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閑話・ウルフの独り言②
しおりを挟むサイラスのジュリアへの執着が見られだしたのは、ウルフがジュリアを王妃付きの護衛にと推薦し、サイラスへの書類報告をジュリアに任せてしばらく経ってからである。
「ウルフ団長、ジュリア殿の夜勤が多すぎます」
「ウルフ団長、ジュリア殿の部屋の鍵を最新のものに変えておいて下さい。ただでさえ野獣たちの巣窟なのですから」
サイラスからジュリアに関して色々なクレームが来るようになった。第一騎士団員が何かの罰ゲームとしてジュリアを男装させて花街に連れていったときは、サイラスに一ヶ月は立ち直れないような激務を課せられた。
(なんでジュリアのスケジュール全部把握してるんだ。ってそんなものあのサイラスには容易いものか)
サイラス・スペンサーはヴィシャス伯爵家の長男として生まれる。ヴィシャス伯爵家は代々国王に仕えており、歴史の年表を見てもヴィシャス一族は宰相や騎士として仕えていたようだ。この国は小国ながら、これまで他国に侵略されてこなかった。それもヴィシャス伯爵家のおかげであり彼らは影の統治者だと言われている。ヴィシャスは優秀な人材を多く受け入れており王都や王城の至るところに情報屋を張り巡らしている。実際この伯爵家をないがしろにした時代は数年で国王が交代している。
そんな家系に生まれたサイラスは王都の学校でも主席で卒業しており、その成績を越えた人物は未だに一人もいない。王城でも国王以外の人物はほとんど彼を恐れていた。ウルフ自身もなんでも見越してしまうようなサイラスの眼が苦手であった。
(あいつも孤独だったんだな)
ウルフはなんだかんだいって面倒見が良く、気分転換した方が良いとサイラスと飲みに誘うことが何度かあった。彼の知性溢れる話術は武術しか学んでこなかったウルフにとってとても新鮮で、面倒見をみるつもりが逆に相談することも多々あった。年上にも屈さない論理的な話し方は人によっては抵抗感があるかもしれないが。
(ふっ、氷でできた人形が人間になった・・・か)
あの嫉妬深い大きな深い青のダイヤをウルフが見たときは驚いた。まるでジュリアはあいつのものだと誇示するそれ、に分かるものは直ぐに気づいたであろう。
(フィンがジュリアと踊ってるときのあいつの眼は、嫉妬に狂う人間のそれと同じだったな)
本当は自分がエスコートしたかったのであろうがスリ侯爵を弾圧するのに思ったより時間を要したのだ。ウルフはジュリアを意識している他の男は牽制していたのだが、フィンだけにはそれはできなかった。彼は見事撃沈したのだが。
「フィン、今から飲みに行くか。今日は奢ってやる」
「今日は一日付き合ってもらいますからね、団長」
「望むところだ」
勇敢に刺客に立ち向かった濃藍のネックレスをした美女にそれと同じ瞳をした氷の宰相がダンスを誘った瞬間皆納得してしまった。今まで人間らしさのないブリザードのようだった瞳が柔らかくジュリアを見つめ、ジュリアもそれに答えるよう優しく微笑んだのだ。その時貴族たちがゴクリと唾を飲み込んだのを二人の世界に入っていたサイラスとジュリアは気づただろうか。
(明日は俺も嫁さんとイチャつこう)
「今日はシャンパンも開けてやろう」
「やった~団長太っ腹」
とりあえず今日はフィンを慰めることに徹しようと、ウルフはフィンを連れ夜の街に消えていった。
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