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過去②~サイラス視点~
しおりを挟む(まだ若いのに堂々としている)
はじめの印象はそんな単純なことであった。髪を一つに縛り、平均男性程ある身長でサイラスの威圧感に怯まず敬礼する姿は好感触であった。
「はい、頼みましたよ」
「っ・・・」
サイラスはそう告げるとその女性の様子が変わる。目が少し開き、怖じけるように肩を縮めた。
(他の女性とは違うと思ったが勘違いだったか)
サイラスへの恐怖感のようなものから怖じ気づく女性を何度と見てきたサイラスである。今回もそうだったと、いつもよりガッカリした気持ちになったのにその時はサイラス自信も気づかなかった。
「サイラス様、報告書をお持ちしました」
ジュリアの報告書は読みやすく簡潔で重要事項箇所にマークをつけるなど読む者の時間を無駄にしないような工夫がなされていた。一緒に持ってきている他の騎士の報告書と雲泥の差である。
(なんだ?彼女の態度・・・何かが違う)
確かに他の者のような怯んだ態度をとるのだが、サイラスが発言しない限り、堂々としており、元々頭は悪くないのだろう、きちんと道筋たてて簡潔に発言をする。そうやっているジュリアの目に恐怖心は感じられない。
(いつも話し出したときだ・・・自分の声が原因か?)
サイラスは確認しようと書類を持って彼女に近づき、その書類をジュリアに見せるように横並びになった。
「ジュリア殿・・・?」
耳元で彼女の名前を呼ぶと彼女の肩がビクリと震える。うつむいた彼女の顔を覗きこむと頬がピンク色に染まり戸惑った表情を見せた。
──ドキン──
サイラスの心臓が震えた。
「ま、また確認しておきます」
そういって彼女はそそくさと部屋を出ていった。
(なんだったんだ、あの表情は・・・)
最後に逃げられた感は否めないが、あの感じだと嫌悪感や恐怖心ではないのだろう。赤く染まる彼女の顔は不思議と誰よりも美しく、尊く感じ、その表情は一日中サイラスの目の裏に残っていた。
+++
─ジュリア・マイルズ22歳、田舎町農家の娘で武術大会で男性顔負けの戦いをする彼女にウルフが見初めて騎士学校に推薦したとある。勤務態度も真面目でウルフの補佐も難なくこなす。聴力が良くスパイにも向いている、趣味は─
「ご苦労様でした、ヴィッツ」
「いえ!お役にたてて良かったです」
まだ未成年であろうヴィッツは王城内で庭師見習いをしているが、それは表の姿であり、実際は情報屋見習いである。ちょうど彼に練習にと情報を仕入れるよう伝えたのだ。
(聴力が良い・・・ここに真相がある気がする)
それからジュリアのあの顔がもう一度見たいとわざと報告書の数字を一部変えて声をかけるなどしていた。
(はぁ、私は思春期の子供ですか・・・)
あのような野獣たちの中で生活してるなど心配になり、ウルフにジュリアが安全に過ごせるよう最新式の鍵を付けるよう命令したりと彼には無茶を言ったとサイラスは思う。
(明日こそは問い詰めよう)
サイラスの瞳が逃げる子羊を追う狼と同じようにギラリと光った。
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