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サラ②

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(なんてこと、なんてことしてしまったの)


サラは布団の中で涙を流していた。流れ落ちる涙は枕にぐっしょりと濡れていた。



(私は何て浅はかなことをしてしまったのかしら)


部屋に入って、すぐに彼女の存在がバレてしまった。彼は元軍人で英雄である。彼女なんかがナイフを持っていたってすぐに奪われ、右手だけで彼女を殺めることができるであろう。



(ナイフの存在がバレなくて良かったけど・・・あと一歩で殺されてたわ)


彼の殺気はサラの体を震えさせる。今でも体の震えは止まらず、布団の中でブルブルと震えているのだ。



(義兄さんに、連絡しとかないと・・・)



サラはよろよろと机に座り、手紙をしたためた。


(目をつけられてしまった以上、義兄に頻繁に連絡するのは危ないわ)


今日起こったこと、しばらく様子を見るので連絡は落ち着くまではしないように義兄に書き綴る。手が震え、いつも書くような字は書けなかったが、なんとか最後まで書き終えた。



(私、舐めていたわ)


面接で彼は酔っぱらっており、その瞳孔や動作からアルコール中毒であることが伺えた。夜中に彼の寝室に忍び込み、彼の心臓にナイフを一刺しすることが容易に思えたのだ。


(あの威圧感・・・さすがは提督まで上り詰めた男だわ)


サラは自身の意思で身体を一ミリも動かすことができなかった。それにも関わらず震えは止まらず、絶えず小刻みに動いていた。今でも彼に押された首から熱が取れないようだ。


(明日痣になっていなければ良いけど・・・)


拭っても拭っても涙は枯れず、眠れぬ夜を過ごした。







(やっぱり、痣になってるわ)


首もとに赤黒い跡がついている。首にスカーフを巻いた。痛みは少ないが、声が渇れているようだ。寝不足で目の下には隈ができており、酷い顔であると思ったが、化粧で誤魔化した。


「あら、サラ先生風邪ですか?」
「少し喉が乾燥しているだけですわ、ありがとうレイナ様」


サラを心配する様子のレイナにサラは微笑んだ。


(本当に良い子だわ・・・彼女の従兄とは大違いね)


今日は彼女に歌を教える予定だったが、サラの声がこの状態なので、庭でお茶会でのマナーを教えるのに変更となった。


「そんなに一気に飲まず、口を潤ませる程度で飲むのですよ」
「はい、サラ先生」


(あら、これ生姜茶だわ)


レイナが飲んでいるお茶は一般的な紅茶であるはずだ。サラのテーブルにはなぜか生姜茶がセッティングされてある。ふと後ろを向くと、秘書であるトムが使用人に指示をしているのが見えた。


(彼が準備したのかしら。昨日のことを聞いて私のこと監視してるの?)


もしかすると彼は昨日のことをガイルに聞いて彼女を監視しているのかもしれない。そして声がこの状態だとレイナに歌も教えられないので、急いでこんなものを用意したのだろう。
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