王子の影と王妃の光

ほのじー

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影の人生:レン視点

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俺の名前はレン。しかし、今やその名を呼ぶものはいない。

俺は小さい頃わりと裕福な暮らしをしていた。学校も行き、習い事も武術や剣道などを嗜み、運動好きな少年であった。しかし東の国の戦争が始まるや否や父親は死に、行き場をなくした母は俺を連れてボロボロになりながらこの国に逃れてきた。母親はこの国に着いて数ヶ月で体調をくずし、あっけなく俺を置いて亡くなった。

それから身寄りのない俺はスリをして生活していた。見つかって連れていかれたり鞭で叩かれたりする子どもを見ることがあったが、俺は武道の心得もあったので体は軽く、身を隠すことが上手いので幸いなことに、一度も捕まることはなかった。

そんなある日のこと、平民の服を着たキラキラした男の子が街を歩いているのを見かけた。


(お貴族様が平民のふりして歩いてやがる。バレバレだっつーの)


その黄金の髪は美しく靡き、服装は地味ではあるが、オーダーメイドで作ったであろう彼の為に制作された靴を履いていた。

それに目をつけたゴロツキたちは、彼に狙いを定めているのが見えた。奴隷は禁止されているが、裏で取引されるルートがあることを知っている。

(子どもを狙うなんて、嫌なことしやがる)

俺はスリなんてことをしているが、子どもを害するような曲がった奴らは嫌いだ。今までも、もし子供が襲われそうになっていたら助けてあげた。俺は逃げ足が早いので助けてやったら反撃される前にすぐに身を潜めた。

金持ちそうな少年が道の角を曲がり、人通りの少ない路地に入った瞬間、ゴロツキがそいつめがけて追いかけていった。


(あの通りは行き止まりだ!あれじゃ、すぐ捕まっちまうじゃねーか!!くそっ、助けてやれるかな・・・)


不安になったが、俺も後ろに続く。


ーヒュン!


(は・・・??)

その路地に入ると、ヒュンーーヒュンーーと、刃物が何かを切り裂く音が聞こえていた。その音に合わせてぶわっと不自然な風が吹いている。


その風は黒をまとっているようで、何本もの黒い線が残像として残ってその動きをとらえることができないでいた。


「ぐあぁ!!」
「ぐう!!」


何が起こっているのか分からないが、風が吹くたびにゴロツキたちに一つ、また一つと赤い傷が付いていっていた。

「お兄さんたち、僕のこと追っかけて何しようとしてたの?」

先ほどのキラキラした少年がゴロツキに向かって無邪気な笑顔を向けていた。こんな大きい大人に対峙しても怖がる様子はない。その堂々としたたたずまいは、少年なのにもかかわらず、この国を征服できるかのような威厳があった。


「こんにゃろ!!」


その男の一人が刃物を少年に振りかざした。俺は必死になって走り、男の刃物を持った手を蹴り上げようとしたが、それより先に誰かがその男の手を切りつけた。それと同時に黒い風がピタッと止み、その風は一人の黒ずくめの男の姿となっていた。


ーーカランカランーーーー


刃物が地面に落ちる音がした。


気づくとゴロツキは皆気絶していた。俺はさっきの風はこの目の前の男の動きが速すぎて凡人の俺らには動体視力が着いていかなかったということを瞬時に理解した。


(すげぇ、こんな速く動けるなんで常人じゃねえや)


ゴロツキは紐で拘束され、街を護衛している騎士団によって連れていかれた。すると目の前の黒ずくめの男が俺に向かって話かけてきた。



「お前、孤児か」
「・・・ああ、そうだ。悪いかよ」


どこもかしこも破けた服を身にまとってガリガリに痩せた俺はどうみても孤児だった。俺は底辺の人間だ。

しばらく沈黙が続く。


(なんだ、孤児だからって話もしたくないってか?)


少年は面白そうに僕と黒ずくめの男を見ていた。男は確認するように少年と目を合わせ、頷きあった。



「お前も来るか?」
「は?」
「お前もこの小さい主人マスターを守らないかと俺は誘っているのだ」

黒ずくめの男は俺にこの少年の護衛みたいなもんをしないか言っているのだろう。この男は何故こんな孤児に勧誘するのか分からない。もしかすると貴族の暇潰しなのかもしれないし、奴隷のように働かされるんかもしれない。しかしもう俺は底辺にいる。


(地獄でもどこでも行ってやるさ)


「ああ、俺も一緒に連れてってくれ」


それが俺が少年(後にこの国の王子と判明する)のシャドウとなるべく、時が進みだした瞬間であった。

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