王子の影と王妃の光

ほのじー

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最終回:光と永遠に・・・:レン視点

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俺は彼女が眠った後、俺はそっと部屋を出た。
この遊廓では彼女の母親もそうだが、薬に手を出している遊女が見受けられるように感じた。俺は不本意ながら屋根裏を進み(遊女らが男と寝ている姿がチラチラ見えてしまったのは致し方ない)事務室らしき部屋を見つけた。

(お~ビンゴ)

そこには袋に大量に詰められた白い粉が小分けにされていて、柄の悪い男と遊女が話していた。

「お願いします、もう少し下さい・・・」
「お前今日客一人も取ってねーじゃねーか。金がいるんだよ、欲しかったらもうちょっと客取ってきな!」
「はい・・・」

そう言って女が出ていった。男は葉巻を吸い終わってからその部屋を出ていった。俺はトンッと天井裏から部屋に降り、そこにあった会計書や薬の一部をを拝借した。

(あいつ、ちょっと追ってみるか)


彼は薬を入れた袋を持ち、裏路地からしばらく行ったところから、バーのような地下に入っていった。そこからは怪しげな煙がモクモクと立ち込め、甘ったるい匂いが俺の嗅覚を鈍らせた。中では男数人が陽気に酒を飲み、ゲラゲラと笑っていた。


「おい、お前が付き合ってた昔ナンバーワンだった遊女、入ったら最後、薬漬けで抜け出せねーって噂の遊廓に送ったんだって?」
「ああ、うちの嫁にあいつと子供がいることがバレてよ~、いい女だったけど仕方ねーんだって」
「うわ~お前鬼畜だな」
「案の定、薬漬けなってるわ。痩せこけてもう美女だった面影もなくなってきちまってもうヤる気にもならねーよ」
「ぎゃははは、そりゃ惜しいことしたな」
「それが、最近そいつとの子供が戻ってきたらしくて、見に行ったらそりゃ美人になっててよ。あいつと一発ヤってもいいな~。あれは売れるぜ。とりあえず一儲けさせてもらって嫁にバレる前に高値で国外に売るさ。」
「うわ~自分の娘とってか?お前最低野郎だぜ!!ガッハハッハ」

(こいつ・・・ルミの父親か!?)

話を聞くにつれて吐き気がしてきた。ルミを苦しめてきたクソ野郎に殺意を覚える。俺は隠し持っていた武器をギリギリと強く握りしめすぎた。爪から血がにじみ出てくる。ぐっと我慢し伝書鳩を使い主人マスターに連絡する。その後鳩が戻ってきて、騎士団を送るので現場に待機するように言われた。


ーバン!!ーーー


「な、なんだてめえら!!」
「お前を麻薬の販売、少年少女の誘拐、奴隷取引の容疑で逮捕する!!」

騎士団が男を取り押さえ、引きずりだしていった。俺はひとまずホッと一息つき、彼女の眠る部屋へと帰っていった。

(これ以上待たされたらアイツを殺すところだった・・・)

俺はルミの寝ている部屋へと戻り、癒されるためにルミの寝顔を再び眺め、眠りについたのだった。俺が次の日の朝眠りこけてルミにイタズラを許してしまったのは、俺が夜中ルミの為に頑張っていたからである、と言い訳をしておく。


俺は朝我慢できずルミと再び愛し合ったあと、(あんな可愛くしゃぶられたらまた俺の息子が大きくなるのは仕方がない)騎士団が遊廓へと突入し、麻薬の証拠品などを見つけに家宅捜査に入った。この遊廓が営業停止となるのは間逃れないだろう。俺とルミはそっと裏から出ていった。彼女の母は刑務所に少し入って少し頭を冷やし、反省させてから迎えにいこうと心に誓った。


彼女を劇団に送ってから俺は主人の執務室へと向かった。


「やあ、今回お前、大活躍だったそうじゃないか」
「無事彼女を取り戻してきました。正妃ベラ様もご安心なさるかと」
「いやあ、彼女を取り戻したことと、まだ残っていた麻薬販売組織と、奴隷販売していた裏組織も摘発することができたってことで、正妃からと俺からもお礼がしたいって言ってたんだけど、何か欲しいものはあるのかな?」


「それなら、孤児の俺にこの国の戸籍を下さい。家を買ったり何をするにしても戸籍がいるんです」
「・・・ん?君はとっくに国民なんだけど。君を拾ってきた日に君のことは調査してあったんだ。そりゃ僕の大事な影になるんだもん。信頼できるか調べなきゃでしょ?それで問題なしって報告受けたから、僕の知り合いの筋の養子としてもう登録してあるよ。君のここでの名前はレン・ブライスだ」
「・・・!!」


俺がもうここの国民だったなんて知らなかったし、誰も教えてくれなかった。俺は影として人生を“存在しない人間”として王族の犬として死ぬまで生きていかなければならないと思っていたのだ。主人にとって俺は孤児だし死んだって誰も悲しまない、無駄な手続きをしなくていい、そんな体のよい存在だと思っていたのだ。


「・・・ありがとうございます。」
「そういうことで、他には何かないのかな?」
「・・・では、正妃の劇団員マーサに、これからプロポーズしに行くので、もし受け入れてもらえたら、彼女の育て親でもある正妃に結婚の許可をいただきたく思います。」


シルベスターはおもしろそうに俺を見た。

「はっはっは!分かった、彼女にはそう伝えておくよ。じゃあ僕からの褒美はハネムーンの休みの確約と費用は全部負担してあげよう。戻ってきたらまた頑張ってくれよ」
「ありがとうございます!!」

俺は彼女シンプルな指輪を選び裏に“Pour l’éternité”(永遠に)というメッセージを刻み、彼女に会いに行った。



するとそこでは劇団員が皆舞台セットで妖精や貴族に変装していた。



(これは・・・妖精と王子様?)


“妖精と王子様”はこの劇団でも大人気公演となった物語だ。今この状況はその物語の舞踏会のシーンのようである。俺はそこに足を踏み入れると、妖精に扮した女性が俺に衣装である王冠とマントを被せ、「あなたの妖精をお探しください」と言ってヒラヒラと羽を羽ばたかせ去っていった。俺は一歩一歩前に進むが人が多くてなかなか見つからない。


(どこだ?)


俺はキョロキョロと彼女の姿を探しながら奥へ奥へと進む。すると舞台セットの階段の傍に劇中のお姫様に扮した女性が後ろ姿で立っていた。


(あれがルミだ、間違いない)


後ろ姿だって彼女は誰よりも俺の瞳には美しく写るのだから。

「ルミ・・・」


彼女はふわっと髪を揺らし振り返る。少し照れくさそうな彼女の顔が見えた。俺は膝間付き、ポケットに入っていた指輪のケースを取り出した。



「ルミ、俺はお前のことが好きだ。君のどんなことだって受け入る。俺と結婚してほしい」


彼女は呆然としていたが、ポツリポツリと涙が床に零れだした。そしてコクリと頷いた。


「はい・・・こちらこそお願いします」

静寂が一瞬訪れる。



『わーーー!!!!』
『おめでとー!!』


ドッと劇場は劇団員たちの大歓声に包まれる。そんな歓声や冷やかしの声は俺たちには全く届かなかった。


彼女に指輪を填めて俺たちはお互いを見つめ、そしてゆっくりと近づき、長い、それは長ーいキスをしたのだった。






ー数年後ーー


劇場から数人の女性が出てきた。

「ねえ、今年はフェリス祭の女優賞マーサが取ったらしいわよ」
「へー!彼女、どんな演技でもハマるもんね~」
「審査員も、最近特に彼女の恋をする演技に深みが出て素晴らしかったって言ってたわよ」
「きっとプライベートでも大恋愛してるんだろうね!」

そう言いながら女性たちは去っていった。


そんな彼女たちを遠くから二人のカップルが見やる。
「ふふ、聞いた?レン」
「ああ、ベッドでの演技の練習が良かったのかもな。今日は教師になっていやらしいレッスンでもしてもらおうかな、ルミ先生?」
「もう!レンったら!」



《終わり》





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