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ガイル⑲

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「私は男色家なんです」


この国で男が男を愛することは神の意思に反するものだと言われているが、少なからずそういう人がいることをガイルは知っている。特に戦時中、軍人は男性しかいないので、性欲は男性同士で満たしている者もいた。


「私と、同僚のマックスは付き合っていました。戦争が終わって、同性婚が認められるようになれば良いなと話していた矢先に、あの作戦で彼は死にました・・・」
「そんなことが・・・何もできんですまなかった」


ガイルは頭を下げ、ランクスに謝った。


「いえ、あなたの作戦は大胆でしたが、勝機はありました。戦争に勝つには必要だった作戦だったと思います。確かに・・・はじめは恨んでました」
「そうか・・・」
「でも、あなたが酒と女に溺れているところを見て、あなたを恨むのは違うと思ったんです」


ランクスはちらりとヴェール伯爵の死んだ顔を見た。


「ヴェール伯爵の軍隊が、援軍として来なかったことに気付き、私は証拠を掴もうと彼に近づいたんです。確かな証拠はありませんでしたので、何もすることはできなかったですが・・・」
「・・・そうだったのか」
「そして今夜、とうとう彼の口から真実を聞きました。しかも貴殿方のように愛し合う者同士を再び引き裂こうとする彼をどうしても許せなかった・・・」


ランクスは手を強く握りしめた。爪が肌に食い込み、血がダラダラと流れている。


「これで、私は過去の精算ができました。マックスに、会いに行ける・・・」


ランクスは拳銃を再び手にし、銃口を自身の頭に向けようとした。


(やめろ!!)


ガイルは手を伸ばし拳銃を奪った。ランクスはその拳銃を取り戻そうとするも、ガイルの方が力があり、奪い返せない。


「お前が死ぬなんて、俺が許さない!!生きて、生き抜いて、年老いてから会いに行けば良いじゃないか」
「シーガル伯爵・・・」
「君は、私の愛するサラを助けてくれた恩人だ・・・君に悪いようにはさせない。きっとマックス君も、君には生きてほしいと思っているはずだ」


ランクスは涙を流した。まるで雄叫びのような嗚咽が、長い間鳴り響いた。







「ありゃ、トラブルはご免だと言っただろう、シーガル伯爵」


女将が部屋に入ってくる。そこに血を流しながら倒れて死んでいる男と、涙を流す男を見て事情を察したようだ。


「すまない、女将さん、問題にならないよう秘密裏で処理しとくから」
「口止め料も要求するからね」
「ああ・・・分かってる」


女将は涙を未だに流すランクスを落ち着かせるため、彼を別部屋に移した。女将はお茶に睡眠薬を少し入れたそうで、今はすやすやと眠っているそうだ。


「しつこい客を寝かしつける娼館の技だったがね、彼には今それが必要だったようだから」
「すまない、助かった」
「太客を失っちまったから、客の紹介も頼むよシーガル伯爵」
「・・・ああ、分かった」
「サラはあの部屋にいるよ」


女将が示したのは彼女の絵を見せてくれたあの部屋である。ガイルの屋敷を出てから彼女はその部屋で生活していたそうだ。


(確かにあの部屋は、彼女のラベンダーの匂いがしたな)


ガイルは愛しい人のいる部屋へと向かった。
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