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初めての戦地
しおりを挟む「セル副団長、お願い、目をさまして・・・!!」
レイはセルの服からドクドクと滲み出る血を必死に両手で押さえていた。セルのいつも優しそうな顔には表情はなく、死神のように顔は青白い。簡易ベッドの上でセルは生死をさ迷っていた。
(神様・・・お願いします・・・彼を助けてっ・・・!!)
+++
~半日程前に遡る~
レイが今朝いつものように出勤し、平和に仕事をしていたところで、最悪なニュースが飛び込んできた。
『国境付近でゴールドロッド王国の兵士たちが攻めいってきています!!』
『皆のもの、準備を!!』
(・・・なんでこんな急にっ・・・)
最近は平和になっていたこの国に水害で食料が不足した隣国が攻めいってきたようだ。第二騎士団員たちはすぐに準備に取りかかり、レイも皆の準備の手伝いで忙しく動いていた。
「レイ・・・お前は後衛部隊の医務隊員たちのサポートにまわっていてくれ」
「は、はい・・・!!」
「大丈夫。第二騎士団に勝てない敵はいないから・・・安心して待ってて、レイちゃん」
こういった状況に慣れていないレイの様子にジェイクとセルがレイに安心させてくれる言葉をくれた。こんな状況でも末端の人間である自分を心配してくれる二人にレイは涙が出そうになる。
(駄目だ・・・ちゃんと笑顔で見送らないと・・・)
「・・・っ・・・私に仕事の紹介状書いてからじゃないと・・・死ぬのは許しませんからね・・・」
「ふっ、分かってる。ちゃーんと帰ってきて、お前にいっぱい仕事させないとな」
「あはは、レイちゃん言うねぇ」
ジェイクとセルはレイが大丈夫であると察したのだろう、二人は団員たちを引き連れ、戦地へと向かっていった。
(・・・彼らが無事帰ってきますように・・・)
レイは天に祈った。
+++
(これが・・・現場・・・)
仮設の医務テントに生臭い血の匂いが充満している。既に医師たちは数人の怪我をした騎士たちを治療に当たっていた。状況は悪いらしく、他の騎士団たちが応援に駆けつけているようだ。
(ジェイク団長・・・セル副団長・・・本当に大丈夫かしら)
そう不安に駆られていると、ポツポツと怪我をした団員たちが運ばれてくる。皆命を亡くす程の怪我ではなく、安心して治療を手伝っていた。しかしその様子も徐々に変化していく。
「早く・・・早く治療をお願いします!!」
深刻な怪我人たちが増えてきたところで、若い騎士が焦った表情で一人の男性を背負いながら医務テントの中に入ってきた。背中には一人の団員がグッタリとしており、血も大量に流れていた。医師も急いで手術の準備に取りかかっている。
「え・・・セ、セル副団長・・・!!」
(なんで・・・なんで・・・)
瀕死になって倒れている男がセルであることに気がついた。彼を運んできた騎士の説明によると、ジェイクが新人の騎士のミスをカバーしていた際に敵がジェイクを後ろから切りつけようとした。それをセルが庇い、剣はグサリと刺さってしまったそうだ。そしてジェイクはセルの怪我に動揺しながらも戦い続けている。
(そんな・・・こんな血を流したら・・・死んじゃう・・・)
レイは医者の指示に従い、ガーゼをセルのお腹に押し付けた。すぐにガーゼは赤く染まるも、レイは必死に出血部分を圧迫したりと手伝いながら医者が治療するのを見守った。数時間後、医者が手を止め手術用の手袋を外した。
「やることはやった・・・あとは彼の回復力次第だ」
医師はそう言って他の団員の治療に当たる。レイはセルのベッド脇で彼の手を握った。
「お願い・・・セル副団長・・・死なないで・・・」
レイは涙を流しながら祈った。
「セル副団長が死んだら・・・ジェイク団長がどんだけ悲しむと思ってるんですか・・・愛してるんでしょう?」
レイはゲームの中の彼を思い出した。
「あんな運動好きで、性欲だらけの男・・・セル副団長以外に誰が相手してくれるっていうんですか・・・普通の人は体壊れちゃいますからね」
レイはセルの綺麗な顔に付いた血を拭った。こうやって見ると、本当に天使が眠っているようである。日も暮れ、戦いは明日まで掛かりそうだと言っていた。レイも少しは寝るように言われたが、レイは魘されて高熱を出すセルの横で額の冷たいタオルを何度も交換しながら、その場を離れなかった。
+++
(ん・・・あれ・・・少し寝ちゃってた)
夜中何度も魘されるセルに、レイが知るジェイクの話を聞かせてあげた。するとセルの呼吸は落ち着き、深い眠りに落ちるのだ。何度もそうしているうちに、レイもセルの側の簡易ベッドの横で寝てしまったようだ。少し出てしまった涎をゴシゴシと手の甲で拭きながらセルの様子を確認しようと顔を上げると、セルがレイを見ていた。
「おはよう・・・レイちゃん」
(え・・・セル副団長・・・目を・・・目を覚ましてる・・・夢?夢なの?)
レイは目を擦り、瞬きを何度もする。やはりそこには目を覚ましたセルがいた。セルは弱々しい様子なのにも関わらずレイに安心させようとしたのか、ニコリと笑顔を見せた。レイはたまらなくなり、涙腺が崩壊する。
「セ・・・セル副団長!!生きてた!!良かった!!うわ~~ん」
「僕が・・・そんな簡単に死ぬ分けたないじゃない」
レイは号泣した。セルは鼻水が出るのも気にせず号泣するレイが可笑くて笑っている。それでお腹に力が入ったのか、セルの顔が歪んだ。
「・・・痛っ」
「あ・・・そうだ、お医者様呼んできますね!!」
医者がセルをチェックする。この様子だと、彼は大丈夫そうだと言っていた。
──バンッ
医務テントに一人の騎士が歓びの表情で入ってきた。
『ジェイク団長が、一人で敵地に乗り込んで敵軍を全滅しました!!』
『おおおおおおおおおおお!!』
怪我をした兵士たちのうなり声のような低い歓声があかった。多くの兵士が涙を流している。
(よかった・・・よかった・・!!)
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