秘密の師弟関係

ほのじー

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第一章:再会

理由

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この国で働く女性は少なく、裁縫や料理など淑女学校で学んだ後、親同士の紹介などによるお見合いで結婚し、子供を作るのが良しとされる風潮がある。最近女性で就職する者も増えてはきているが、ごく一握りである。

ミリアは手先は器用ではあるが、裁縫するとぼろ雑巾のような形になるわ、料理をした時にはどうやったらそうなるのか、毒入りのような深緑色のハンバーグが出来上がったこともある。味はもちろん最悪だった。

そんな時にはいつも双子の弟エドアルドが手伝ってくれた。彼は何でもこなす天才だった。


「ミリ姉、初日はどうだった?」


ミリアと瓜二つで同じ青い瞳の青年がミリアに話かけた。


「あのとっっっても可愛らしいシャーロット様の側で働けるなんて、もう最高だったに決まってるじゃない」


仕事中はミリアは無表情を貫いている。学生時代だってそうだった。ミリアは男性に女性として扱われることが嫌いで、隙を見せまいと無表情がテンプレとなってしまったのだ。


しかし今そんなミリアは嬉しそうな笑顔で鼻歌を歌いながら皿洗いをしている。洗剤の泡が頬に付いているのにも気づいていない。家族や気の知れた人の前だけはコロコロと表情を変化させるので、エドアルドはミリアの事をあまり懐かない犬のようだと思っている。



「ふふっ。ミリ姉は本当に可愛い子が好きだよね」



ミリアとエドアルド二人は今王都にある庭の広い一軒家を借りて住んでいる。叔父が不動産業をしているので、格安で貸してくれたのだ。



ちなみにエドアルドはとても優秀なので一足早く文官として王宮で働いている。学校でもずっと学年一位をキープしていたので、仕事もできるのだろう。出世街道まっしぐらだ。



「でもミリ姉、シャーロット様の回りがだいぶきな臭くなってきたって噂だよ。ただの噂だと思うけど、気をつけてね」エドアルドが心配そうにミリアを見る。


そう、学校での成績も優秀でなかったミリアが第二王女の侍女になった理由はここにある。


一ヶ月程前、王宮に第二王女シャーロットへの殺人予告が入った手紙が届いた。さほど気にしていなかったのだが、最近どうも彼女の近くでトラブルが絶えない。そこで念のため彼女を守れるような侍女を雇うことを決めたのだそうだ。



しかしどこに犯人が潜んでいるか、誰が関与しているのか分からないので、この事は第一王子、第二王女、他信用できるほんの数人のみ知る秘密だ。弟のエドアルドにも言っていない。



「ミリ姉明日も朝早いんでしょ。早く寝なよ」
「うん、エドおやすみ」
「おやすみ」
さすがに初日で疲れていたのか、ミリアは一瞬で深い眠りに吸い込まれる。



「・・・もう少し調べてみるか」



双子であるエドアルドはミリアが何か隠していることに気づいていた。
優秀であるのはもちろん、生まれた時からずっと共に生活していた姉である。ミリアが心に何か隠していることに気づくのは造作もない。



「まったく、僕が何も気づかないなんて思ってるなんて、バカな姉さんだよ・・・」



ボソリと呟いたエドアルドの声はミリアの寝息と共に闇に消えていった。


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