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過去③~サイラス視点~

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(耳が敏感なのだろうか)


問い詰めた答えは予想したとおりサイラスの声にあった。他の者の声は大丈夫らしく、サイラスはそのことで優越感に浸った。柄にもなく浮かれたサイラスは苦し紛れに治療だといってジュリアを事務室にとどまるように言った。



「この時代の戦争はやはり軍計が悪かったんでしょうか。防御に割く人員が少ないように思えます」
「そうですね、それもありますが戦地に着く時間が掛かりすぎましたね。体力温存もできなかったのでしょう」


毎日話すうちに彼女は普通に話す程度では症状が出なくなった。そのうち会話も増えていく。ジュリアはやはり頭が回るのだろう。サイラスの複雑な理論についていっている。分からないこともすぐに吸収していく彼女には驚いた程だ。


(何よりも彼女と話すことが毎日の楽しみになってるな)



「ではまた明日お伺いしますね、サイラス様」
「ええ、また明日ジュリア殿」
「んっ・・!!」


サイラスの声に慣れてきているジュリアに、わざと耳元で囁く。彼女の艶かしい声を聞いて何度襲いかかりたい衝動に駆られたか。



(彼女に恋をしてしまったのでしょう・・・ね)



+++



フィンのような色男がジュリアを好いている。それに気づいたのは街中でばったり出会った時である。ジュリアの周りをうろちょろしていると情報屋見習いのヴィッツから聞いていたが、まさかフィンがジュリアに本気であるとは思わなかった。


(こいつ、わざとプレイボーイを演じてたのか)



フィンもサイラスを敵認定しているようだ。わざとジュリアにベタベタと触りサイラスを触発している。サイラスは焦りを覚えた。今までどんな困難があろうと冷静沈着に対処してきたサイラスがだ。



(こんな感情にもなれるんだな、私は)



彼女がもう事務室に来ないと言ったときは彼女もフィンのような男が好きなのかと激高しそうになったが、ジュリアがサイラスが好きだと言ってくれたときは天にも昇る気分であった。


「メラニーさん、私の瞳と同じ色のダイヤでジュリア殿にネックレスを作っていただけますか?」
「ネックレスですか・・・わ、分かりました。予算はおいくらほどでしょうか」
「そうですねぇ、予算はいくらでもかまいません。彼女が今までで一番美しく輝ければ」
「は、はい、また見積書お送りさせていただきますね」


彼女の為のネックレスをオーダーし、パーティーの為の準備をした。そこでサイラスもジュリアに告白するつもりである。


(スリ侯爵・・・このタイミングに暗殺疑惑など、本当に最悪ですね)



スリ侯爵の暗殺容疑などの証拠集めにギリギリまで掛かってしまった。会場に到着するとジュリアが暗殺者に立ち向かったと聞いてヒヤリとした。そして彼女の姿を目に留めると彼女の美しさにサイラスは石のように固まってしまった。


「はっ、サイラス、お前もやっと意中の相手が見つかったか」


国王であるシルベスターがそう言うと、隣にいたローズもくすくすと笑っていた。


「ほら、早く行ってこい。他の男に取られてしまうぞ」
「言われなくとも分かっております」



(あいつ、ジュリア殿に引っ付きすぎだろう)



サイラスはフィンに睨みをきかせ牽制する。音楽が終わりフィンは逃げるように去っていったのでサイラスは急いでジュリアの方へと向かった。


「一曲踊っていただけますか、ジュリア殿」
「は、はい・・・」



サイラスは愛しい人の手を取った。



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