29 / 121
第二章:恋の芽
お出かけの裏側Side薔薇組&影
しおりを挟む
~薔薇組の視点~
正妃ベラには平民から貴族まで崇拝者がいる。ベラは王都に劇団を作り、劇団員は家族として平民であれ孤児であれ平等に愛した。そんな劇団員の選ばれし者たちの裏の姿は正妃ベラの諜報員で『薔薇組』と呼ばれている。薔薇組は武器も持たないし、暴力はもっての他だ。ただただその場にあった人を“演じ”、情報を集める。
あるときは泥まみれの子供に、あるときは足の悪い老人に、あるときは花街の遊女に扮して街の中のあらゆる情報を収集しているのだ。
今日のターゲットはベラのお気に入りであるエドアルドの双子の姉ミリアとブラン騎士団、騎士団長ランドルフである。ベラは茶会の際にミリアと対面しており、いずれはそっくりな美人双子にお揃いのドレスを着せ替えて楽しもうと企んでいるのだ。そのミリアがランドルフと出掛けるというので、それを追う指命をベラから直接頂いたのだ。そんな薔薇組の一人がお使いの少女の装いで二人を追う。
(この二人の関係は何なのだろうか・・・)
ベラは薔薇組に詳しい情報は伝えない。それが劇団員の想像力をかきたて、様々なストーリーを生むのだ。
(カップルではなさそうだけど、何か秘密がありそう。これからどんなストーリーが生まれるのかしら。楽しみだわ)
夜も更けてきたので少女の姿から食事に来た中年の男の格好に変え、街に溶け込んでいった。
~影Aの視点~
(主人にも覗きの趣味があったとっは・・・)
シルベスターに影は「ランドルフの始めてのデートだよ、付いていって報告してね☆」とウインクしながら命令されたのだ。
(まったく、影の無駄遣いしやがって・・・)
彼女いない歴と年齢が一緒の影は、一通り買い物をしている様子を影から見守っていたが、ミリアが男に絡まれてからぐっと縮まった距離感と甘い雰囲気にため息をついた。
店の物陰に隠れていると目の前から中年のおじさんがフラフラと酒に酔ったように歩いてきた。
「あら、今日もシルベスターちゃんのお使いかしら。影の坊やさん♪」
中年の男は被っていたハンチング帽を少し上げる。そこから定期的に密偵中に出会ってしまうあの女の顔がちらりと見えた。
(なっ!!ーーー)
気配を完全に消している影は、シルベスターの前にしか現れないし、見破られることはない。しかし影としてシルベスターに就いて間もない頃、まだ不慣れだったこともあり正妃ベラの諜報員の一人、マーサに見破られてしまったことがあった。存在を認めてしまったことで、それからその諜報員にだけはどれだけ気配の消し方が上手くなっても天井裏に隠れるなどしなければ気づかれるようになってしまった。シルベスターは「まぁ義母さんは僕を害することはしないだろうし、ほっといたらいいよ」と言っていたのだが。
「またお前か・・・」
「うふふ、影はこんなデートも監視するのかしら。趣味が悪いわね」
「そういうお前こそっ!」
「あーら、私はただベラ様の美しい物語を完成させるためにこの動き出した物語を見守っているだけよ」
がちゃがちゃ言っている間にミリアとランドルフは料理屋に入っていってしまった。
「ちょっと待ってて。私着替えてくるから」
「なんで待たねばならんのだ!」
(まったくいつもいつも調子を狂わせやがる!)
そう言いながら、きちんと待つ影である。
「おまたせ~」
そこには初々しい二十歳前後の女性の格好をしたマーサが戻ってきた。
「これでカップルに見えるわ。行くわよ、ダーリン♪」
「なにを勝手に!!」
そう言って腕を捕まれ、料理屋に入っていった。
あの二人は中二階にある個室に連れていかれた。個室といっても入り口は短いすだれが下ろされているのみなので、声は聞こえないが、チラチラとミリアの顔が見え隠れして、中の様子はうかがい知ることができた。
「あら~あのお嬢ちゃん、今団長さんに見えないように涙ぬぐってたわ。“昔危険なところを助けてもらった初恋の男性に再開、そしてその恋が再び動き出す・・・!!”なんて展開どうかしら?」
「ふんっ・・・考えすぎだ」
あーだこーだ言う女の妄想話につきあっていると、ランドルフは中から革の袋を取り出し、ミリアに手渡した。その袋の中には、前王の時代に名を馳せたヴァンクリーフという剣豪が引退して細々と開いている加治屋で受け取っていた剣が入っていた。
「あの絵柄は桔梗ね。花言葉は“気品”と“永遠の愛”。あのブラック・スター・サファイアもかなりのお値段するものよ。彼の髪と目の色と同じね。団長さんは果たして知っていて渡してるのかしら」
(そういえば、彼女、短剣は太もものガーターベルトにしまっていたっけな。そんな場所に常に着けておくものにあんな独占欲バリバリの自分と同じ色の宝石つけるなんて・・・)
天井裏で見た彼女の脚を思い出してしまったが、首をぶるぶると震わせ、今の監視に集中しようとした。
プレゼントに剣はどうかと思うが、ミリアはランドルフからのプレゼントに本当に喜んでいるようで今まででに見たことのない天使のような笑顔をランドルフに向けていた。
(・・・)
ランドルフの顔はうかがい知ることができないが、あの固まりように、だいたい想像がつく。
「堕ちたわね・・・」
「堕ちたな・・・」
男が女に堕ちる瞬間を目の前で見ることとなる影であった。
正妃ベラには平民から貴族まで崇拝者がいる。ベラは王都に劇団を作り、劇団員は家族として平民であれ孤児であれ平等に愛した。そんな劇団員の選ばれし者たちの裏の姿は正妃ベラの諜報員で『薔薇組』と呼ばれている。薔薇組は武器も持たないし、暴力はもっての他だ。ただただその場にあった人を“演じ”、情報を集める。
あるときは泥まみれの子供に、あるときは足の悪い老人に、あるときは花街の遊女に扮して街の中のあらゆる情報を収集しているのだ。
今日のターゲットはベラのお気に入りであるエドアルドの双子の姉ミリアとブラン騎士団、騎士団長ランドルフである。ベラは茶会の際にミリアと対面しており、いずれはそっくりな美人双子にお揃いのドレスを着せ替えて楽しもうと企んでいるのだ。そのミリアがランドルフと出掛けるというので、それを追う指命をベラから直接頂いたのだ。そんな薔薇組の一人がお使いの少女の装いで二人を追う。
(この二人の関係は何なのだろうか・・・)
ベラは薔薇組に詳しい情報は伝えない。それが劇団員の想像力をかきたて、様々なストーリーを生むのだ。
(カップルではなさそうだけど、何か秘密がありそう。これからどんなストーリーが生まれるのかしら。楽しみだわ)
夜も更けてきたので少女の姿から食事に来た中年の男の格好に変え、街に溶け込んでいった。
~影Aの視点~
(主人にも覗きの趣味があったとっは・・・)
シルベスターに影は「ランドルフの始めてのデートだよ、付いていって報告してね☆」とウインクしながら命令されたのだ。
(まったく、影の無駄遣いしやがって・・・)
彼女いない歴と年齢が一緒の影は、一通り買い物をしている様子を影から見守っていたが、ミリアが男に絡まれてからぐっと縮まった距離感と甘い雰囲気にため息をついた。
店の物陰に隠れていると目の前から中年のおじさんがフラフラと酒に酔ったように歩いてきた。
「あら、今日もシルベスターちゃんのお使いかしら。影の坊やさん♪」
中年の男は被っていたハンチング帽を少し上げる。そこから定期的に密偵中に出会ってしまうあの女の顔がちらりと見えた。
(なっ!!ーーー)
気配を完全に消している影は、シルベスターの前にしか現れないし、見破られることはない。しかし影としてシルベスターに就いて間もない頃、まだ不慣れだったこともあり正妃ベラの諜報員の一人、マーサに見破られてしまったことがあった。存在を認めてしまったことで、それからその諜報員にだけはどれだけ気配の消し方が上手くなっても天井裏に隠れるなどしなければ気づかれるようになってしまった。シルベスターは「まぁ義母さんは僕を害することはしないだろうし、ほっといたらいいよ」と言っていたのだが。
「またお前か・・・」
「うふふ、影はこんなデートも監視するのかしら。趣味が悪いわね」
「そういうお前こそっ!」
「あーら、私はただベラ様の美しい物語を完成させるためにこの動き出した物語を見守っているだけよ」
がちゃがちゃ言っている間にミリアとランドルフは料理屋に入っていってしまった。
「ちょっと待ってて。私着替えてくるから」
「なんで待たねばならんのだ!」
(まったくいつもいつも調子を狂わせやがる!)
そう言いながら、きちんと待つ影である。
「おまたせ~」
そこには初々しい二十歳前後の女性の格好をしたマーサが戻ってきた。
「これでカップルに見えるわ。行くわよ、ダーリン♪」
「なにを勝手に!!」
そう言って腕を捕まれ、料理屋に入っていった。
あの二人は中二階にある個室に連れていかれた。個室といっても入り口は短いすだれが下ろされているのみなので、声は聞こえないが、チラチラとミリアの顔が見え隠れして、中の様子はうかがい知ることができた。
「あら~あのお嬢ちゃん、今団長さんに見えないように涙ぬぐってたわ。“昔危険なところを助けてもらった初恋の男性に再開、そしてその恋が再び動き出す・・・!!”なんて展開どうかしら?」
「ふんっ・・・考えすぎだ」
あーだこーだ言う女の妄想話につきあっていると、ランドルフは中から革の袋を取り出し、ミリアに手渡した。その袋の中には、前王の時代に名を馳せたヴァンクリーフという剣豪が引退して細々と開いている加治屋で受け取っていた剣が入っていた。
「あの絵柄は桔梗ね。花言葉は“気品”と“永遠の愛”。あのブラック・スター・サファイアもかなりのお値段するものよ。彼の髪と目の色と同じね。団長さんは果たして知っていて渡してるのかしら」
(そういえば、彼女、短剣は太もものガーターベルトにしまっていたっけな。そんな場所に常に着けておくものにあんな独占欲バリバリの自分と同じ色の宝石つけるなんて・・・)
天井裏で見た彼女の脚を思い出してしまったが、首をぶるぶると震わせ、今の監視に集中しようとした。
プレゼントに剣はどうかと思うが、ミリアはランドルフからのプレゼントに本当に喜んでいるようで今まででに見たことのない天使のような笑顔をランドルフに向けていた。
(・・・)
ランドルフの顔はうかがい知ることができないが、あの固まりように、だいたい想像がつく。
「堕ちたわね・・・」
「堕ちたな・・・」
男が女に堕ちる瞬間を目の前で見ることとなる影であった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
792
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる