7 / 16
影、見つける:レン視点
しおりを挟む
『もう逃げられないわ。この毒を一緒に飲んで死にましょう・・・』
男女二人が毒を煽った。
『ゲホッゲホッ・・・神様、お願いです。来世でも私たちが出会えますように・・・』
そうして二人は倒れ、二人を照らしていたスポットライトが暗転する。
ーパチパチパチパチパチパチー
「マーサ、今日も良かったよ」
「毎日毎日通って仕事はどうしたのよ!」
「最近ずっと無理させられてばっかしだってクレームつけたら、君が舞台にでるこの時間は休ませてくれるって」
俺は彼女が出る劇はなるべく見に行けるように仕事を調整した。ここ最近通いつめて気づいたことは、彼女はとても頑張り屋で、人一倍練習をしていることだ。彼女は慕われ、他の劇団員にアドバイスしたりと真面目な一面が垣間見れた。時間が取れる日は近場のレストランで一緒に食事もするようになった。
俺は劇を見るたびいつも物語に吸い込まれ、今日のような悲劇はついほろっと涙してしまうのは彼女には秘密だ。
「じゃあ、もう仕事に戻るよ」
「え、ええ・・・」
舞台が終わると彼女に花束を渡して仕事に戻ることが多いのだが、いつも帰り際に彼女が何か物言いたげに見ていることに気づいていた。
(いつもずけずけ言ってくるのに、帰ろうとすると大人しくなるんだよな・・・ったく、調子狂う・・・)
ー数日後ー
「今日はお義母さんから依頼が来てるんだよ。受けてくれる?」
「主人が影を貸し出すなんて、珍しいですね」
「うん、そうなんだ。お義母さんが可愛がってるマーサちゃんって子がしばらく帰ってこないらしくてね。今すぐに彼女を探してきてほしいみたいだからとりあえず、劇団まで行ってきて」
「っ・・・マーサが行方不明!?」
(なぜだ!なぜいなくなった!!)
俺は焦りで主人への礼儀も忘れ、なりふり構わず部屋を飛び出した。
「きちんと心も捕まえてくるんだよ」
ドアを閉めるときに、そう主人が言ったように聞こえた。
劇場に着くと薔薇組たちがこの国に散らばっている諜報員たちの情報を集めているようだった。しばらくして遊女である彼女の母がマーサに接触したという情報が流れてきた。そして一緒に彼女の働く遊廓までついていったと言うのだ。きっと彼女はそこにいる。
(彼女の母は遊女?いったい彼女にはどういった過去が・・・)
俺は全速力で伝えられた住所まで走っていき、接客が終わり見送りをしているマーサの母に接触した。
(彼女がマーサの母・・・)
マーサの母は若い頃ずっと一番人気の遊女だったそうだが、今は歳をとり少しやつれているように見えた。
「マーサはどこだ」
「マーサって誰よ。・・・あら、あなたイケメンね。客なら早く中に入りなさいな」
マーサの母が俺を遊廓の料亭に通した。面長のテーブルに男たちが座って酒を飲み、陽気に遊女といやらしいゲームをしたり、胸を触ったりしていた。男たちはこの場で気に入った遊女を指名し、上の階の部屋でことを為せるのだ。
「男前だわー!!いらっしゃい!」
「ほらほら、一緒に飲みましょうよ」
「お、俺は遊女を買いに来たわけじゃ・・・」
女たちが俺を取り囲み酒を飲ませようとする。マーサの母は違う客を見つけたのが、その客に「会いたかったわ~」と媚を売っていた。
(くっ・・・どうすればいいんだ。一旦退いて遊廓の部屋を一部屋一部屋確認するか?)
遊廓に黒服で忍び込んで覗くことは悪趣味のようだがマーサを探さなければならないんだから仕方ない。
「俺はここで・・・」
(ーー!?)
部屋の片隅には十六才程の背格好をしておどおどしているまだ花開く前のような女が見えた。なぜかその姿がマーサのそれと重なる。
(いや、間違いない、あれはマーサだ)
「マーサ!!」
俺は彼女の名を呼んだ。彼女は俺を視界に認めるや否や、逃げようとしたが、素早く彼女の腕を掴んだ。
「見つけた、マーサ」
「私はマーサじゃないわ。ルミよ。人違いだわ」
「人違いな訳ないさ、この可愛らしい青い目、この小ぶりな鼻、この憎たらしい言葉を吐き出す小さな唇、そしてこの尖ったすぐ赤くなる耳。どれもマーサじゃないか」
一つ一つ俺は触って確かめていく。耳は以前のように赤く色づいていた。
「帰ろう、マーサ」
「無理よ、私は所詮遊女の娘だもの」
マーサは目をそらせ、頑なに俺を拒んだ。すると女将さんらしき女がマーサを呼んだ。
「おい、ルミ、初物好きの紳士がえらい高値でお前を一夜買ってくれるとよ」
「は、はい」
「おい、好きでもない男と寝るってのかよ!」
「遊女だもの、当たり前のことよ」
俺は彼女が昔の自分に囚われているように感じた。彼女の目を醒ませてあげなければ。
(彼女を取り戻してみせる)
「それはいくらだ。俺はその倍出す」
「あら、ルミちゃん、良かったじゃない。こんなイケメンに初めて抱かれるなんて」
「っ!!この人は!!」
マーサに拒否される前に女将さんにすぐに五千リール払って部屋に通してもらった。
男女二人が毒を煽った。
『ゲホッゲホッ・・・神様、お願いです。来世でも私たちが出会えますように・・・』
そうして二人は倒れ、二人を照らしていたスポットライトが暗転する。
ーパチパチパチパチパチパチー
「マーサ、今日も良かったよ」
「毎日毎日通って仕事はどうしたのよ!」
「最近ずっと無理させられてばっかしだってクレームつけたら、君が舞台にでるこの時間は休ませてくれるって」
俺は彼女が出る劇はなるべく見に行けるように仕事を調整した。ここ最近通いつめて気づいたことは、彼女はとても頑張り屋で、人一倍練習をしていることだ。彼女は慕われ、他の劇団員にアドバイスしたりと真面目な一面が垣間見れた。時間が取れる日は近場のレストランで一緒に食事もするようになった。
俺は劇を見るたびいつも物語に吸い込まれ、今日のような悲劇はついほろっと涙してしまうのは彼女には秘密だ。
「じゃあ、もう仕事に戻るよ」
「え、ええ・・・」
舞台が終わると彼女に花束を渡して仕事に戻ることが多いのだが、いつも帰り際に彼女が何か物言いたげに見ていることに気づいていた。
(いつもずけずけ言ってくるのに、帰ろうとすると大人しくなるんだよな・・・ったく、調子狂う・・・)
ー数日後ー
「今日はお義母さんから依頼が来てるんだよ。受けてくれる?」
「主人が影を貸し出すなんて、珍しいですね」
「うん、そうなんだ。お義母さんが可愛がってるマーサちゃんって子がしばらく帰ってこないらしくてね。今すぐに彼女を探してきてほしいみたいだからとりあえず、劇団まで行ってきて」
「っ・・・マーサが行方不明!?」
(なぜだ!なぜいなくなった!!)
俺は焦りで主人への礼儀も忘れ、なりふり構わず部屋を飛び出した。
「きちんと心も捕まえてくるんだよ」
ドアを閉めるときに、そう主人が言ったように聞こえた。
劇場に着くと薔薇組たちがこの国に散らばっている諜報員たちの情報を集めているようだった。しばらくして遊女である彼女の母がマーサに接触したという情報が流れてきた。そして一緒に彼女の働く遊廓までついていったと言うのだ。きっと彼女はそこにいる。
(彼女の母は遊女?いったい彼女にはどういった過去が・・・)
俺は全速力で伝えられた住所まで走っていき、接客が終わり見送りをしているマーサの母に接触した。
(彼女がマーサの母・・・)
マーサの母は若い頃ずっと一番人気の遊女だったそうだが、今は歳をとり少しやつれているように見えた。
「マーサはどこだ」
「マーサって誰よ。・・・あら、あなたイケメンね。客なら早く中に入りなさいな」
マーサの母が俺を遊廓の料亭に通した。面長のテーブルに男たちが座って酒を飲み、陽気に遊女といやらしいゲームをしたり、胸を触ったりしていた。男たちはこの場で気に入った遊女を指名し、上の階の部屋でことを為せるのだ。
「男前だわー!!いらっしゃい!」
「ほらほら、一緒に飲みましょうよ」
「お、俺は遊女を買いに来たわけじゃ・・・」
女たちが俺を取り囲み酒を飲ませようとする。マーサの母は違う客を見つけたのが、その客に「会いたかったわ~」と媚を売っていた。
(くっ・・・どうすればいいんだ。一旦退いて遊廓の部屋を一部屋一部屋確認するか?)
遊廓に黒服で忍び込んで覗くことは悪趣味のようだがマーサを探さなければならないんだから仕方ない。
「俺はここで・・・」
(ーー!?)
部屋の片隅には十六才程の背格好をしておどおどしているまだ花開く前のような女が見えた。なぜかその姿がマーサのそれと重なる。
(いや、間違いない、あれはマーサだ)
「マーサ!!」
俺は彼女の名を呼んだ。彼女は俺を視界に認めるや否や、逃げようとしたが、素早く彼女の腕を掴んだ。
「見つけた、マーサ」
「私はマーサじゃないわ。ルミよ。人違いだわ」
「人違いな訳ないさ、この可愛らしい青い目、この小ぶりな鼻、この憎たらしい言葉を吐き出す小さな唇、そしてこの尖ったすぐ赤くなる耳。どれもマーサじゃないか」
一つ一つ俺は触って確かめていく。耳は以前のように赤く色づいていた。
「帰ろう、マーサ」
「無理よ、私は所詮遊女の娘だもの」
マーサは目をそらせ、頑なに俺を拒んだ。すると女将さんらしき女がマーサを呼んだ。
「おい、ルミ、初物好きの紳士がえらい高値でお前を一夜買ってくれるとよ」
「は、はい」
「おい、好きでもない男と寝るってのかよ!」
「遊女だもの、当たり前のことよ」
俺は彼女が昔の自分に囚われているように感じた。彼女の目を醒ませてあげなければ。
(彼女を取り戻してみせる)
「それはいくらだ。俺はその倍出す」
「あら、ルミちゃん、良かったじゃない。こんなイケメンに初めて抱かれるなんて」
「っ!!この人は!!」
マーサに拒否される前に女将さんにすぐに五千リール払って部屋に通してもらった。
10
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜
長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。
朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。
禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。
――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。
不思議な言葉を残して立ち去った男。
その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。
※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
ヒロインに騙されて婚約者を手放しました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
地味で冴えない脇役はヒーローに恋しちゃだめですか?
どこにでもいるような地味で冴えない私の唯一の長所は明るい性格。一方許嫁は学園一人気のある、ちょっぴり無口な彼でした。そんなある日、彼が学園一人気のあるヒロインに告白している姿を偶然目にしてしまい、捨てられるのが惨めだった私は先に彼に婚約破棄を申し出て、彼の前から去ることを決意しました。だけど、それはヒロインによる策略で・・・?明るさだけが取り柄の私と無口で不器用な彼との恋の行方はどうなるの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる