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サラ⑯

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「あら、素敵な絵ね」
「ありがとうございます、セイラさん」


あれから何日経っただろうか。ヴェール伯爵が彼の領へ戻る際に彼と一緒に向かうこととなっていたが、それまでは外に出なければ自由にして良いと言われた。何か欲しいものはないかと聞かれ、サラは絵を描きたいと言った。すぐに絵の具と画板が届けられ、サラは窓から見える空を描いていた。


「今度は私も描いてほしいわ」
「勿論です」


この建物は貴族の秘密の商談向けの場所で、ヴェール伯爵も軍の人間と内緒話をしているようだった。話が終われば娼婦が呼ばれ、いやらしいゲームや話で盛り上がっていた。サラはヴェール伯爵の横で酒を注ぎ、時々キスをされるもそれ以上まだ手を出してくることはなかった。


「君とはじめてするのは、私の屋敷の薔薇の庭でと決めているからね。自慢の庭なんだ。君もきっと気に入るよ」


そう言ってヴェール伯爵はサラの髪を撫で、サラにキスをする。無抵抗に受け入れた彼の口からアルコールの味がした。ガイルの口からもアルコールの味がしたが、彼からは甘くて体が疼くような味がした。


「でも、きちんと休憩もなさいな。あなたはヴェール伯爵の愛人になるのだから常に綺麗にしておかないと・・・」


セイラはこの場所の女将で、サラの面倒を見てくれていた。彼女はたくさんのサラのような不幸な女性を見てきたのか、彼女の言葉はいつもサラに突き刺さった。


「おや、この絵は・・・あんたの好い人かい」
「っ・・・」


サラは彼の顔を覚えていたいと、ガイルの絵を描いたのだ。何度も何度も描き直し、一番上手く描けたのが、彼がサラを見つめる優しげな顔だ。


「イイ男だね・・・」


セイラはサラの絵を見てそれ以上言及しなかった。未練がましく昔の男の絵を描くのは良くないと叱らない彼女は、サラの心を尊重してくれているようで、やはり良い人だなと思う。



「さ、夜になるよ。絵の具で汚れた服を着替えな」


そんな日々が一日一日と過ぎていった。


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