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ジュリアの弱み
しおりを挟む「ありがとうジュリア。今日はもう下がって良いわよ」
「では失礼致します、ローズ様」
キュッと一つに縛ったライトブラウンの髪を規則的に揺らしながら姿勢よく廊下を歩いている女性はジュリア・マイルズ。今年で二十二歳だ。もう婚期も過ぎようとしているのに、同年代の異性とも慣れあわず王妃であるローズ一筋で仕事をしてきた。そんな隙を見せない彼女は影で“堅物の女騎士”と呼ばれていた 。
「お疲れ様、ジュリアちゃん。今日も君の漆黒の瞳は真珠のように綺麗だね」
「戯言は良いですので報告書をお願いします、フィン副団長」
ニッコリと微笑んだのはジュリアの所属する第一騎士団の副団長であるフィン・クラークである。彼はまだ二十五歳にもかかわらず副団長に抜擢された将来の有望株だ。淡いブルーの瞳とさらさらのブロンドヘアーで優しげな雰囲気をもつ彼は王子様のようだと侍女たちに人気があり、城内外にもファンクラブができるほど。そんなジュリアは彼と仕事場が一緒であることを羨ましがられるのだ。
「相変わらずジュリアは僕の素敵な笑顔にも無反応だなぁ」
「毎日その無駄に整ったお顔を見ているので慣れました。美しい絵画を眺めている感覚と一緒です」
「ぷはっ、そんなこと僕に言うのは君くらいだよ。はい、この報告書宜しくね」
「は、はい」
ジュリアは王妃付きの護衛の仕事が終わると報告書をまとめ、他の団員の報告書と一緒に宰相の元へ持っていくのだ。
(今日も気を引き締めて行かねばっ)
ジュリアは心のなかでそう決意し宰相の書斎部屋をノックした。
「ふぅ・・・」
ジュリアは一息整えその部屋に入っていった。
「こちらが本日の報告書です」
「ああ、ジュリア殿か。そこに置いておいてくれ」
「はっ」
書斎で何やら書類を書いていた彼は、ペンを止め報告書を手に取った。眼鏡の奥に氷のような深いブルーの瞳を携え、報告書を淡々と読んでいるこのお方がこの国の宰相サイラス・スペンサーである。
「城内でボヤ騒ぎですか・・・」
「はい、城内で新人書記官が休憩中に我慢できず倉庫の中で煙草を吸っていたそうで、吸殻が倉庫内のものに引火してしまったようです。掃除用具を取りに来た侍女が発見し、すぐに団員が消火を行ったので被害はそこまでないようです」
ジュリアはこのように王妃の状況だけでなく、他の団員からの報告書と共にあらゆる城内の出来事を彼に報告するのも仕事である。
「そうですか・・・」
「また書記官長が報告に来られるでしょうが、その新人書記官はまた見習いからやり直しをさせると仰有っておりました」
サイラスは眼鏡をクイッと引き上げ何か考えているようであった。
「分かりました、ありがとうございます。では行って良いですよ」
「はい、失礼いたします」
ジュリアがドアノブを持ち、そのドアを開けようとしたが、サイラスがジュリアを引き止めた。
「ちなみに、この時間は何人の団員が勤務体制であったか覚えていますか」
サイラスは書類を持ってジュリアに近づき、その書類をジュリアに見せるように横並びとなった。肩越しにサイラスの息がかかっているのがわかる。
(ヒィィィィ・・・)
ジュリアは飛び退きたい衝動に駆られるも、ぐっと堪え固まっていた。
「ジュリア殿・・・?」
耳元でジュリアの名前を呼ぶサイラスの声が響く。
「ま、また確認しておきます」
ーバタンー
ジュリアはそう言って逃げるように部屋を出ていき騎士団寮へと帰っていった。
「ふにゃぁ・・・」
なんとか自分の部屋に戻ったジュリアはヘナヘナとドアの前に座り込んだ。
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