王子の影と王妃の光

ほのじー

文字の大きさ
上 下
3 / 16

影、出会う:レン視点

しおりを挟む
影になる為に俺は毎日傷だらけになり、先輩のスピードに着いていけるように懸命に練習を続けた。筋肉は悲鳴を上げ、夜は泥のように眠るが影の朝は早い。寝過ごすと朝ごはん抜きとなるので、必死に目を開け朝ごはんをかきこみまた朝のトレーニングを行うのだ。


だんだんとスピードには慣れていき、体術は元々やっていたこともありすんなりクリアした。

しかし気配を消すのはかなりコツがいって、とにかく邪念を払い空気と一体化するのだが、なかなか上手くいかない。時間は刻々と過ぎ15歳になる頃、なんとかギリギリ合格ラインまでいくことができた。


合格と聞いてから、先輩は王城の中へと導いていった。そのときなぜ王城に行くのかさっぱり分かっていなかったのだ。奥へ奥へと進み、白い制服を着た騎士たちが扉の前を守っている。

その部屋に通されると、見覚えのある金髪が見えた。間違いない、身長は伸び男らしさが出てきたが、以前会ったあのキラキラした少年だ。



「やあ、久しぶりだね」
「まさかあんたは・・・」

ただ者ではないとは思っていた。王城の、一般人には入れない区域を通り、たくさんの騎士が周りを警備していたのを見て、気付かぬ人はいないだろう。目の前にいるこのお方はフェリス国第一王子、シルベスターである。


(でもまさか王子だったなんて・・・)


しかしそう言われると府に落ちる点はいくつかある。俺は知らぬうちに彼の王としての器に惹かれていたんだ。

後戻りしたくたって、俺の生きる道はここしかない。異国人である俺をここまで育ててくれた影たち、その影たちが皆慕うこの男。俺は後世に語り継がれるだろうこの男を守りきるのだ。



俺は一呼吸置き、覚悟を決めた。


膝まずき忠誠のポーズを取る。




「この命を賭けて主人マスターに忠誠を誓います」

「宜しく頼んだよ」




ー数日後ー


「これはこれはお義母さん、こんなところで会うなんて偶然ですね」
「あら、シルベスター、あなた今日もむさ苦しい男たちを連れて、本当に美しくないわね」



主人がお忍びで街の公園を歩いていると彼の義理の母である正妃ベラがゆっくりと歩みよってきた。彼女は美しさに強いこだわりを持ち、男が近寄るのをあまり良しとしない。主人は実母を亡くし、急に現れた(少し変わっている)新しい母に戸惑いはあったそうだが、それなりに仲が良いらしい。まわりは犬猿の仲と勘違いしているようだが・・・


「お義母さんはまだ劇団員を育てる遊びをしてらっしゃるんですか」
「あら、遊びじゃないのよ。あなたも興味があるのかしら。次の公演は是非、見にいらっしゃって」
「ええ、美しい女性たちにはいつでも興味はありますよ。今度は是非女性たちを紹介してほしいものですね」


軽い言葉を交わし会う二人である。俺は公園の木の上に乗り気配を消して主人を見守っていた。


(!?!?)


強い風が吹いたと同時に青いリボンが俺の足に絡みついてきた。ふと下を見ると公園で遊んでいたであろう少女が俺のことをじっと見つめていたのだ。



「う・・・うわぁ!!」

俺は驚いて木から転落してしまった。


「いててて・・・」
「大丈夫?お兄ちゃん」

心配そうに覗きこんだと思われた少女は“ニヤリ”と少女に似合わぬ笑みを浮かべた。


「あーどんくさいわね、あなた。それでも第一王子の影なのかしら」
「なっ!?」

あどけない少女は女の顔へと変化する。いや、顔は変わってないのだが、表情や姿勢、話し方でずいぶんと印象が変わるのかと驚いた。



「マーサ、何をしてるの」
「ベラ様、木の上で遊んでいらした殿方が足を滑らして倒れていらっしゃったのでお助けしていたんです」
「あらあら、大の大人が木登りなんてするなんてお子様ねぇ。ね、シルベスター?ほほほほほ」


主人であるシルベスターは呆れた顔をしてこちらを見ていた。

「・・・」

あんな女に見破られた悔しさで、練習をいつもの倍こなすようになった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。

水鏡あかり
恋愛
 姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。  真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。  しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。 主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

〈短編版〉騎士団長との淫らな秘め事~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~

二階堂まや
恋愛
王国の第三王女ルイーセは、女きょうだいばかりの環境で育ったせいで男が苦手であった。そんな彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、逞しく威風堂々とした風貌の彼ともどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。 そんなある日、ルイーセは森に散歩に行き、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。そしてそれは、彼女にとって性の目覚めのきっかけとなってしまったのだった。 +性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が全面協力して最終的にらぶえっちするというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。

処理中です...