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光の人生:ルミ視点
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私はルミ。本当はルミエールって言うんだけど皆私をルミと呼ぶの。
私は遊郭の一番人気の遊女と客との間に産まれた子。身請けすると約束していたにも関わらず私が産まれると分かったと同時にその男は逃げたらしいので父親は誰か分からない。それから私はずっと遊郭の下働きとして働いている。母親の情後の清掃だってもう慣れたもんだ。
「ルミちゃん、ほら、お小遣いあげるから遊んできなさい」
遊郭の仕事は夕方から始まり、十二時頃にはピークを迎える。その後はほとんどが泊まりの客なので朝まで部屋から出てこない。私はその間に睡眠を取る。朝起きてすぐに遊女たちの部屋を清掃し、その遊女たちは仮眠を取るのだ。その時間にいつも母は気だるそうにしていて、母の仮眠の邪魔をしてはいけないので外に出掛けていった。私が向かう先はいつもあの劇場だ。
『嗚呼、君の瞳に僕を写しておくれ』
『愛してるわ、ロミオ』
『ああ、僕も君を愛してる。君がいない人生なんて、死んだほうがましだ』
何度も見ているのでセリフはもう一字一句覚えた。私は舞台が終わると外の公園でその舞台を一人で演じて遊ぶのだ。
「嗚呼、君の瞳に僕を写しておくれ」
「・・・ああ、僕も君を愛してる。君がいなければ死んだほうがましだ」
私は役になりきり公園に設置してあるマーメイドの銅像を相手役に、ロミオ役が演じたように手を差しのべ、セリフを言った。
ーーパチパチパチパチーー
「お上手ね、お嬢ちゃん」
そこには今までで見たことのないような凛とした美しい女性が立っていて、私に向かって拍手をしていた。
「あ、ありがとうお姉さん」
「あなた、いつもあの劇団に見にきているわよね。あなたは劇が好きなのかしら?」
「うん、とっても好きよ!」
小さい頃から劇を見るたびに嫌なことを忘れさせてくれた。父がいなくても、母が遊びに連れてってくれなくても、劇のようなお姫様になることを妄想すれば、元気になれた。
「あなた、劇団の試験受けてみなさいよ。もうすでに顔が良いもの。きっと合格するわよ」
「でも、私お仕事あるし、お母さん一人にしちゃったら可哀想だわ」
「・・・そう、残念ね。もし気が変わったら、このブローチを持って劇団の裏に行きなさい。誰かに見せれば試験をしてくれるわ」
そう言って彼女は私にブローチを渡した。
それから数ヶ月。変わらぬ日々を過ごしていたのだが、今日は少し違った。
私は昼間少し早く母の部屋に入ろうとしたのだが、見知らぬ男が裸で母の隣に寝ていたのだ。
(こんな時間まで、お客さん??)
私はそっと部屋を覗いた。
「あなたの娘、とても可愛く育ってるのよ。私にそっくりでこの街一の美人になるわね」
「その話はよしてくれ。遊女との間に娘がいるなんてバレたら俺は終わりなんだよ」
「あら、じゃあ娘はどこかに捨てましょうか?私とまた一緒になりましょう?私あなたのことが忘れられないの」
「じゃあ他国に性奴隷として売ろうか。少女を高く買い取ってくれるところもあるからな。お前の娘だ。きっと大金が入るだろうよ」
ーーガチャンーーー
手に持っていたポットを落としてしまった。はっと母とその男は私が覗いていたことに気づく。私は母とこの男がまるで怪物のように思えた。
(怖い怖い怖い怖い)
私は恐怖で外へと全速力で走っていった。
ーーはあ、はあ、はあーーーー
後ろを振り返るとそこには親子が出店のクレープを頬張ったり、カップルが楽しそうに歩いていたりと、平和な風景が流れていた。誰も追いかけて来る様子はないようだが、急に孤独感が駆け巡った。
「ひっく・・・ひっく・・・」
涙がとめどなく溢れてくる。愛してくれてると思っていた母、そして実は自分の父は隣国の王子様なのかもしれないと妄想して現実逃避していた本当の父の姿、一気に現実を思い知らされた。
(あ~あ。私には愛してくれる父も母もいないのね。私、独りになっちゃった)
逃げてきてしまったのでどこにも行くところがなくなってしまった。何も持っていないし、私どうすればいいの?
ーーチャリンーー
ポケットから公園で会ったときに会った女性に貰ったブローチが出てきた。
“あなた、劇団の試験受けてみなさいよ”
“もし気が変わったら、このブローチを持って劇団の裏に行きなさい”
女性からの言葉が甦り、涙をぬぐって前を向いた。もう過去は捨てよう。そして幸せの物語の主人公になるの。
「私、この国で一番の女優になってみせるわ」
ルミが女優に、そしてブローチを渡してくれた女性(後にこの国の正妃と判明する)の諜報員になるべく時が進みだした瞬間であった。
私は遊郭の一番人気の遊女と客との間に産まれた子。身請けすると約束していたにも関わらず私が産まれると分かったと同時にその男は逃げたらしいので父親は誰か分からない。それから私はずっと遊郭の下働きとして働いている。母親の情後の清掃だってもう慣れたもんだ。
「ルミちゃん、ほら、お小遣いあげるから遊んできなさい」
遊郭の仕事は夕方から始まり、十二時頃にはピークを迎える。その後はほとんどが泊まりの客なので朝まで部屋から出てこない。私はその間に睡眠を取る。朝起きてすぐに遊女たちの部屋を清掃し、その遊女たちは仮眠を取るのだ。その時間にいつも母は気だるそうにしていて、母の仮眠の邪魔をしてはいけないので外に出掛けていった。私が向かう先はいつもあの劇場だ。
『嗚呼、君の瞳に僕を写しておくれ』
『愛してるわ、ロミオ』
『ああ、僕も君を愛してる。君がいない人生なんて、死んだほうがましだ』
何度も見ているのでセリフはもう一字一句覚えた。私は舞台が終わると外の公園でその舞台を一人で演じて遊ぶのだ。
「嗚呼、君の瞳に僕を写しておくれ」
「・・・ああ、僕も君を愛してる。君がいなければ死んだほうがましだ」
私は役になりきり公園に設置してあるマーメイドの銅像を相手役に、ロミオ役が演じたように手を差しのべ、セリフを言った。
ーーパチパチパチパチーー
「お上手ね、お嬢ちゃん」
そこには今までで見たことのないような凛とした美しい女性が立っていて、私に向かって拍手をしていた。
「あ、ありがとうお姉さん」
「あなた、いつもあの劇団に見にきているわよね。あなたは劇が好きなのかしら?」
「うん、とっても好きよ!」
小さい頃から劇を見るたびに嫌なことを忘れさせてくれた。父がいなくても、母が遊びに連れてってくれなくても、劇のようなお姫様になることを妄想すれば、元気になれた。
「あなた、劇団の試験受けてみなさいよ。もうすでに顔が良いもの。きっと合格するわよ」
「でも、私お仕事あるし、お母さん一人にしちゃったら可哀想だわ」
「・・・そう、残念ね。もし気が変わったら、このブローチを持って劇団の裏に行きなさい。誰かに見せれば試験をしてくれるわ」
そう言って彼女は私にブローチを渡した。
それから数ヶ月。変わらぬ日々を過ごしていたのだが、今日は少し違った。
私は昼間少し早く母の部屋に入ろうとしたのだが、見知らぬ男が裸で母の隣に寝ていたのだ。
(こんな時間まで、お客さん??)
私はそっと部屋を覗いた。
「あなたの娘、とても可愛く育ってるのよ。私にそっくりでこの街一の美人になるわね」
「その話はよしてくれ。遊女との間に娘がいるなんてバレたら俺は終わりなんだよ」
「あら、じゃあ娘はどこかに捨てましょうか?私とまた一緒になりましょう?私あなたのことが忘れられないの」
「じゃあ他国に性奴隷として売ろうか。少女を高く買い取ってくれるところもあるからな。お前の娘だ。きっと大金が入るだろうよ」
ーーガチャンーーー
手に持っていたポットを落としてしまった。はっと母とその男は私が覗いていたことに気づく。私は母とこの男がまるで怪物のように思えた。
(怖い怖い怖い怖い)
私は恐怖で外へと全速力で走っていった。
ーーはあ、はあ、はあーーーー
後ろを振り返るとそこには親子が出店のクレープを頬張ったり、カップルが楽しそうに歩いていたりと、平和な風景が流れていた。誰も追いかけて来る様子はないようだが、急に孤独感が駆け巡った。
「ひっく・・・ひっく・・・」
涙がとめどなく溢れてくる。愛してくれてると思っていた母、そして実は自分の父は隣国の王子様なのかもしれないと妄想して現実逃避していた本当の父の姿、一気に現実を思い知らされた。
(あ~あ。私には愛してくれる父も母もいないのね。私、独りになっちゃった)
逃げてきてしまったのでどこにも行くところがなくなってしまった。何も持っていないし、私どうすればいいの?
ーーチャリンーー
ポケットから公園で会ったときに会った女性に貰ったブローチが出てきた。
“あなた、劇団の試験受けてみなさいよ”
“もし気が変わったら、このブローチを持って劇団の裏に行きなさい”
女性からの言葉が甦り、涙をぬぐって前を向いた。もう過去は捨てよう。そして幸せの物語の主人公になるの。
「私、この国で一番の女優になってみせるわ」
ルミが女優に、そしてブローチを渡してくれた女性(後にこの国の正妃と判明する)の諜報員になるべく時が進みだした瞬間であった。
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