラス様、グアテル国の情報屋から連絡が来ました!!フランソワ様を多少傷つけて良いから犯して使い物にならないようにするようにグアテル国の正妃が命令したそうです」
それを聞き現場が冷え込んだ。サイラスは鬼のような表情で、集められる騎士団員全員で現場に向かうよう命令した。
(ジュリア、無事でいるんだぞ)
皆集結し、特に速いと言われる馬を揃えた。
「私も行きましょう」
「サイラス、お前は待ってたほうが・・・」
「ジュリア殿が犯されるか身代わりがバレたら殺されるかの状況でじっとなんてしてられません」
「ちっ、分かったよ、足手まといにだけはなるなよ」
ウルフはサイラスが文官だと思ってあなどっていた。馬はサイラスの気持ちをくみ取り、かつてない速さで現場に向かっている。ウルフもそれに続くよう必死に駆ける。まともについてこれているのはフィンくらいである。
──突入!!──
サイラスの合図で早くたどり着いた騎士たちが雪崩れ込む。その場にいた男たちはこちらに襲いかかってきた。サイラスはあまり使っていないだろう綺麗な刀で数人を薙ぎ倒した。
「ひ、ひいぃ!!鬼だ!!」
サイラスは返り血を浴びまるで氷山の鬼が人間を殺しにきたようだ。何人かはサイラスを見るだけで怯んで逃げかえった。
──バーンッ!!──
サイラスが扉を開けるとそこにはジュリアに襲いかかるヴィクターが見えた。下半身を露にし、ジュリアは必死に抵抗してるようだ。サイラスはヴィクターをジュリアから引き剥がし、まるですぐにでも殺そうとしているようで、ウルフはそれを止めるのに必死であった。
(くそっ、気持ちは分かるが、ここは耐えろ・・・)
ウルフにとって自分の可愛いがっている部下が拷問を受け犯されそうになっていたのである。ウルフ自身も、腸の煮えくり返る思いだが、国王の剣として彼の命令は忠実に守ると誓った身としてはグッと我慢するしかないのだ。
「さあ、死にたいと叫ぶまで追いつめてあげましょうか」
そう呟くサイラスに、何をするつもりか聞くのは無粋である。サイラスがそう言うのであればきっとヴィクターが死にたいと叫ぶだろう。
(何にしろジュリアはサイラスの黒い部分を知ることは一生ないだろうな)
仕事は綺麗にこなすサイラスだ。ジュリアにとって一生サイラスは「優しいサイラス様」なのだろう。
「さぁ、これから後処理大変だなぁ・・・」
ウルフは重い腰を上げ、帰路についた。
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