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三章:大人
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「寒いか?」
冬になりかじかむリリィの手をヴィンセントが握りしめた。小さい頃はいつもこうして歩いていたのだが、大人になって手を繋ぐのは少し恥ずかしい。
(ヴィーの手すごくゴツくて暖かい)
暗がりを二人は無言で歩く。
「明日から残業はしばらくないみたい」
「そうか・・・」
毎日リリィを安全に送ってくれていたのだが、もうそれも今日で終わる。家の前で名残惜しそうに手が離された。
「リリィ、今度の連休、一緒にルナ地区に行かないか」
「ルナ地区・・・?」
「ああ、戦争の後、前にあの土地を賜って言ったの覚えてるか?あそこの復興作業を進めてるんだがカイルと一緒に少し状況を見てこようと思うんだ。リリィもどうだ?」
「でも・・・」
「リリィと出会ったあの森にも行ってみたいと思ってる」
ルナ地区は東の国との元国境沿いにあり、リリィがヴィンセントと出会った森も今ではイーストランドの土地でヴィンセントが所有している。戦後土地を頂いたそうだ。ヴィンセントは領地経営には興味がなくカイルや代理人に任せているのだが、ルナ地区はリリィとの思い出の場所だからその場所だけ経営にも関わっていると以前言っていたのを思い出す。
(行っていいのかな)
迷うリリィにヴィンセントは一言添える。
「ルナ地区は今苺が旬だからいっぱい食べれるぞ」
「うっ・・・」
リリィが苺に目がないことをヴィンセントは知っている。ヴィンセントはさらに止めの一言を告げる。
「夜はルナフェスティバルっていうお祭りもあるから楽しいだろうなぁ」
「ぅうう・・・」
リリィはきらびやかな貴族のパーティーより、平民のお祭りの方がよっぽど好きなのだ。辛いことも忘れて食べて騒ぐ様子はどこか懐かしい思いがあった。
(今思えば、ニホンのお祭りに似てるから好きだったんだなぁ)
リリィが小さいときに両親に連れていってもらったお祭り。記憶はおぼろ気だが、盆踊りや出店のキラキラして活気のある雰囲気がリリィのお気に入りだった。
「・・・分かった、行く」
「じゃあまた詳細は後日伝えるな」
ヴィンセントはしてやったりといった顔でリリィにいつものように額にキスをして帰っていった。
(・・・なんだか負けた気分)
もうすぐイーストランドで一番長い連休が始まる。皆無事に冬を越せるように準備をしたり、お祈りをするのだ。その休みを使いルナ地区へ行く。
(分厚いコート用意しとかないと)
ルナ地区へ行くのを楽しみにしてしまっている自分が妙に悔しかった。
冬になりかじかむリリィの手をヴィンセントが握りしめた。小さい頃はいつもこうして歩いていたのだが、大人になって手を繋ぐのは少し恥ずかしい。
(ヴィーの手すごくゴツくて暖かい)
暗がりを二人は無言で歩く。
「明日から残業はしばらくないみたい」
「そうか・・・」
毎日リリィを安全に送ってくれていたのだが、もうそれも今日で終わる。家の前で名残惜しそうに手が離された。
「リリィ、今度の連休、一緒にルナ地区に行かないか」
「ルナ地区・・・?」
「ああ、戦争の後、前にあの土地を賜って言ったの覚えてるか?あそこの復興作業を進めてるんだがカイルと一緒に少し状況を見てこようと思うんだ。リリィもどうだ?」
「でも・・・」
「リリィと出会ったあの森にも行ってみたいと思ってる」
ルナ地区は東の国との元国境沿いにあり、リリィがヴィンセントと出会った森も今ではイーストランドの土地でヴィンセントが所有している。戦後土地を頂いたそうだ。ヴィンセントは領地経営には興味がなくカイルや代理人に任せているのだが、ルナ地区はリリィとの思い出の場所だからその場所だけ経営にも関わっていると以前言っていたのを思い出す。
(行っていいのかな)
迷うリリィにヴィンセントは一言添える。
「ルナ地区は今苺が旬だからいっぱい食べれるぞ」
「うっ・・・」
リリィが苺に目がないことをヴィンセントは知っている。ヴィンセントはさらに止めの一言を告げる。
「夜はルナフェスティバルっていうお祭りもあるから楽しいだろうなぁ」
「ぅうう・・・」
リリィはきらびやかな貴族のパーティーより、平民のお祭りの方がよっぽど好きなのだ。辛いことも忘れて食べて騒ぐ様子はどこか懐かしい思いがあった。
(今思えば、ニホンのお祭りに似てるから好きだったんだなぁ)
リリィが小さいときに両親に連れていってもらったお祭り。記憶はおぼろ気だが、盆踊りや出店のキラキラして活気のある雰囲気がリリィのお気に入りだった。
「・・・分かった、行く」
「じゃあまた詳細は後日伝えるな」
ヴィンセントはしてやったりといった顔でリリィにいつものように額にキスをして帰っていった。
(・・・なんだか負けた気分)
もうすぐイーストランドで一番長い連休が始まる。皆無事に冬を越せるように準備をしたり、お祈りをするのだ。その休みを使いルナ地区へ行く。
(分厚いコート用意しとかないと)
ルナ地区へ行くのを楽しみにしてしまっている自分が妙に悔しかった。
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