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訪れぬ死
しおりを挟む──ガチャン──
ライト=エルフェンが牢獄の鍵を開けた。そしてセナの逃げないように繋がれていた鎖が外れる。蹲っていたセナはのろのろと起き上がった。
「出るぞ」
「・・・」
(とうとう私の死刑が決まって、彼も立ち合うのだろう)
セナはゆっくりと彼に付いていった。牢屋を出る直前に、一通り書類にサインをさせられた。拘束された日に来ていた服と装飾品を返されセナは牢屋を出た。一ヶ月も拘束されていたので、体の筋肉はさらに衰えているのを感じながら、彼に遅れをとらぬように付いていくと、なぜか馬車に乗せられる。
(死刑は、ここで行うんじゃないのか?)
「おい、ライト=エルフェン」
「ライトだ」
「え・・・」
「ライトと呼べ」
「ああ、分かった。こちらもセナと呼んでくれ」
「セナ・・・」
どこか甘い呼び掛けにセナはドキリとした。彼の声は低く、彼の声がずくりと心臓の中に響いているようだ。そんなことを考えたがセナは話の途中だったと頭を切り替えた。
「ライト、どうやら王都を抜けているようだが、死刑場は遠くにあるのか?」
「何を言ってるんだ、お前は・・・今から行くのは死刑場ではなくて・・・まあ付いてきたら分かる」
ゴトゴトと揺られ三時間、大きな門をくぐり馬車を降りるとそこは古い城であった。この国アドナには古い城塞が各地に存在すると聞いている。その城には三つの棟が存在し、その一つに入っていく。
「グレイ伯、こちらの荷物は後で届けておきます」
「ああ、ご苦労だった」
(グレイ伯?ライトは爵位持ちだったんだな)
馬丁がライトをグレイ伯と呼んでいた。もしかすると戦争の褒美で爵位を貰ったのかもしれない。
「お帰りなさいませ、旦那様。おや、そちらは・・・まさか本当に連れてくるとは・・・」
まだ若そうな黒のスーツを着た男がライトを迎えた。彼はセナを見るなりポカンと口を開けている。
「ああ、セナだ。セナ、こいつは執事のビクターだ。何かあればこいつに言え」
「??ああ、分かった」
(どういうことだ・・・私は何をしにここへ来たんだ?)
行く場所は死刑場ではないとライトは言っていた。それならセナはどこか厳しい監獄で粋ごろしのように重労働をさせられるのではないかと考えていたからだ。
「セ・・・セナ様、そのような格好ではいけません。今からお風呂の準備をさせていただきましょう」
セナは一ヶ月もの間牢屋にいたのだ。肌も黒い炭が塗ってあるかのように汚れ、髪もボサボサである。侍女たちに浴槽に連れていかれ、体を磨かれる。綺麗に磨かれたセナを見て侍女たちはポカーンと口を空けていた。その一人は口を覆ってその場を逃げていった。
「ああ、こんな敵国の囚人の世話をさせてしまってすまないな。触れるのも嫌であっただろうに・・逃げてしまった彼女にも謝っておいてくれ」
「い、いえ。セナ様・・・そういう訳ではございません。ささ、お洋服を」
一番胆が座っているであろう、ふくよかな五十代くらいの女性がテキパキと既製品の服を持ってきた。彼女が侍女頭だそうだ。
「あら、お胸のあたりが少しキツいようですので、他のお洋服を準備致しましょう」
「ああ、いや。準備していただくのは面倒だ。別にこれで構わない。で、私は今から何をすればいい」
「グレイ伯の書斎におつれいたします」
セナは早く事情を聞きたいと思い、すたすたと部屋を出ようとするも、慌てて侍女が呼び止める。
「お、お待ちください、せめてショールを!!」
扉を開けると護衛らしき若い赤毛の男が真正面に立っていた。
「ぶふっ・・・」
男は急に鼻血を吹き出した。侍女が慌ててセナにショールを被せ、ガーゼをその男に渡した。しばらくして男は落ち着きを取り戻し姿勢を正す。鼻に布が詰めてあるのが滑稽であるが、真面目な表情でセナに挨拶した。
「お、おい、大丈夫か」
「いえ、お構い無く」
侍女が言うに、彼はセナに付く護衛だそうだ。滞在中ライトがいない場合は必ず護衛を伴わないといけないそうだ。
(護衛という名の監視か・・・?まあ、私のことを殺したい奴らはたくさんこの国にいるだろうが・・・)
とにかくライトに事情を聞こうとセナは侍女に付いていった。
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